消費者庁VS大幸薬品(7) 地裁の決定覆した東京高裁、軍配は消費者庁に
「1審相手方(消費者庁)の本件抗告に基づき、原決定中1審相手方の敗訴部分を取り消す。上記取り消し部分につき、1審申立人(大幸薬品)の申し立てを却下する」
これは、大幸薬品㈱(大阪府吹田市、柴田高社長)が販売する空間除菌剤『クレベリン置き型』2品(60g・150g)をめぐり、東京地裁が1月12日に認容した「措置命令の仮の差止」に対して東京高等裁判所が4月13日に行った決定である。高裁は、消費者庁が仮の差止の取り消しを求めて起こしていた「不当景品類及び不当表示防止法に基づく措置命令処分仮の差止め申立一部却下決定に対する抗告事件」について、消費者庁の主張を認め、地裁の決定を覆した。
これを受けて消費者庁は4月15日、クレベリン置き型2品に対しても措置命令を出した。
「表示に合理的根拠があると自信をもって販売してきた」(広報部)とする同社だが、5月3日にホームページでお詫びの告知を掲載。取材に対し、今回の決定に対して「争うつもりはない」と述べている。現在、クレベリンシリーズのパッケージ表示の差し替え作業を行っている。今年1月20日に行われた措置命令から約3カ月続いた同社と消費者庁との争いに、これで終止符が打たれることとなった。
東京高裁の決定書に従って、同事件の顛末を整理しておこう。
前もって断っておかなければならないことがある。地裁で争われた争点の1に「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるか否か、本案について理由があると見えるときに該当するか否か、公共の福祉に重大な影響を及ぼす恐れの有無及び適法な差止の訴えが提起されたか否か」など、大幸薬品の財務内容に関する議論が行われたが、本論では同社が「クレベリンシリーズ」で行った表示について、その合理的根拠が示されたかどうかに焦点を絞ることにする。
「不実証広告規制に関する指針」に基づき根拠を説明
表示が合理的根拠として認められるためには、「不実証広告規制に関する指針」に定められた(1)提出資料が客観的に実証された内容のものであること、(2)表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること――の2つの条件を満たす必要がある。
(1)の客観的に実証された内容というのは、① 試験・調査によって得られた結果、② 専門家、専門家団体若しくは専門機関の見解または学術文献――によって示さなければならず、試験・調査によって得られた結果を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合、当該試験・調査の方法は、表示された商品・サービスの効果、性能に関連する学術界または産業界において一般的に認められた方法か、関連分野の専門家多数が認める方法によって実施する必要がある。
その例として指針には、「日用雑貨品の抗菌効果試験について」とする記載があり、その内容について、「JIS(日本工業規格)に規定する試験方法によって実施したもの」、「学術界または産業界で一般的に認められた方法、関連分野の専門家多数が認める方法が存在しない場合には、試験・調査は、社会通念上および経験則上妥当と認められる方法で実施する必要がある」としている。
また、社会通念上および経験則上妥当と認められる方法とは、「試験・調査を行った機関が商品・サービスの効果、性能に関する表示を行った事業者とは関係のない第三者(例えば、国公立の試験研究機関等の公的機関、中立的な立場で調査、研究を行う民間機関等)」と説明。消費者庁はこれらを総合的に勘案して根拠の合理性を判断することになる。
②専門家、専門家団体若しくは専門機関の見解または学術文献というのは、「専門家等が、専門的知見に基づいて当該商品・サービスの表示された効果、性能について客観的に評価した見解、または学術文献であって、当該専門分野において一般的に認められているもの」、「専門家等が、当該商品・サービスとは関わりなく、表示された効果、性能について客観的に評価した見解または学術文献であって、当該専門分野において一般的に認められているもの」と説明されている。
「仮の差止」認容の根拠は?
ところで、大幸薬品が行った試験は(一社)日本電機工業会が発行している規格「JEM1467」付属書Dに準拠した試験方法である。なおかつ、同規格において公的な試験機関とされている(一財)北里環境科学センターで実施しているため、「産業界で一般に認められた方法」および「第三者による試験」であり、社会通念上および経験則上妥当と認められる方法」というガイドラインの要件を満たしている、と同社は主張した。
また、「湿度30%未満では二酸化塩素によってウイルスの除去効果は認められない」との消費者庁の見解に対して、「日本国内の平均的な湿度は平均60~70%とされている。室内でも30%未満になることはまれ」と反論、東京地裁に措置命令の仮の差止を申し立てた。
そこで同地裁は、(Ⅰ)「試験は学術界・産業界で一般的に認められた方法」、(Ⅱ)「全ての生活環境を再現した実空間試験は不可能」、(Ⅲ)「室内の湿度が30%以下の住宅は全体からすればごく一部」との判断を示し、大幸薬品の仮の差止の申立てを認容するに至った。
さて、これに対して高裁はどのような判断を示したのかが、関心の集まるところである。
(つづく)
【田代 宏】
(冒頭の写真:左から『クレベリン置き型』60gと150g)
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消費者庁、空間除菌商品に措置命令
YouTube動画:「クレベリン」シリーズの措置命令めぐり、消費者庁と大幸薬品が対立