消費者庁VS大幸薬品(5)
東京地裁は大幸薬品に軍配
1月12日、消費者庁の措置命令に対する大幸薬品の「仮の差止の申し立て」を東京地裁は認容した。争点とされているのは「空間に浮遊するウイルス菌を除去」という表示について合理的な根拠があるかどうかという点。
具体的には、(1)提出資料が客観的に実証された内容のものであること、(2)表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること――を消費者庁は求めている(不実証広告ガイドラインのポイント)。
ガイドラインには、日用雑貨品の抗菌効果試験についてとして「JIS(日本工業規格)に規定する試験方法によって実施したもの」とし、「学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法が存在しない場合には、当該試験・調査は、社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施する必要がある」(ママ)と規定している。
また、社会通念上および経験則上妥当と認められる方法とは、「試験・調査を行った機関が商品・サービスの効果、性能に関する表示を行った事業者とは関係のない第三者(例えば、国公立の試験研究機関等の公的機関、中立的な立場で調査、研究を行う民間機関等)」とし、消費者庁はこれらを総合的に勘案して根拠の合理性を判断するものとしている。
それに対して大幸薬品は、同社が行った試験は(一社)日本電機工業会が発行している規格「JEM1467」付属書Dに準拠した試験方法で、なおかつ、同規格において公的な試験機関とされている(一財)北里環境科学センターで実施しているため、「産業界で一般に認められた方法」および「第三者による試験」というガイドラインで定められた要件をじゅうぶんに満たしていると主張して譲らない。
確かにJEM1467では、「空気清浄機の浮遊ウイルスに対する除去性能評価試験方法」として、インフルエンザウイルスなどの除去性能試験を規定し、試験機関として北里環境科学センターと(一財)日本食品分析センターを指定している。
また、ウイルス・細菌・カビなどに対する除菌性能を評価する試験方法各種については、『日本防菌防黴学会誌43巻11月号』で北里環境科学センターの菊野理津子氏により、「室内環境を想定した浮遊微生物除去性能評価の現状」という研究報告が行われている。
それでも消費者庁は大幸薬品の主張を認めようとはしなかった。
「消費者庁は、全ての生活環境での実証データ、実生活空間での証明を求めてくる。でもそれは現実的に無理」と同社は反論。4月から10月までの間に行われた消費者庁との面談でも、「試験方法が確立されていないので合理的根拠ではない」と言う消費者庁に対して、「それではウイルス除去にどのような具体的な試験方法だったらOKなのか」と何度も確認したものの結局、具体的な指示は得られなかったと不満を示している。
そして消費者庁からは「湿度30%未満では二酸化塩素によってウイルスの除去効果は認められない」との指摘も行われたという。
大幸薬品は、「日本国内の平均的な湿度は平均60~70%とされている。室内でも30%未満になることはまれ」とし、最終的に訴訟を決意、東京地裁の判断を仰ぐことになった。
では東京地裁の判断はどうか。
地裁は、「試験は学術界・産業界で一般的に認められた方法」、「全ての生活環境を再現した実空間試験は不可能」、「室内の湿度が30%以下の住宅は全体からすればごく一部」との判断を示し、大幸薬品の仮の差止の申し立てを認容する結果となった。
「結論的に、置き型のクレベリンが実際の生活空間において浮遊するウイルスなどを除去する効果を有することが、合理的根拠資料によって裏付けられているということをはっきり認めていただいた」と主張する同社だが、消費者庁は1月20日に東京高裁に即時抗告しており、現在、係争中だ。
抗告書面では、どういう点で反論しているのか消費者庁に確認したところ、「国が訴えられている訴訟について担当者レベルでは答えられない」とのことだった。
一方の当事者である大幸薬品は「地裁の決定はかなりの短期間ながらしっかり認定していただいた。証拠を見ながら、時間のない中、しっかり判決文を書いていただいたし、これはなかなか反論が難しいのではないかという感触を持っている」としながらも、「ただ相手は国だから、どんなものが出てくるか正直わからない」と付け加えた。
「クレベリン」2商品については両社の争いはまだ続くが、措置命令を受けた4商品についてはどうか。措置命令を受けたとはいえ、大幸薬品は徹底抗戦の構えを見せており、自主回収は行っていない。実際、記者もドラッグストアで販売されているスプレータイプのクレベリンを6日、購入している。
同社は「製品自体には問題はなく、製品の表記には合理的根拠を有しているという見解に変わりはない」と強気の姿勢を崩さない。
(つづく)
【田代 宏】
(冒頭の写真:措置命令の対象となった商品)
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