消費者庁、「食と健康販売マニュアル」へ期待~食と健康セミナー
(一社)日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)と街の健康ハブステーション推進委員会がドラッグストアショーでオンライン開催した「食と健康セミナー」第2部では、「新型コロナ禍 健康ニーズの高まりに応える~DgSの健康情報を考える~」と題して、消費者庁と業界のキーマンを招いてパネルディスカッションを行った。JACDSの上席研究員・横田敏氏が司会を務めた。
JACDS自主基準「『食と健康』販売マニュアル」
パネルディスカッションでは、健康食品の販売方法および情報提供に関するJACDSの自主基準として、昨年6月に作成した「『食と健康』販売マニュアル」に基づき、ドラッグストア(DgS)による保健機能食品の機能性情報の提供のあり方を中心に議論が進んだ。
同マニュアルは、過去において食品メーカー主体に行われてきた店頭における健康食品の表示に対し、顧客との接触機会が多い店舗が主体となって表示にアプローチするとの考えから、厚生労働省や消費者庁とのミーティングを重ねた末に作成されたドラッグストア業界の自主基準。
司会の横田氏は冒頭、DgSが健康食品の表示について非常にナーバスになっていると紹介。ナチュラルメディシン・データベースに基づいた機能性表示なら大丈夫なのか?などの問合せが多い現状を説明した。
過剰に神経質になるあまり、結果的に消費者に適切な情報提供が行われていない実態を紹介した後、どのような店頭表示であれば可能なのか、消費者庁の田中誠室長に対し「何が良くて何が悪いのか」について助言を求めた。
国民に保健機能食品制度への理解を
田中室長は、販売マニュアル運用のポイントとして、「(国民に)国が定める保健機能食品制度について違いを理解してもらうことが目的」と述べた。これは売る側も買う側もである。特定保健用食品(トクホ)、栄養機能食品、機能性表示食品などの保健機能食品におけるカテゴリー分類をはじめ、保健機能食品といわゆる健康食品の違いを理解し、これらを「混同することなく陳列しなければならない」と述べた。
また、マニュアルにある機能別陳列にも言及、販売対象者は収縮期血圧140mmHg未満を対象としているために140を超える人には販売できない。「BMI(Body Mass Index)も30を超えると疾病なのでだめ」とした。
「成分の効果と対象者が誰か、何を目的にしているかを陳列場所で適切に伝わるようにするために、販売マニュアルについて整理するというのでさまざまな助言を行ってきた」とし、「イチョウ葉は中高年層でエビデンスを取っているので、若年層に売ってはだめ」など、その成分が何か、どういう効果が得られるのかというメッセージを的確に消費者に出していくように、DgS側に求めた。
ヘルスリテラシーの効果7,000億円
JACDS自主基準の合理的根拠に基づく情報源「ナチュラルメディシン・データベース」を運用する宇野文博氏は、「今回の自主基準は画期的。科学的根拠と安全性も併せて表示することにより、一般の消費者だけでなく、販売側もヘルスリテラシーを上げていくことができる」と高く評価。
我が国の機能性表示食品制度が参考にした米国のDSHEA(ダイエタリーサプリメント教育法)を例に引き、ヘルスリテラシーが上がることにより、「米国では8成分で7,000億円ほどの医療費の適正化に役立った」と、米国事情を紹介した。
これを受けてJACDSの田中浩幸事務総長は、(少子高齢化が進むわが国で)人口動態の予測に応じて国の生活様式も変わる。小売業という側面と同時に、国民の健康を促進するということでDgSの存在意義を高めたい。街の健康ハブステーションという取り組みのなか、(拠点としての)ハブだけではなくソフト面でも存在を高めていきたい、と抱負を語った。
一方、ウエルシアホールディングスの本橋勝氏はDgSが抱える課題に言及した。同氏は、「ポップ上の表示」、「売り子の教育知識レベル」、「接客レベルの低さ」を問題視。これらが原因で消費者は商品選択に迷っているのではないかとし、「それを補うために、顧客が選ぶ立場、そしてスタッフが勧める立場からも、表示やポップが必要」だと述べた。
実験店舗で売上が2.7倍に
宇野氏は、都内で行っている実証実験店舗におけるアンケート調査を紹介。消費者が店頭ポップの表示は本当なのか?企業の(誇大な)宣伝ではないかと疑いを持つ反面、商品の有効性に限らず、安全性に大きな信頼を寄せている現実を強調した。また、実験店舗では売上が平均で2.7倍に伸びているとし、「分かってもらうことができれば、売上もあがるのではないか」と述べた。
本橋氏は、店と情報提供者だけではなく、情報通信機器を駆使し、どういう商品をどういう意味合いで提供しているのか、食品の機能別に、誤解のないように伝えていきたい。そのためにはいろいろなツールを使って啓発することで消費者に認めてもらいたいと構想を語った。
健康な人が健康でいるための制度
消費者庁の田中室長は、「法規制を前提にすれば、健康食品は基本的に機能性がうたえないが、国の制度に則ればうたえる。(免疫機能のように)機能性をうたうことができる分野ができたということは一歩前進。国の制度もさまざまに広がっている。トクホでは、保健用途のカテゴリー別に公正競争マークが使えるようになった。
何よりもまず、国の制度に乗った商品を誰に伝えるか、継続的に使用することで効果が得られるわけだから、健康な人が健康でいられるという意味合いを伝達できる方法を皆さんで考えていただきたい。今後は、薬剤師やアドバイザーの専門性が問われる。皆さんの間でアイデアを出し合って突破口を見出してほしい」と奮起を促した。
DgSは消費者の良きアドバイザーに
続けて、個人的な見解と断った上で、「セルフメディケーションという意味では、DgSの担う役割は高い。(表示を)適正にしようというのを伝えるのは、パッケージだけでは難しい。究極は、飲み合わせの問題もあるし、医薬品との相互作用もある。健常人が対象なので、薬を飲んでいる人は摂取しないほうがいいと国は言っている。そういう場合、専門性を備えた第三者の助言があった方が良い。そういう第三者に聞いた方が良いのだと消費者が(自ら)思うようにしてほしい。企業(メーカー)の努力と、消費者が直かに触れ合うDgSの努力に期待したいし、学校の家庭科などでも専門家に相談したほうが良いという教育ができるようになればいいと思う。DgSはその受け皿になることができると思う」と、将来的にドラッグストアが担う役割に期待を寄せた。
(了)
【田代 宏】
(冒頭の写真:JACDSの資料より)