1. HOME
  2. 一般食品
  3. 消費者を惑わす無添加表示(後)~事業者のやりたい放題の化学調味料無添加

消費者を惑わす無添加表示(後)~事業者のやりたい放題の化学調味料無添加

食生活ジャーナリストの会 代表幹事 小島 正美

 「化学調味料無添加」。スーパーの棚でよく見かけるが、これほど悪質な表示は他にない。事業者は即刻、この表示を改めるべきだろう。
 なぜ悪質な表示なのか。実際に「化学調味料無添加」と表示されている「焼肉のたれ」を見てみよう。その原材料欄を見ると「昆布粉末」、「アミノ酸液」、「みそ」、「発酵調味料」(みりんの一種)などの表示がある。ちょっと考えればわかるが、昆布、アミノ酸液、みそ、発酵調味料のどれにも、うま味成分、つまり調味料が含まれている。ではなぜ、調味料を原材料に使っていながら、「化学調味料無添加」といった自己矛盾的な表示をしているのだろうか。

<化学調味料はグルタミン酸ナトリウム>
 それには「化学調味料」という言葉が生まれた経過を知る必要がある。
 そもそも化学調味料は、法律用語や行政用語でもなければ、食品業界の統一用語でもない。驚くなかれ、定義が存在しないのだ。元をたどれば、1960年代前半にNHKが料理番組で使ったのが始まりだ。食品メーカー「味の素株式会社」が生産する商品名の「味の素」を使えなかったため、NHKが「化学調味料」と言い換えたのだ。これはサトウキビなどを発酵させてつくったグルタミン酸ナトリウムのことだが、NHKが使い始めてからは、「化学調味料」という言葉が一般的な名称として定着してしまった。
 ところが、そのあとの1960年代後半、米国でグルタミン酸ナトリウムを大量に食べた人たちに頭痛やほてりなどの症状が起きたとする「中華料理店症候群」が学術誌に報告された。さらにその後、生まれたばかりのマウスに大量のグルタミン酸を皮下注射したら、脳内の神経細胞の一部に障害が起きたとする研究報告が出た。いずれも後に否定されたが、これらをマスコミが報じたため、化学調味料という言葉のイメージが悪化してしまったのである。
 こうした経過があって、いまも消費者に伝わる化学調味料のマイナスイメージを狡猾に販売促進に活用しているのが「化学調味料無添加」という悪質なマーケティング手法なのである。

<化学調味料はさらに幽霊のごとく変質>
 ここで不思議なのは、その化学調味料という言葉がさらに変質していることだ。複数の事業者に「化学調味料とは何か」を問い合わせてみた。すると、「アミノ酸系調味料のことです」、「調味目的で使用される食品添加物のすべてです」などの返答があり、定義がそれぞれ異なることが分かった。いつの間にかNHKが使った「化学調味料」ではなく、事業者が勝手に定義した言葉に変わっているのである。
 さらに、事業者だけでなく、消費者の頭の中も混乱しているようだ。「日本うま味調味料協会」が2020年度に行ったアンケート調査によると、消費者の約5~6割は「甘味料や酸味料、保存料、着色料、乳化剤なども化学調味料に入ると思う」と答えている。こうなると、もはや化学調味料はうま味成分のグルタミン酸ナトリウムとは似ても似つかぬお化けのような存在に変質したといってもよい。すべての混乱は、化学調味料の定義がないことから生じている。
 いうまでもなく、国際機関や米国食品医薬品局(FDA)などはグルタミン酸の安全性を確認しており、全く問題はない。そもそもアミノ酸の一種であるグルタミン酸は昆布、チーズ、トマト、ハクサイ、ハム、みそ、しょうゆなどさまざまな食品に含まれる。乳児が飲む母乳にも含まれる。トマトやチーズを食べるだけで、だれもがグルタミン酸を摂取しており、危険であるはずはない。
 これまでの説明でお分かりのように、「化学調味料無添加」は、消費者の無知に付け込む事業者の“売らんかな商法”の極みと言ってもよい。これを放置したら消費者庁のガイドライン検討会の見識が問われるだろう。
 あなたがもし「化学調味料無添加」という表示を見つけたら、「それしか訴えることがない、魅力に欠ける商品だ」と思ってほしい。

(了)

<筆者プロフィール>

1951年愛知県犬山市生まれ。愛知県立大学卒業後に毎日新聞社入社。松本支局を経て1987年から東京本社生活報道部で食の安全や健康・医療問題などを担当。2018年6月に退社。
現在は東京理科大学非常勤講師。食生活ジャーナリストの会代表。著書に「メディア・バイアスの正体を明かす」(エネルギーフォーラム)など多数。

TOPに戻る

LINK

掲載企業

LINK

掲載企業

LINK

掲載企業

LINK

掲載企業

INFORMATION

お知らせ