消費者を置き去りにしない制度設計を 【機能性表示食品特集】私はこう評価する
関西福祉科学大学 健康福祉学部 福祉栄養学科講師 竹田 竜嗣 氏
行き過ぎた広告も
機能性表示食品制度は、届出を行う事業者側から見ると、結構やる気になる制度だろう。これまでの一般の健康食品に比べて商売がやりやすい。一定のデータを取得しているため、いい加減な広告で販売しようとせずに、この制度に乗るからにはまじめにデータの裏付けを取らなければならないから、そういう意味で評価できると思っている。
一方、評価できない点とすれば、行き過ぎた広告か。私は機能性表示食品の広告を調べる機会が多いのだが、特にネット広告では行き過ぎた広告が数多く表示されている。スマートフォンでも、逸脱スレスレのような表現のものが最近増えた。消費者から見て、勘違いしてしまいそうな一線を越えた広告が増えると、真面目にやっている企業が大変迷惑する。一部が過激になると、その制度自体が悪者になってくるので、これは良くない傾向だ。
また、ここ2,3年は事業者から届出を早く公開してくれという要望に応じるあまり、消費者庁の形式チェックもあり方が変わったようである。中身を精査する仕方から、制度に合致していたらとりあえず公開するという、どちらかというと、事後チェックに依存するスタイルに傾いているように思われる。それだけに、事業者にしてみれば事後チェック指針に引っかかる可能性も大きくなっているということだろう。
事業者の心構えが大事
消費者庁は3月、認知機能に関連する機能性表示食品の一部の業者に、表示に関する改善指導を実施した。認知機能に関連する機能性表示食品は、2月末時点で223商品が販売されていたが、医薬品的な表示を行っていた3商品、届出された機能性を逸脱した表示を行っていた128商品に改善指導が行われた。認知機能に関する機能性表示食品では、科学的根拠の内容がかなり複雑なため、表示の文言も複雑で、消費者が認知症の改善効果や予防効果があると捉えてしまったり、物忘れなどの一時的でない病的な症状の改善効果があると勘違いしてしまう恐れがある。
今回の改善指導は、事後チェックの一環として行われている活動の1つ。これまで、広告については何度も問題となることがあり、事業者ごとに個別で行政指導を行っていたと考えられるが、今回は、特定の分野に絞ったかたちで一斉に指導が行われた。今後も、消費者が誤認を招くような行き過ぎた広告は、消費者庁から一斉に行政指導が行われる可能性がある。
機能性表示食品に関しては、今後も多くの事業者が参入し、新しいヘルスクレームの取得を模索していくものと考えられるが、それだけに、表示の範囲や定められた規制の範囲内で、事業者が販売を心掛ける必要があるだろう。
とはいえ、店頭販売や通信販売サイトだけでなく、YouTubeやTwitter、SNSによる広告なども増えてきており、複雑化した媒体を駆使して、悪質な事業者はあの手この手を使ってくることだろう。こうなるとイタチごっこなので、一律に広告制限をかけた方がいいんじゃないかとも思ってしまう。
業界の自主ガイドラインもあるのだろうが、消費者庁では少し弱いのではないか。ここは厚生労働省などの関係省庁とも連携し、広告制限のための指針を作った方がいいのではないかと考える。あとは見せしめではないが、1年ぐらいは違法な広告を片っ端から取り締まるなど、業界団体の他にも、弁護士や関係機関と手を携えて厳しくやった方がいいかもしれない。
公募により競争原理の導入を
消費者庁が届出の事前確認を制度化し、将来的に即日公表をめざしているが、事業者の方にニーズがあるのかどうかは疑問。すでに事前確認を行っている団体についても、情報管理のあり方などに関していくつかの懸念が示されており、実績もあまり上がってないと聞いている。
また、新規成分は対象外だから、大手を含めた中堅企業だと、コンサルタントや原材料メーカー、受託工場によるサポート体制は出来上がっていると思うので、わざわざ大金を払ってまでSRに対する支援を依頼する企業は少ないのではないか。あるとすれば、初めてトライする小さな事業者などだろう。
それでも本気で制度化するというのであれば、公募すべきだと思う。行政が適格と認める民間の団体に免許を与えるなどして、公正公平な仕組み作りを試みなければ、利権の奪い合いみたいになってしまうのではないかと心配だ。例えば、更新制を敷いて、3年間実績ゼロだったら免許を取り消す。合間合間で研修を行うとか、競争原理を導入して互いに切磋琢磨できるような制度にしてほしいと思う。
真面目な企業が馬鹿を見ない制度に
一方にはマンパワーの足りない行政の都合があり、早く届出公開しろと泣きつく事業者の都合があり、業界に覇を唱えたい団体の都合もある。それらがうまくかみ合わずに制度自体がおかしくなると、最終的には消費者が置いて行かれることになりかねない。結局、真面目にやっている企業や中小の事業者が馬鹿を見て、この制度に手を出せなくなる。そういう事態だけは避けてほしいと願う。
<プロフィール>
2000年近畿大学農学部農芸化学科卒。2005年近畿大学大学院農学研究科応用生命化学専攻、博士後期課程満期退学。2005年博士(農学)取得。近畿大学農学部研究員、化粧品評価会社勤務、食品CRO勤務を経て、2016年から関西福祉科学大学健康福祉学部福祉栄養学科講師。専門は、食品科学、臨床試験などの生物統計学。大学院在籍時より、食品・医薬品の臨床研究に携わり、機能性表示食品制度発足時より、研究レビューの作成業務およびヒト試験のデザインなど多くの食品機能性研究に関わる。