機能性表示食品めぐる覆面座談会(中) 【事前確認制度】業界関係者が本音で語る憂いと期待
2022年夏、都内某所に集った業界関係者。思想や信条はそれぞれ異なれど、業界の現状に対して一言も二言もある人物が顔をそろえ、機能性表示食品の現状について虚心坦懐に語り合った。健康食品産業の未来に対し、憂いと期待が入り混じった複雑な感情を抱く彼らは、認知機能表示の一斉監視・行政指導や民間団体での届出事前確認など、直近で立ち上がった小さからぬ出来事をどう見ているのか。覆面で包み隠さず語る。
座談会メンバー
司会=ウェルネスニュースグループ 田代 宏
A氏=メーカー役員(60代)
B氏=OEM企画会社経営(50代)
C氏=コンサルタント(40代)
機能性表示で「売れる」の誤解 正していく必要はないか
A氏 機能性表示食品の成り立ちを考えると、どうしてもシステマティックレビュー(SR)を提供してくれる原材料メーカーにおんぶにだっこです。最終商品の臨床試験を繰り返し行えるような大企業は別ですが、そうした中で勝ち抜くためには、広告などで差別化するしかない。どうしてもそういう方向に進んでいかざるを得ないですよね。
C氏 新規の機能性関与成分やヘルスクレームに関する届出は時間がかかる。届け出てもなかなか公表されない。そうした現状も、表示での差別化を助長している気がします。
A氏 これからどんな素材や成分が流行りそうかと聞かれることが多いですよね。でも私は、流行るかどうかよりも、売れ続ける素材や成分を探した方が良いのではないかと答えています。今、機能性表示を行える素材や成分ばかり求められている風潮があると思いますが、そもそも機能性表示食品になったから売れるわけではありません。未だに機能性表示を行えば売れるという認識を持つ事業者が多いと見られますから、その意味でも、制度に対する理解が相変わらず浸透していないように思います。
B氏 そうだから、いわゆる健康食品のみならず、機能性表示食品についてもルールから逸脱した広告が無くならないのです。例えばYouTube上の広告を見ると、未だにひどいものがある。行政は録画するなどして取り締まりを強化するべきです。
A氏 ルールを逸脱した広告を打たない限り売れない商品を作っているということではありませんか? あるいは確信犯か。業界団体が機能性表示食品に関する公正競争規約づくりを進めていますが、仮にそれが出来上がり、運用が始まったとしても、あえて規約を遵守しないアウトサイダーは後を絶たない気がします。確信犯的に違反広告を打とうとするアウトサイダーに対し、公正競争規約はまったく無力ですよ。そこはもう行政に厳しく取り締まってもらうほかありません。
司会 広告が目立つだけでエビデンスのない商品・サービスに騙されないようにする消費者教育が求められていますが、なかなか前に進みませんね。成人年齢も引き下げられましたから、改めて消費者教育について取り組むべき時なのかもしれません。
A氏 ただ、消費者が健康食品に期待しているのは、ある意味、医薬品的な効果なのだと思います。いわゆる健康食品にせよ、機能性表示食品にせよ、それは健康を維持するためのものであるというのが大前提ですが、消費者にとってはやはり、効果のある、無しが、それを購入するか、あるいは購入を続けるかどうかの判断基準になっているはずです。だから機能性表示食品にしても、広告においてはそこを訴求した内容にならざるを得ない。そこを訴求しない限り、消費者に届かないからです。もうそこで無理が生じている。そうした効果を求める消費者をつくってしまった、これまでの業界の姿勢にも問題があると感じます。
B氏 もともと機能性表示食品制度は米国のダイエタリーサプリメント制度(Dietary Supplement Health and Education Act)を参考にして誕生したわけですが、米国の制度には明示されている「教育」(Education)の部分が抜け落ちていると以前から指摘されています。確かに消費者教育は大切。でも、事業者に対する教育だって大切ですよ。特に制度施行の初期では、届出が何度も差し戻されることに不平不満の声が大きく上がりましたが、消費者庁が届出の差し戻しを繰り返し行う理由には、制度の本質を理解して欲しいというメッセージも含まれていたのではないでしょうか。事業者責任に基づく制度なのだから、事業者自ら制度の本質を学んで下さいというメッセージだったと思えてなりません。制度施行前と施行後を比べると、業界内で統計手法とかエビデンスのレベルとか科学的な話題が多くなっている。これは本制度の業界教育効果だと思います。流行るか、売れるかという視点だけの商品開発から少しずつ変わってきていますよね。
届出事前確認制どう思う? 改めて制度の本質学ぶ必要
司会 次に、民間団体による届出事前確認制度についてご意見をお聞かせください。
C氏 最近ではそうではなくなっている面もありますが、これまで消費者庁は、機能性表示食品制度は届出制であると言いながら、形式確認ではなく実質審査に近い制度運用をしてきたのが実態でしょう。行政手続き法に基づく届出制を採用したのですから、本来であれば、婚姻届や出生届などと同様に運用すべきでした。ただ、これは安全性が求められる食品であるから、届け出された書類を右から左に通すというわけにはいかない、という消費者庁の理屈も理解できます。一方で、そうした運用を続けてきたことが、前長官の「届出の確認作業が大変なことになっている」といった発言につながっているはずです。もはや民間団体に届出の事前確認をやってもらない限り、制度が立ち行かなくなるというところまで来てしまったのだと思います。それにしても、事前確認制度を利用する事業者がどれほどいるでしょうか。私は冷ややかに見ています。
A氏 早く発売できるようにしたいとか、後に疑義が入って撤回する必要が生じるのを避けたいとか、そういう理由で事前確認制度を利用する事業者がそれなりにいるのではありませんか。
C氏 そこですよね。事前確認を経た上で事後に疑義が生じた場合の責任の所在が気になります。
B氏 私は総じて賛成です。事前確認に費用が生じるのは当然ですよ。いわば合格するための塾に通うようなものだと私は捉えています。塾に通うのも、独学で進むのも、塾に通うのだとしてもどの塾を選ぶかは人それぞれですからね。そこにも届出事前確認をする民間団体を含む事業者自らで制度の本質を学んで欲しいという隠れたメッセージを感じます。
司会 私は若干危ない気がしています。事前確認を請け負う団体には一定の水準が求められます。事後に疑義が入って撤回となってしまわないようにする責任が問われると思いますし、そもそも事前確認にどれぐらいの期間がかかるのかというのも気になります。それに、事前確認を行う団体ごとに基準が異なるということも起こり得るのではないでしょうか。
A氏 実際、届出資料を確認する消費者庁の担当者によって判断が異なるということが今でも起こっています。すると、同じ事前確認団体内でも資料を見る人によって判断に違いが生じるということも予想されます。だからこそ、事前確認の対象は届出実績のあるものに限る、ということなのだと思いますが、事前確認によって事業者が余計に惑わされることにならないか心配です。それに、事前確認を業界団体で手掛けるのだとすれば、業界団体には業界関係者が出向していますから、完全なる第三者とは言えない。届出者の利害関係者が事前確認を行う場合も想定されますから、業界内からは情報漏洩を危惧する声も聞こえています。
(つづく)
【編集部】