機能性表示食品制度を検証する(前) 「エビデンス」「事前確認制度」識者はこう見た!
機能性表示食品制度が施行されて8年目。発足前から「健康食品の健全な市場流通を考える会」などで勉強を重ねて来た㈱グローバルニュートリショングループの武田猛社長と、㈲健康栄養評価センターの柿野賢一社長に、機能性表示食品が業界にもたらした変化について聞いた。(敬称略)
機能意性表示食品制度は世界最先端の制度
――(編集部)機能性表示食品制度に対する評価をお聞かせください。
武田 非常に高く評価しています。理由はいくつかありますが、安全性とサイエンスに対する業界全体の考え方が、制度が発足した15年4月以前とは格段に変わったと思うからです。特に、システマティック・レビュー(SR)という言葉を業界の中で普通に使う国というのは日本ぐらいしかないでしょう。それだけ日本の健康食品業界というのは、レベルが上がってきていると思います。
その良い反応だと思うのですが、海外進出をしたいという相談が、1年ほど前からとても増えています。中国は難しいことは分かっているので、中国案件は全くないのですが、逆に増えたのはASEANです。頑張ってEUのヘルスクレームに挑戦したり、アメリカのダイエタリーサプリメントのファンクションクレームに挑戦したり。だから、国際化にもすごく貢献していると思います。EUのヘルスクレームは世界一厳格で有名なのですが、そこに挑戦したいというぐらい意識が上がっていますね。もう1つは透明性が高いということでしょうか。
米国のFDAでは今、サプリメントのデータベースを作り直そうという話が出ているのですが、今から作ると、商品が8万件ぐらいあるため、膨大なコストがかかってしまいます。それで賛否両論があるのですが、日本は最初からこれらを積み立ててきているため、これ自体が大きな財産です。これから5,000件作るのは難しいと思いますが、ゼロから構築しており、そこで「安全性」、「品質管理」、「機能性」の根拠について広く情報開示している。これも世界で日本しかないわけでして、誰でもその気になれば見られるという透明性が確保されています。このような制度は世界に日本ぐらいしかありません。一般消費者にはまだ中身が難しいという問題はありますが、ただ、消費者もその気になれば知ることができるという意味で、制度自体は当初言っていたように、間違いなく“世界最先端”になっていると思います。
常に進化し続けるエビデンス
柿野 機能性表示食品制度が施行される前から、約1年かけて、どういう制度になるのかという議論が公開され、議事録も公開されたためにその経緯を業界全体で把握することができました。
初めて制定される制度に対して、この制度は一体どうなるんだというので、食品業界の関係者の方はおそらく例外なく、一生懸命情報収集されたことと思いますし、検討会の期間を通じ、いろいろな議論ができたということが本当に素晴らしいことだったと思います。その経過の中で、それぞれの立場で仕事をしながら、こうしてほしいとか、こうあってほしい、でもこうあるべきだという議論を通じて、明らかにこの業界自体のレベルがすごく上がったなと感じました。
例えば、この制度は第2トクホ(特定保健用食品)というふうに揶揄された時期がありました。ですが、実際には臨床試験以外に、SRを使っても届出ができるという話が出てきた時、それが準備されていたと分かった時に、確かSRなど業界では誰もできないという言われ方をしていたと思うのです。ところが、蓋を開けて数年経ってみると、今や業界全体でやっているではないですか。間違いなくレベルアップしてますね。ただし、エビデンスというのは常に進化していきますから、2015年の時にいいと思ったものが、数年経っても同じレベルでいるということはあり得ない話です。
これからは「PRISMA2020」への準拠が求められる
いろんな手法も変わってきますし、PRISMA声明もアップグレードして、やがて「PRISMA2020」への準拠が求められます。常に考え方が変わっていく中で、過去に届け出た情報もまた更新し、本当にガイドラインから外れてないかどうかを事後チェックしていかないといけません。
事業者にとっては、トクホの許可みたいに行政のお墨付きをもらえないというのはすごく大変かもしれませんが、開発などのお金を抑えることができるようになった点は評価できると思います。
安全性についても初めてといっていいほど、真剣に議論をすることになりました。食品だから安全だというのではなく、薬はもちろん、成分同士の相互作用についても、ナチュラルメディシン・データベースなどを使いながら検証していますし、国立健康・栄養研究所のデータベースもどんどん更新されて情報量も増えましたから、すごく使いやすくなりました。私は海外と接触することは少ないのですが、それでも海外から機能性について興味があるというので、ウェブ会議させてほしいという依頼が来るぐらいですから、やはり注目されています。
――問い合わせはメーカーからですか?
柿野 原料メーカーですね。日本に進出したいということで。米国もありましたが、東南アジアの方からが多い。どういう制度なのかと聞かれるので制度の概要をお伝えしています。
――武田さんの場合はいかがですか。
武田 欧米の会社は、だいたい日本に出先があり自力で対応していますので、オセアニアや台湾、東南アジアからの問い合わせが多いですね。
――実際にトライしているメーカーもありますか?
武田 あります。ただ、日本に誰かいないとなかなか進まなくなってしまいます。言葉のギャップがありますので。
柿野 日本に誰かいないといけない。海外からは届出ができないため、こちらの方できちんと受けることが必要ですし、誰が受けるかというのも大切ですね。商社さんを通じて探してみようとか。また、海外にはこういう臨床試験がありますから、日本の機能性表示食品制度に適合できないか?と言われるので見せてもらうと、たいてい病人を使っている論文が多かったりします。
武田 そうですね。
柿野 これは駄目だということで、もう1度考えて、どうしますとかなりますが、でもすごく興味を持ってくれていると感じます。
「事前確認制度」普及のカギは透明性と公平性
――消費者庁が今年中の制度化を目指している、民間による事前確認制度について、ご意見を聞かせてください。
武田 重要なのは、公平性と透明性だと思います。今やってるのは業界団体ですが、業界団体はどうしても会員優先になります。そういうスタイルでいいのか、ということです。例えば、地方自治体が県内企業を対象にして広く門戸を開くのであれば、それはウェルカムだと思うのですが、業界団体の場合は特定の企業に偏りがちですよね。
もう1つは、守秘義務です。業界団体は、会員企業の人が出向されているので、競合会社にも情報が自然と漏れることになります。そのあたりをどうクリアするかということでしょう。
柿野 同じ考えです。元々、業界団体のほうで事前チェックをすると、公開までの時間が若干短くなるということで2年ほど前から事前確認をしてきたと思いますが、ほとんど申し込みがないと聞いています。一部、業界団体の中の方が利用しているというのはあるでしょうが、そのことにメリットがあったかどうか疑問ですね。実際に、チェックしてもらったけれども差し戻されたという話も聞いています。
もし実施するとしたら、業界団体がチェックする仕組みは消費者庁と同じように、申請して、添付している場所なども細かく確認してもらわないといけません。ワードとかエクセルの状態でバラバラな資料を見て、いいですよと言われても、届出する企業が添付する時に添付個所を間違えたとか、修正する前のものを添付したりとか、あとは添付してはいけない会社の業務報告書を添付したとかいうことがあり得ると思うのですね。でも、事前チェックしたからと言って公開されてしまったら大変なことになる。そういう事態も考えられます。だから、消費者庁が見る目線で、消費者庁の担当者が確認作業をされているデータベースの中で公開情報としてそのまま公開して問題ないかを見てあげないと、何のチェックにもならない。添付個所を間違えるという凡ミスは、実際にかなりの数起きています。
あとは、先ほど武田さんがおっしゃったとおり、業界団体と言いながら、結局、ライバル会社の社員が見る可能性があるとよく言われます。となれば、ノウハウがダダ洩れになる可能性もある。非公開のものも、結局、見られるかたちになります。それを最も見られてはいけない競合他社の人見るとなると大問題になります。ですから、業界にいない人が見るとか、絶対にその人は業界に戻らないとか、そういう確約がないと難しいかもしれません。
武田 利害関係者ですから、中立性がないと難しいでしょうね。また、届出が差し戻されても、完了まで寄り添いますという姿勢なら別かもしれませんが。差し戻されたら別料金がかかるというのでは気の毒です。
柿野 その都度お金がかかるというのは、ちょっと。業界団体に入っていない企業も制度を使っていますし、特に中小企業、小規模事業者はたぶん、時間がかかってもお金がかからない方を選ぶと思います。
武田 そうでしょうね。私もそう思います。
柿野 元々、この制度はお金がかからない制度だというのが売りだったじゃないですか。ところが、だんだんと何かしらお金がかかってくる。それについて、消費者庁ではなく、業界団体がお金をもらう側というのが、何かちょっとおかしいのではないかと感じている人もいらっしゃいます。
武田 おそらく、それなりのレベルにある企業は(事前確認は)必要ないと思うのですよ。むしろ、地方の中小企業の人たち、ガイドラインもまともに読んだことがないような人たちをどうサポートしていくか。このほうが大事だと思います。地方の職員の方が勉強し、そういうことを県の事業としてやってあげれば、それはとても貢献すると思います。
柿野 そうですね。誰かレベルが高い人に丸ごとお任せするというのではなく、企業が自ら勉強して、自分たちでチェックできるようにしましょうというのが、元々のこの制度の出発点でしたから。
――武田さんは「機能性表示食品届出アドバイザー養成講座」を運営しています。受講生の皆さんはいかがですか?
武田 当然、講座を受けた人は教えることができます。草の根活動ですけど、地道に増やしていくことが大切だと考えています。
(つづく)
【聞き手・文:田代 宏】
<プロフィール>
㈱グローバルニュートリショングループ 代表取締役 武田 猛 氏
麻布大学環境保健学部卒業、法政大学大学院経営学専攻修士課程修了。アピ㈱、サニーヘルス㈱を経て2004年1月、㈱グローバルニュートリショングループ設立、現在に至る。国内企業の新規事業の立ち上げ、新商品開発、マーケティング戦略立案などのコンサルティングや海外市場進出の支援、海外企業の日本市場参入の支援を行う。現在まで、国内外合わせて700以上のプロジェクトを実施。著書に「健康食品ビジネス大事典」(パブラボ社)など。
㈲健康栄養評価センター 代表取締役 柿野 賢一 氏
博士(医学)。1989年九州大学農学部卒。2002年から13年まで九州大学大学院医学研究院予防医学分野(専修)に所属。医薬品受託研究(GLP)機関の安全性評価業務を経て、2004年㈲健康栄養評価センター設立。機能性表示食品制度に対応した科学的根拠取得のためのコンサルティングをはじめ、消費者目線に立った健康食品・化粧品開発の企画立案、臨床試験の支援を得意とする。
(冒頭の写真:対談する武田猛氏(右)と柿野賢一氏)