機能性表示食品ここが変わった
2021年回顧
機能性表示食品制度がスタートして7年目を迎えた今年、同制度への期待が高まる一方で、その課題も見えてきた。3,000億円を超えたとされる2021年度の機能性表示食品マーケットだが、一部では届出情報のあり方や届出ガイドラインをめぐる混乱も見られた。
㈱ウェルネスニュースグループ 田代 宏
市場規模は3,000億円超
消費者庁が公表した届出件数は12月3日時点で総数4,796件だが、撤回件数は1割強の497件((過去に消費者庁が一覧から抹消した公表データを除く)。サプリメント形状の加工食品が2,504件、その他加工食品2,165件、生鮮食品127件となっている。また、現在販売中の機能性表示食品は2,170件と届出件数の半数にも満たない。消費者庁によれば、制度施行時の2015年から徐々に販売数が伸びるなか、4年程度を経ると販売休止が増えてくるという。20年度、21年度に公表された商品については休止中の商品が4割程度を占めている。
それでも矢野経済研究所の調査によれば、機能性表示食品の市場規模の21年度の予測値は3,278億3,000万円と、施行翌年の16年に比べて約2.4倍、前年比7.6%増と成長を続けている。
また、同研究所の予測によると、その他加工食品の市場がサプリメント形状の市場を追い上げているかたちだ。生鮮食品の届出件数は15年度の3件、16年6件、17年13件、18年27件、19年62件、20年102件と、他の食品形態に比べると決して多くはないもののコンスタントに伸びている。カテゴリーも農産物のもやしに始まって、果物のバナナから畜産物の肉類、水産物の魚類にまで広がりを見せている。
医薬品成分が公表
(一財)医療経済研究・社会保険福祉協会が7月9日に開催したセミナーで消費者庁は、「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」(医薬品リスト)に収載されている成分を機能性関与成分とした届出状況に言及した。取り上げたのは、昨年4月以降に届出公表された「γ-オリザノール」(以下、オリザノール)と「桑由来モラノリン」(以下、モラノリン)の2成分。当時、業界関係者からは驚きの声が上がったものである。モラノリンを配合した商品を販売している㈱小谷穀粉の担当者は、「公開と同時にさまざまなメーカー、メディアからの問い合わせがあり、関心の高さを実感した」と当時を振り返っている。
しかしそれ以前にも、桑葉由来の「イミノシュガー」という機能性関与成分を配合した商品が届出公表されている。同品がこれまでに21件と、モラノリン3件、γ-オリザノール1件を大きくリードしている。医薬品成分を配合した機能性表示食品が登場したことに対して消費者庁の担当者はセミナーで、「原材料たる食品中に含まれるもので、機能性表示食品として届け出をすることは妨げていない。
必要な科学的根拠、一定の科学的根拠、安全性と機能性に関しての科学的根拠が整えられて届け出されたということで公表に至ったもの。ただし、表現法についてはやはり、当該成分名は表現しないなどの工夫をしたことによって、そういう表現方法を取られたということで医薬品等とは誤認させないような工夫がなされているものと考えている」と説明した。
実際、モラノリンとオリザノールを配合した2商品の機能性表示には、機能性関与成分の名称が省かれている。ただし、イミノシュガー配合商品の方は、機能性関与成分名が表示に用いられている。そこで編集部では、なぜイミノシュガー以外の2成分について成分名が明記されていないのかについて、消費者庁に回答を求めたところ、消費者庁は「あくまでも届出であるため、届出表示に成分名を表示するかしないかは事業者の判断によるもの。また、薬機法に抵触するかどうかは厚生労働省の判断によるため、消費者庁としては、届出段階では、ほかの内容も含め、ガイドラインに沿ったかたちでの届出がなされていることから公表に至った。ただし、届出公表後、事後チェックなどにより何らかの問題があると判断された場合は、事業者に対応を求めることになる。そのため、事業者側も、しっかり情報収集し、届出されているのではないか」とコメントした。
さらに、「消費者庁が表示の是非について口を挟むことはない」と付け加えた。事実、小谷穀粉の担当者は公表当初、表示に機能性関与成分名を使っていない理由について次のように説明している。「消費者庁から具体的なサジェスチョンがあったわけではなく、何度か差し戻される過程で、薬機法に抵触する可能性を鑑みて表示を変更したところ、公表に至った」。
半数が不承知
本件について事業者がどのような考えを抱いているか、編集部で実施したアンケート調査結果の一部を以下に紹介する。
「医薬品的効能効果を標榜せず医薬品と誤認しない限り問題ないと考えるが、法的整合性の説明は必要」
「医薬品リストの区分が分からない。基準とプロセスがよく分からない」
「素朴に、不思議である」、「機能性表示の中に成分名を入れないというのはとても曖昧な気がする」
「先ず安全性と食経験評価についての基準・考え方を議論し決めるべき」
「関与成分名を表現しないのは苦肉の策かもしれないが、不自然」
「分かりにくい制度だという印象」
「ヘルスクレーム内に関与成分名を入れていないのが違和感」などの懐疑的な意見のほか、「薬事的に周知されている効果効能と重複しない効果についての届出であれば、副作用等に十分配慮されている限り問題ない」
「公表されていることは良いと思う。消費者に向け、その成分の情報とともに、周知すべきと思う」
「安全性を確保できれば食品にすべきと思う」
「本制度の性質上問題ないと考える」などの肯定的意見が3分の1程度あった。
また、「今後どのような届け出の仕方がスタンダードになるのか注視している」
「医薬品と機能性表示食品、トクホの棲み分けが今度どうなっていくのか気になる」
「今後も増えると思う」
「製薬会社の要望に応え対象を広げたような印象を受ける」などの静観派も若干名存在する。
そして驚いたのは、アンケートに回答した半数以上の企業が本件について承知していなかった点である。
省庁間の意思統一を
東京大学名誉教授で(公財)食の安全・安心財団の唐木英明理事長はこの件について、「『生鮮食品に元から含有される成分』であれば、医薬品であるという誤解を生まないように注意した上で、記載してかまわないということになる」との見解を述べている。
さらに、これは科学の問題ではなく技術の問題とした上で、「①食品表示法に準拠すれば食品中の特定成分を含む製品の効能を表示できる。②医薬品承認を受けずに医薬品成分を使った製品の効能を表示すれば薬機法違反になる。③食品中の特定成分が医薬品成分であるとき、①の表示を行えば②の違反になるのかどうか、答えはどうしたらいいのかまだ決まっていないというところではないか」と指摘している。
消費者庁の立場としては、規制は必要だが、機能性表示食品にあまりきつい縛りをかけることは避けたい。だからこそ「事後チェック指針で」という逃げ道を作っているのかもしれないが、アンケートの回答にあるとおり、この件はしっかりした基準を示した方がいいと思うがいかがだろうか? 今後、省庁間の意思統一が不可欠と思われる。
Q&Aをめぐり波紋
今年3月22日に改正された「機能性表示食品に関する質疑応答集」(Q&A)をめぐり、業界に波紋が起きた。問32「分析方法を示す資料を作成する際に留意すべき事項は何か」に対して「分析方法は査読付き論文や公定法等客観的な評価が行われていることが望ましいが、公定法等がない場合は、表示量付近での添加回収試験や繰り返し分析等を実施し、分析方法の妥当性確認を行うことが望ましい」とする消費者庁の回答をめぐる問題である。
Q&Aを受けて、(一財)日本食品分析センター(JFRL)が「繰り返し分析を実施する」とアナウンス。3回の繰り返し分析が必須とし、3回を2回分の料金で実施するとのキャンペーンを張っているとの事業者からの情報が寄せられた。
JFRLはその後、一部の誤解を説くために7月に研修会を実施した。ただ、その時の対象となったのはJFRLの限られた顧客。一方、噂は広範囲に及んでいた。編集部ではこの件についてJFRLに説明を求めた。
JFRLは取材に対し、統計学的に2回ではばらつきを見ることができないために3回、そして料金的には諸々の算定の結果、倍の料金を設定したとしている。
一部で噂されているような行政との癒着などもないと否定。ホームページにおいて、「機能性表示食品関連のご依頼に関するアンケート」を事業者が分かりやすいように刷新した。同ホームページの「お申込み」>「依頼書でのお申し込みはこちら」>「機能性表示食品専用」からダウンロードすることができる。
事業レビューを実施
消費者庁は6月、機能性表示食品届出データベースの整備と運用事業の妥当性について、6人の有識者と共に事業レビューを行った。
利用者にとっての使い勝手の良さ、セキュリティの水準といったシステムとしての社会的な効率性に関わる要素をアウトプットすることで、事業者や消費者の意見の収集分析などの消費者庁として取り得る施策を実施していくことを目標に掲げた。分かりやすく言えば、事業者の使い勝手の良さを上げることで届出数を増やす。
また同時に、機能性表示食品の届出を検索する消費者の利便性に配慮する必要性が説かれた。さらに(システムの整備と運用に係る事業者に対し)現状の1社応札の関係について、「その回避に向けて、原因の分析をしっかりした上で対策をさらに図るべきではないか」との指摘を受けた。