機能性表示食品、安全性の次は有効性? 「機能性表示食品にあふれる誇張表示」染小医師を直撃!
「機能性表示食品にあふれる誇張表示」、これは5月24日発売の『日経サイエンス』に元・国保旭中央病院医長の染小英弘氏が寄せた解説記事のタイトルだ。同氏は5月、Journal of Clinical Epidemiology(臨床疫学ジャーナル)169巻に掲載された論文「受託研究機関主導の機能性食品試験における誤解を招く表示が日本で頻繁に観察:メタ疫学研究」の筆頭著者でもある。
スピンとは?スピンの定義は?
染小氏らの研究グループは今年2月、国内の食品CRO機関5社がUMIN登録した機能性表示食品に関する論文32報と、それらの論文を利用した8社11件の広告およびプレスリリースについて調査を進めたところ、論文(抄録結果72%、同結論81%、論文結果44%、同結論84%)やその論文を引用した6社8件の広告やプレスリリースにスピンが認められたと発表した。
研究グループはスピンについて、「臨床試験の結果の解釈を歪め、データによって立証されるよりも有利な結果を示唆することで、結論を誤解させるような報告方法」と定義。誤解を招く表示は「景品表示法第5条」(不当な表示の禁止)に抵触する恐れがあると警告している。
また染小氏は、「メディアの取材においては『誇張表示』であると説明することが多い」という。
ウェルネスデイリーニュース編集部はこのほど、染小氏を取材し、「論文を執筆したきっかけ」、「スピンの判定法」、「機能性表示食品や健康食品に対する考え方」などについて話を聞いた。
スピン論文執筆のきっかけは?
論文執筆のきっかけについて同氏は、研究論文の対象にもなっている食品CROの1社が、昨年打ち出した「有意差保証プラン」を動機の1つに挙げた。
染小氏は、「臨床試験においては効果の証明のために『有意差がある』ことを証明することが求められる。仮に、真に試験食品に効果があったとしても、『有意差がある』ことを証明するのはしばしば困難を伴う。機能性表示食品の臨床試験において有意差が出せるのはどのような場合か関心を持ち、研究を開始した」という。
スピンの判定法は?
また、スピンの判定法について同氏は次のように説明した。
「スピンの有無は、当該論文や、広告・プレスリリースに対して、評価者2人がそれぞれ別個に行った後で照らし合わせ、合致していればその評価をそのまま使い、合致していなければ相談の上決めた。2人の相談で合意に至らなかった場合は、研究チームの他のメンバーに相談した。
スピンは、論文抄録の結果、論文抄録の結論、論文本文の結果、論文本文の結論、広告・プレスリリースと、1つの研究につき、多いもので5つのポイントで評価している。
論文抄録の結果については、全文に詳述されている主要評価項目を省略したものであったり、統計的に有意な副次評価項目やサブグループ解析のみが報告されている場合、スピンありと評価している。
論文抄録の結論については、統計的に有意な評価項目のみに依存していたり、統計的に有意でない主要評価項目を無視していたりする場合、スピンありと評価した。
論文本文の結果では、統計学的に有意な結果のみに焦点を当てたもの、またはその結果のみを視覚化(他の評価項目は折れ線グラフで提示しているのに、有意な結果だけを棒グラフにしているような場合)したものは、スピンありと評価している。
論文本文の結論については、論文抄録の結論と同様に評価している。論文抄録と同じになるではないか、と思われるかもしれないが、論文抄録の結論の書き方と、論文本文の結論の書き方が違うものもあるので、必ずしも同じとは限らない。
広告・プレスリリースについては、統計的に有意な結果のみを示し、それに基づいて食品に機能があると喧伝しているような場合にスピンありと評価している」
健康食品は薬ではない(染小氏)
機能性表示食品や健康食品についてどういう考えを持っているのか。
同氏は、機能性表示食品の一部についてのみ研究で評価したに過ぎないので、機能性表示食品全体について意見を述べることはできないとしつつ、「健康食品を薬代わりに使用する方がいるとすれば、健康食品に対する誤解がまん延しているということになる」と断言してはばからない。
「食品というのは非常に微々たる効果しか持たないため、病気の治療をしようと思ったら薬を投与すべきだし、逆に病気を予防したいのであれば、何か特定のこういう食品を摂ればいいというものではなく、いろんな食品を摂って運動し、きちんと睡眠をとって規則正しい生活をするというのが基本原則。特定の食品に頼れば健康になれると考えるのは危険」と指摘する。
食品CRO機関、リリース企業にも取材
今回、スピンとの判定を受けた食品CRO機関5社、ならびに広告・プレスリリースを行った6社にも取材した。今回の指摘に対する受け止めと今後の対応について聞いた。
食品CROの2社からは回答はなかった。残り3社のうち2社は「論文の執筆には関わっていない」としてコメントを拒否。残りの1社は論点をはずした回答に終始した。
広告・プレスリリースの6社については2社が指摘を受けた表示を即座に非公開にしたが、他4社は「具体的なスピンの個所が不明」とする回答だった。
これに対して染小氏は、「問題があると言われればどこに問題があるのか自浄作用を働かせるのも企業の責任だと思う。科学的根拠の妥当性について、企業の責任に任せる機能性表示食品制度の限界の一端を見たように思う」とコメント。消費者庁が措置命令や改善指導を重ねても事業者にあまり改善の兆しが見られない実情を指摘。利益を追求している企業が自主的に自分たちの臨床試験のやり方を見直して、コストのかかるやり方に改めるというのは難しいのではないかと述べた。
なお、スピンと判定した臨床試験の具体例については、『日経サイエンス』に「記憶」、「保湿」に関する試験が取り上げられている。
紅麹サプリ問題については、「私たちの研究で指摘した問題点とは異なるので、直接意見を述べる立場にはない」とする染小氏。消費者庁の巡る検討会では先日、報告書がまとめられた。各方面からの提言が出されたが、今後、安全性から有効性に関する議論に移行していくことが考えられる。
【田代 宏】
(冒頭の写真:日経サイエンスより)