機能性「表示」食品制度が歩んだ8年 【機能性表示食品特集】制度の抱える課題と対策を検証する(後)
㈱食品機能研究所 代表取締役 勝田 徹 氏
「事前確認制度」期待と不安
消費者庁のキャパの確保の必要性もあり、第三者団体による事前確認の制度化の声が聞かれる。これは届出から公開までの期間の短縮化という点ではメリットがある。新商品の上市には製造や広告媒体バイイング、広告制作などを含めて多くの準備が必要であり、それが一度差し戻されると、数千万円規模の機会損失になる。事前チェックを受けて即公開になれば、かなり計画的に事業プランの実行が可能になる。
しかしながら、①事前チェックにかかる費用が増え、規模の小さな会社を躊躇させる、②届出表示が固定化(受理実績のなぞらえ)し、「事業者責任による創意工夫」がされにくい、
③チェックのクオリティや情報統制(守秘義務)などの技術的、組織的な懸念、④販売事業者の丸投げ体質の助長につながる――などが課題として挙げられる。特に、既存届出成分などについての運用が有力ではあるが、全く同じ届出表示が増えるかもしれない。
私が日頃感じていることではあるが、事業者によっては機能性表示食品の科学的根拠や安全性に無頓着なところが多く、何が言えるかには興味を示すものの、エビデンスの質やSR、論文自体は提供する原料メーカーに任せ切りというところも多い。機能性表示食品は受理公開がゴールではなくスタートである。いかに品質と安全性を維持するか、科学的根拠についての変化はないか、などに関心を寄せ、情報の更新なども事業者の手で行われることを理解しないといけない。そういう意味で、事前確認制度が事業者の当事者意識を失わせる方向に働いてほしくない。
業者と消費者の「リテラシー」
消費者と事業者は「表示」によって関わりを持つ。しかしながら、その表示する機能やエビデンスの強さについて表示されることはほとんどない。科学の質については、ASCONなどでABC評価を行っているが、消費者の認知は低く、まして事業者への牽制にもつながらず、調査回答を無視する事業者も多い。科学の質について、もっと消費者に分かりやすいものがあれば良いと思う。エビデンスの質を評価するモノサシが、今のところ消費者には少ないというのが現実である。
事業者からは、機能性表示食品は以前よりもレスポンスが倍増するが、定期の解約率も倍増しているとの声を聞く。おそらく表示に期待した潜在層へリーチし購入に結び付くが、すぐには体感が得られないから解約する消費者が多いからだろう。事業者としては、マーケティング視点だけではなく、本来的である「商品がお客様の健康に寄与すること」を第一目標として、商品の設計とともに、エビデンスの質を追求することを基本にしなければならない。同時に、機能性表示食品はあくまでも食品であり、健常な成人が健康の維持増進の目的で使用すること、エビデンスは臨床試験の期間である12週の継続摂取の結果であるということを、消費者に正しく伝える方法を開発する必要がある。コンプライアンスを重視し、誤解が生じないように取り組む姿勢が求められる。
また、消費者の多くがサプリメントを医薬品的効果があると誤解していると思われる。消費者のヘルスリテラシーの向上は必要なことだと思うが、その啓蒙活動を積極的に推進するための仕組み作りは未着手と言ってよい。どこが主導してどのようにやるべきかについては、今のところ私には情報がない。だが、消費者自体に、食品による健康維持についてのベーシックな知識が広く根付き、やがて常識となれば、誤認が起こりにくくなるだけでなく、商品選びがより効率的に行われ、表示の幅も増えるかもしれない。そうなれば機能性表示食品市場はさらに活性化することだろう。
(了)
<プロフィール>
㈱ベルーナに33年勤務。同グループ企業の健康食品専門通販、化粧品専門通販、食品専門通販などの新規事業創設を主導。㈱リフレ元代表取締役。2019年9月、㈱食品機能研究所を設立し、代表取締役に就任。「売れ続ける商品開発」をテーマとする実践型業務支援で、複数企業のコンサルティングを行う。主にサプリメント商品開発、マーケティング、広告表示、機能性表示食品届出などが中心。