機能性「表示」食品制度が歩んだ8年 【機能性表示食品特集】制度の抱える課題と対策を検証する(前)
㈱食品機能研究所 代表取締役 勝田 徹 氏
機能性表示食品制度が始まってから8年目を迎えた。同制度は第2次安倍政権「アベノミクス」の旗手的な経済政策として施行された規制緩和の1つ。例えるなら、主要アウトカムを市場の経済活性に置き、副次アウトカムとして高齢者のQOLの向上、医療費負担の高騰の抑制までが期待でき、ビジョンには奥行きがある。私が起業したのも、このビジョンに貢献できると考えたことに起因する。同制度を提唱した安倍元総理に心からの感謝と、謹んで哀悼の意を表したい。
届出公開の「基準」は同じ
機能性表示食品制度の最大の特徴としては、中小企業でも莫大な費用をかけず、科学的根拠があれば自らの責任において創意工夫して、機能を表示することができるところにある。また、制度の運用方法も状況に合わせて修正したり、変化しながら、時代の要求に対応する柔軟性がある。厳格でありながら変化にも対応できる、世界でも最も優れた基準で作られているのではないか。やがて日本で、機能性表示食品の冠があるサプリメントや食品が、世界に羽ばたく日が来るのではないかと期待している。
さて、機能性表示食品は「表示」をめぐる制度であり、それを担保するものが科学的根拠と品質と安全性という構図になっている。そのガイドライン自体の骨格は当初から変わっていない。運用面や解釈の曖昧さが是正されているだけだ。よく事業者から「受理(届出公開)の基準が変わった」などという声を聞くが、それは的外れ。消費者庁自身もこれまで5,600以上の届出を公開するにあたり、チェックの熟練度も増している。以前公開されたものと同じ届出が差し戻される例はあるが、それは運用が正確になったからだ。受理前例があるからと言って、届出がすんなり通ると思ってはいけない。
「逸脱した広告」への指摘
表示には、パッケージ表示だけでなく、広告の表示も含まれるのだが、痩身の標ぼう、睡眠や歩行能力関連において、届出表示と広告の印象との乖離や、医薬品的な表現などが問題になったことで「事後チェック指針」が示された。
科学的根拠の質や品質などにおいては、第三者機関との連携もあるが、広告表示に関しては消費者庁単独での管轄業務で運用される。届出公開時では、未発売品である届出品が景品表示法(景表法)を理由に差戻されることはないが、広告表現は科学的根拠以外にも景表法など広い範囲で不適切表現を指摘できる。直近の3月には脳機能関連において、表示する範囲を超えた広告手法、医薬品的キャッチコピーなどが指摘された。認知症予防と誤認されることで、適切な診療などの機会を逸してしまう恐れがあるという理由である。景表法および健康増進法による指導は、限られた調査対象だけで131点に至った。おそらく緊急性を感じての報道発表だったと推察される。
それ以降、事後チェック指針に基づき、①摂取対象者の適切性、②SR(成分機能)届出品の製品機能としての誤認防止、③いわゆる抜出し表現による拡大解釈の誤認防止など、グラフや写真を含めた広告表現だけではなく、届出時における商品パッケージや届出表示自体に対するチェックの厳格さへつながっている。
表示に「向き合う」事業者に
ところで、この制度が出来る前と施行運用された後ではどのような変化があったのか。私の経験から振り返ると、「どうせ効果や機能は言えないから」という理由でエビデンスを軽視していた事業者が、これまで聞いたこともない学術用語などに触れて面食らったというところから始まり、エビデンスと表現したい文言との乖離に悩みながら必死に表示に向き合う機会がもたらされたという歴史ではなかったかと思う。当の事業者は、これまで経験してきたキラーコピー広告や写真・イラスト表現から、より科学的根拠に近い表現方法を開発しながら、従来の「いわゆる健康食品」のメリット訴求とは違う面で学習してきたと思われる。コンプライアンス意識が高まり、全体的に法規に沿った表現に近づいており、業界は健全化の方向に向かっている。消費者庁からの手厳しい差戻しも、事業者が成長していくプロセスの一部になっていたと思う。
しかし、機能性表示食品のシェアが伸びても、その分「いわゆる健康食品」が淘汰されているに過ぎず、全体の業界の成長と言うにはまだそこまでのインパクトを残していない。問題のある健康食品の広告は、手を変え品を変えて動画広告やゲーム、ポイントサイト、SNSなどを通じて蔓延しているのが現状だ。これらがきちんと淘汰され、法に沿った健全な表示を行う意識や環境が、業界に定着しなければいけない。
(つづく)
<プロフィール>
㈱ベルーナに33年勤務。同グループ企業の健康食品専門通販、化粧品専門通販、食品専門通販などの新規事業創設を主導。㈱リフレ元代表取締役。2019年9月、㈱食品機能研究所を設立し、代表取締役に就任。「売れ続ける商品開発」をテーマとする実践型業務支援で、複数企業のコンサルティングを行う。主にサプリメント商品開発、マーケティング、広告表示、機能性表示食品届出などが中心。