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検証、学術会議「サプリ法」制定提言 【寄稿】唐木英明・東京大学名誉教授

 日本学術会議が2026年に発出した提言「我が国の機能性食品制度に関わる課題とその対応」は、日本の健康食品規制を抜本的に再定義しようとする野心的な試みである。その中心はサプリメント法の制定にあり、その背景にあるのは「国の厳重な管理の下で安全性を確保する」という思想である。日本の健康食品市場は、2024年には約8,945億円規模(矢野経済研究所調べ)へと拡大しているが、これは急速な高齢化と健康志向の高まりを背景に、国民がセルフメディケーションの一環として食品の機能を積極的に活用しようとする潮流を反映したものである。しかし、その進展の裏側で、健康食品の規制体系は「食」と「医薬品」の狭間で大きな歪みを生じてきた。その典型が、法的な定義が存在しない「いわゆる健康食品」という広大な領域を基礎とし、その上に特定保健用食品(トクホ)、機能性表示食品、栄養機能食品という3つの保健機能食品制度が重層的に構築されるという、消費者には理解不能な「多重的な表示区分」が形成されていることであり、さらに、行政が健康食品のリスクを強調する一方で、効果については沈黙をするという偏りである。この歪みに対する学術会議の解決案について、2025年に日本弁護士連合会が発表した「サプリメント食品に関する法規制の早急な整備を求める意見書」と比較しつつ、検証する。

機能性表示食品とトクホの取り扱い

 健康食品の4層構造の最大の問題点は、消費者が「公定マークの有無」以外に、製品の信頼性を測る指標がないことである。提言は、通常の食品とは異なる「サプリメント形状」の製品を「食品」から切り離し、「サプリメント法」の下で一元管理することを提案している。ここまでは高く評価されるが、問題はその先である。それは、トクホと機能性表示食品に対する規制の不平等である。
 
 トクホ制度は、1991年に世界で初めて「食品の三次機能」の表示を認めた画期的な制度としてスタートしたのだが、国が審査するトクホに対して「審査内容が公表されず、検証もなく、すべて正しいとする」姿勢は、科学的透明性の観点から多くの批判を浴びている。トクホの審査に提出されるヒト臨床試験のデータは、多くの場合、企業の機密情報として扱われ、再検証がなされる機会は極めて限定的である。これに対して機能性表示食品の届出資料はすべて公開され、誰でもが検証できる。機能性表示食品は誰でも批判ができるが、トクホの批判が困難である理由がここにあるのだが、公表されている関連論文から推測する限りでは、トクホの根拠論文の質が、機能性表示食品の届出論文の質より格段に高いとは考えられない。

 トクホの許可数は2015年の1,210品目をピークに減少に転じ、2024年には1,033品目まで落ち込んでいる。その背景には、開発に数億円の費用と数年の期間を要する「重厚長大」な審査体制がある。提言は、トクホが「高い評価を受けている」と肯定的に捉えているが、「審査内容の検証」や「公表」の不徹底については、解決策を提示していない。むしろ、トクホを「商品評価型」の頂点に据え続けることで、その既得権益的な評価を固定化しようとしている。その理由として「一定の認知度」と「市場規模」を挙げているが、これは科学的な妥当性よりも社会的な定着度を優先した論理であると言わざるを得ない。
 
 機能性表示食品制度は、トクホの「重厚長大」な審査体制の改善策として2015年に導入され、既存の論文のシステマティックレビュー(SR)によって機能性を謳えるという簡易な仕組みである。提言は、機能性表示食品を「成分評価型」に変更するとともに、食品安全委員会で安全性を審査する「個別許可制」への移行を求めている。これは、事業者の届出を「信用しない」ことを前提とした管理の強化であり、制度の緩和の歴史を否定するものである。とくに食品安全委員会での審査は、企業には膨大な審査資料を準備する経費と時間の負担がのしかかること、食品安全委員会にとっては、これまでに届け出られた400〜500種類の機能性関与成分と、毎年登場する数十種類の新規成分の審査に対応できるのかは大きな疑問であり、実現性に欠ける提言と言わざるを得ない。

 トクホを存続させる理由として「一定の認知度」と「市場規模」を挙げつつ、トクホと同等以上の市場規模を持つ機能性表示食品への配慮がないことも、規制の大きな不平等である。

「いわゆる健康食品」の取り扱い

 2024年の紅麹事件において、最大の懸念点となったのは「予期せぬ不純物の混入」である。そして、不純物が濃縮され、多量を定期的に摂取することを可能にしたのが、サプリメント形状の特性であった。また、経済的被害と健康被害が集中しているのは、サプリメント形状の「いわゆる健康食品」であるという事実も存在する。従って、サプリメント形状の食品をサプリメント法により規制し、GMPを義務化するという方向は、非常に厳しい対処ではあるが、経済的・健康被害を未然に防ぐための安全網となるものとして評価される。

薬機法の縛りとセルフメディケーションのための利用

 薬機法の「医薬品的効能効果の標榜禁止」という壁に対し、学術会議は対処する姿勢を見せていない。提言は、機能性表示食品に対して「商品自体の機能」を表示することを禁じ、「成分に機能があることが報告されている」という伝聞形式(成分評価型)に限定することを求めている。しかしこれは、実情を知らない空論としか見えない。学術会議のロジックでは、商品自体の臨床試験を行っていない以上、「本品に機能がある」と断言することは科学的に不正確であり、消費者を欺く行為に当たる。しかし、この問題は機能性表示食品制度発足時に十分に検討されたことである。健康食品は、健康な成人が、健康維持のために摂取するものである。ということは、健康な成人を被験者として、健康維持効果を試験することになるのだが、そのような試験で有効性を判断することは医薬品においても極めて困難である。従って、論理による証明しかないことになる。

 健康食品のもう1つの利用法は、軽症の「治療」というセルフメディケーションのための利用である。その臨床試験は境界領域者を被験者とし、そのバイオマーカーが正常値に戻ることを確認することであり、薬機法の縛りにより「治療」とは言えないが、これは明らかな治療試験である。こうして、かなりの数の機能性表示食品は、最終製品を用いたヒト臨床試験を実施している。学術会議は、これらの商品に対しても同じ規制をするのだろうか。

 セルフメディケーションの本来の趣旨は、消費者が自分の症状に合わせて適切な製品を選べることにある。いま求められていることは、「医薬品的効能効果の標榜禁止」という壁に穴を開けて、実際に多くの人が利用している「健康食品の治療効果」を明確に表示できるようにすることである。しかし、提言ではこの最重要の課題について、むしろ、「医薬品と食品の区別が厳格に運用されている」現状を肯定し、その枠組みの中での提案に過ぎない。これは、薬機法の「不合理」を、科学的な「正論」として正当化する方向であり、消費者の「利便性」を二の次にするものである。

日弁連意見書との比較

 日弁連意見書は、学術会議の提言と歩調を合わせつつも、消費者保護の観点からさらに踏み込んだ、極めて厳しい「参入規制」と「表示規制」を求めている。日弁連の提案における最大の特徴は、学術会議が求めた「製品の個別許可」に留まらず、製造業者そのものに対する「営業許可制」の導入を求めている点である。学術会議が「科学的妥当性の確保」を主目的とするのに対し、日弁連は「不適切な事業者の排除」と「消費者の誤認防止」を最優先しており、事業者の自由度はさらに制限される。

 学術会議が機能性表示食品を「成分評価型・個別許可制」として存続させる道を示してはいるが、その実現可能性からみて、実質的には廃止論に近い。これに対して、日弁連はより明確に「機能性表示食品制度は廃止すべきである」と述べている。

 日弁連は、誇大広告の禁止を新法に明記し、行政による厳格な取締りと予算・人員の拡充を求めている。また、健康被害情報の提供および「公表」を事業者に義務付けるべきだとしており、透明性の確保において学術会議案よりも高いレベルの「社会的責任」を事業者に課している。

結論

 日本学術会議および日弁連の提案は、いずれも「規制の強化(安全性の確保)」という一点において、規制不十分ないわゆる健康食品問題に応えるものである。特に日弁連の「営業許可制」と「機能性表示食品廃止論」は、現在の混沌とした市場を法的に一掃する破壊力を持っている。

 しかし、「セルフメディケーションへの活用」や「効能標榜の合理性」、「教育を通じた自律的選択」というポジティブな側面については、両案とも極めて保守的、あるいは抑圧的である。科学者の良心に基づく「学術会議案」と、被害救済を主眼とする「日弁連案」は、いずれも強力な行政官僚制による管理を前提としており、消費者の自己決定権や米国のサプリメント健康教育法DSHEAに見られるような「情報の自由市場」という哲学は、そこから完全に抜け落ちている。

 サプリメント法の必要性については賛同が多いが、その目的と内容は、大きく異なる2つの方向に分かれる。日本学術会議と日弁連の案は、「安全のための過度なパターナリズム(父権主義的保護)」の方向である。これに対して、消費者の「選ぶ権利」と「知る権利」をいかに守るかという視点からの再検討が必要と考えられる。

<プロフィール>
唐木英明(からき・ひであき):1941年生。農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒。テキサス大学ダラス医学研究所研究員を経て、87年に東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年に名誉教授。日本薬理学会理事、日本学術会議副会長、(公財)食の安全・安心財団理事長、倉敷芸術科学大学学長などを歴任。現在、「食の信頼向上をめざす会」の代表を務める。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。これまでに瑞宝章(中綬章)、日本農学賞、読売農学賞、消費者庁消費者支援功労者表彰、食料産業特別貢献大賞など数々の賞を受賞。

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