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東京・渋谷にある商品開発ラボの意義 新たな体験「目の前で作り、目の前で試す」

 東京都渋谷区東1丁目。渋谷駅から徒歩で数分の場所にある地上25階建て高層ビル。大手のエンタテインメント企業などが入居するそのビルの8階に意外なものがある。テニスコート約1.5面相当の広さをもつ「ラボ」。そこでは日々、健康食品と化粧品の新規商品開発が行われている。佐賀県鳥栖市を拠点に、それらの受託開発・製造を手がける㈱東洋新薬(服部利光社長)が昨年2月に開設した「クイックラボ渋谷」(以下、QLS)を訪れた。

 そこに並ぶのは打錠機、造粒機、ハードカプセル充填機……。いずれも小規模試作用のものだが、錠剤、顆粒からハードカプセルまでの各種サプリメント・健康食品を開発したり、試作したりするための機器が置かれている。実際に使用するため防音・防振処理も施された。さらに、崩壊性試験機、錠剤硬度計、振るい振動機などといった製品評価用の機器まで揃っているのだから本格的なラボである。それが東京・渋谷の高層ビルの中にある。

顧客参加型ラボ 文字通りの「共同開発」

 QLSは、2021年に東京・日比谷から移転した、東洋新薬東京支店のオフィスに併設するかたちで開設された。鳥栖の本部に置くメインラボに連なる「第2ラボ」を顧客の多い首都圏に新設したかたち。面積は約287㎡。エリアを健康食品用と化粧品用の大きく2つに分けてあり、化粧品用のラボもまた本格的だ。皮膚画像解析装置(VISIA)やマイクロスコープ、経皮水分蒸散測定装置、SPFアナライザー──などといった研究用の皮膚評価機器類がいくつも並ぶ。商品の開発・試作だけでなく、一定の機能評価まで行える環境が整えられている。

 前の東京支店にもラボがあった。しかし規模と設備がまるで異なる。それは人員体制も同様で、商品開発部門の所属スタッフが常駐。その数、健康食品の開発・試作専門スタッフだけで計6人、商品パッケージ(容器・包装)専任者を加えると7人。それと同じくらい化粧品専門スタッフも常駐している、というから小さな所帯ではない。取材に訪れた日も、複数のスタッフが複数の案件を同時進行させていた。

 そもそもラボとしてのコンセプトが以前のそれと大きく異なっている。スタッフだけではなく同社の顧客が日々、利用しているからだ。QLSに訪れ、東洋新薬の商品開発スタッフとともに商品の内容を検討、決定したり、測定機器を使って商品の機能を評価したりする他、そうしたことができる故に、販売プロモーション用の写真や映像を撮影したりと、顧客の利用を念頭に置いたラボとなっている。

 「ラボは一般的に外に見せることはほとんどありません。しかしQLSはそうではなく、お客様に見ていただく目的で作られました。見てもらうといっても、設備の充実ぶりなどをアピールするためでは全くありません。お客様の商品が開発されていく過程をお客様自身に見ていただくこと、また、お客様自身がお客様の商品の開発に直接、参加していただけるようにすることが目的です。1つの商品を一緒に作りあげていく。お客様はそうしたことがやりたくても、なかなか出来なかったと思うのです」。

 そう話すのはQLSで健康食品部門の責任者を務める製造本部の設計技術部長。こうも語る。「(営業担当ではない)私たちとしても、お客様と直接コミュニケーションできる機会は限られていました。その意味でQLSは、私たちにとってもメリットが大きい。こういうラボを待っていました。しかもそれが東京の渋谷にある。東洋新薬全体として大きな強みになっていくと考えています」。

プロテインの「味」、化粧品の「香り」をクイックに提供  

 プロテイン、なのだという。健康食品について最も頻繁に行っている開発・試作案件を尋ねた際の答えだ。需要が高止まりしていること、また、言葉で伝えたり、理解したりするのが難しい「味」の検討、決定を正確、かつ、スピーディに行えるからプロテインが多い。QLSで健康食品を担当する処方設計課の責任者はこう話す。

 「味のジャッジは個人差が大きく出ます。もう少し酸味が欲しいとか、甘みをもっと出したいとかの要望をいただくことも多いのですが、『もう少し』や『もっと』のさじ加減が難しい。でも、お客様にはご足労いただくことになりますが、QLSであればそこを解消できる。お客様の要望を私たちが直接聞き取り、ラボですぐに調整し、その場で味を試していただけるからです。その名のとおり『クイック』にお客様の要望をかたちにして提出できる。早ければ、半日で完成することもあります」。

 そういった「味」作りは通常、顧客の要望を営業担当者が聞き取り、それを製品開発担当者に伝え、調整して出来上がったものを顧客に送り、試してもらう。それが1回で終わればいいが、顧客が望む味になるまで幾度も繰り返すこともある。出来上がるまでに1カ月以上かかることもざらだ。

 「味づくりは本当に難しい。伝言ゲームのようになってしまうこともありますから」と設計技術部長は言う。だが、QLSの商談室にて顧客と対面のうえでそれに取り組むことで、「こちらはお客様が求めている味をイメージできる。お客様には商品作りに直接、参加していただける。実際にここを使っていただいたお客様はとても満足してくれています」。

 言葉で表現しづらい感覚的なところを練り上げていくのに適した商品開発ラボがQLSだと言えそうだ。その強みは、化粧品のほうでより発揮されるかもしれない。

 「手触り、ツヤ感、オイル感……どれも1回の試作で決まるものではありません。特に香りは本当に大変」と語るのは、QLSの化粧品部門の責任者を務める化粧品事業部企画開発部マネージャー。「味もそうですが、香りも説明するのがとても難しい。お客様と私たちの間を、幾度となく行ったり来たりします。処方開発スタッフも常駐しているQLSを利用していただくことでそれを大幅に減らせる。ここに来ていただければ、試作を繰り返しながらもスピーディな商品開発を実現できます」。

そこにある崩壊性試験機器 目的は機能性表示食品

 健康食品事業に関して東洋新薬は今、プロテインを事業の柱の1つに育て上げようとしている。同社の代名詞的な受託品目である青汁の開発で培ってきた粉末の超微粉砕加工技術や、溶けやすい顆粒の製剤化技術を生かせる強みがあるからだ。QLSで開発・試作が行われたプロテインも世に出始めていて、「プロテインと言えば東洋新薬、と評価してもらえるようにするための貢献も少しずつ出来始めています」と設計技術部長は語る。

 一方、課題もあるように思われる。健康食品に限れば、QLSの利用ニーズがプロテインに集中し過ぎている様子も感じられる。実際、プロテインの開発・試作案件に比べると、打錠機やハードカプセル充填機などを使用する案件はまだまだ限定的だという。

 「そこは今後の目標です」と設計技術部長。「崩壊性試験機や錠剤硬度計などは機能性表示食品を念頭に導入しました。今後、人員をさらに増やし、渋谷でのサプリメントの開発・試作もさらに活性化させていくつもりです」。

 東京・渋谷の高層ビルの中にある健康食品・化粧品の商品開発ラボ。記者が健康食品販売会社の商品開発担当者であったならば、毎日のように通ってみたいと思わせる場所だった。委託先に任せっきりにしない、文字通りの「共同開発」に取り組むことのできる健康食品・化粧品の受託開発・製造企業の大型ラボは、今のところQLSしかないのではないか。

【石川太郎】

(冒頭の写真:東洋新薬・東京支店内にある「クイックラボ渋谷」の商品開発スペース=ラボスペース。下の写真群:クイックラボ渋谷に設置されているサプリメント・健康食品の商品開発にかかわる設備・機器の一部。東洋新薬提供)

<COMPANY INFORMATION>
所在地:佐賀県鳥栖市弥生が丘7-28(本部・鳥栖工場)
TEL: 0942-81-3555(本部)
URL: https://www.toyoshinyaku.co.jp
事業内容:健康食品・化粧品・医薬品・医薬部外品の受託製造

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