新通知、GMP認証機関はどう見るか (公財)日本健康・栄養食品協会、増山明弘・健康食品部長に聞く
健康食品GMP認証機関は生まれ変わった平成17年通知をどのように受け止めているのだろうか。今後、認証基準に変化が生じるようなことはあるのか。平成17年以来、最終製品から原材料まで合わせて約180の製造施設にGMP認定を行ってきた(公財)日本健康・栄養食品協会(矢島鉄也理事長)を訪ね、増山明弘・健康食品部長(=写真)に取材した。
(編集部注:この記事は『ウェルネスマンスリーレポート』2024年3月10日発刊号に掲載したものです。新・平成17年通知は3月13日付で施行されています)
安全性確保の流れを示した
「現時点(2月9日)では、改正案のパブリックコメントによって一部修正された改正案までしか確認できていません。その範囲で言えばですが、評価しています。平成17年通知の改正ではなく、いったん廃止した上で、『新ガイドライン』として新たな通知を発出するという流れを評価したい。それに、私たちの要望をある程度は反映してくれています」
増山氏は新たな平成17年通知(以下、新ガイドライン)に対する受け止めをそう語る。評価するポイントはどこか。
「製品設計における留意事項が盛り込まれました。それを入れるよう、強く要望していました」
製品設計を盛り込むべきだと考えた理由についてはこう説明する。
「平成17年通知は大きく2本立てでした。原材料の安全性をチェックすること、GMPに基づき製造・品質管理を行うことの2つです。それらの間にある製品設計(=製品規格の設定や安全性を考慮した原材料の最終製品への配合量の設定など)に関する内容がありませんでした。
平成17年当時はさほど重要視されていなかったのだと思われますが、(錠剤・カプセル剤などの形状を持つ食品の)安全性を確保するためには、製品設計をしっかりしないと。そこが新しいガイドラインに取り入れられたことで、まずは原材料の安全性を確かめる、次に適切な製品設計を行う、その上で、GMPによる製造・品質管理で製造するという(安全性と品質を確保するのに求められる)プロセスが分かりやすくなりました。新ガイドラインは順番もそのようになっています」
新ガイドラインの最終ページに示された「GMPを実施した製造工程管理」にも注目して欲しい、と話す。
「GMPで行うべき製造工程管理のフローは、原材料の受け入れから最終製品の出荷まで、つまり消費者に届くまでであると考えています。GMPで求められるのは製剤化の工程だけではない、ということです。そのことに対する業界の認識は以前よりも高まっていますが、GMP認証機関としては、新ガイドラインの受け皿となる私たちとしては、そこは今後もっと強く訴えていく必要があるところだと考えています」
他に、通知の対象となる事業者が明確になったことも評価できる、とする。
「項目として対象事業者を設定し、最終製品を作る工場だけではなく、輸入原材料も含めた原材料事業者から通販などの最終製品販売会社まで、事実上、(錠剤・カプセル剤などの形状を持つ食品に関わる)全ての事業者が対象であることが明確になっています。ここも私たちが要望していたところです。
平成17年通知の書きぶりだと、対象事業者かどうかよく分からない、という事業者もいたのではないかと思います。(新ガイドラインが施行されることで)製造や品質の管理は全てOEM会社に任せている、原材料の安全性確認は原材料事業者に全部任せている、という販売事業者や輸入事業者の(安全性や製造・品質管理に対する)意識が高まっていくことを期待します」
GMPとHACCAP、同時にどう回していくか
一方で、首を傾げたくなるところもある、という。
「衛生管理のところです。GMPとHACCPを同時にどうまわしていくべきか、ちょっと悩ましく感じています」。
どういうことか。
「平成17年通知では、作成すべき書類の1つとして、『製造衛生管理基準書』を示していました。そもそもGMPでは、製造管理、品質管理だけでなく衛生についても管理が要求されます。ですから製造衛生管理基準書は、GMPとしての管理を行うために必要な書類の1つなのです。それが新ガイドラインではなくなっています。厚生労働省はHACCPを制度化したこともあって、今後の衛生管理はHACCPで行ってくださいね、と言っている訳です。
ですが、GMPにおける衛生管理とHACCPの衛生管理は、基本的な考え方が異なります。重なり合う部分も多い一方で、異なる部分がある。GMPでは必須であるけれどHACCPではそうではない。そういった衛生管理に関する事項が存在します。その逆も、です。要するに、同じ衛生管理ではあるけれど、考え方が異なるためピッタリと一致するわけではない、ということです」
平成17年当時、日本にHACCPの制度はなかった。しかし、今はある。
「そうです。だから食品製造における衛生管理をHACCPで行うべきであること自体に問題ありません。しかし、GMPとの兼ね合いを考えると、ちょっとスッキリしません。今後、現場で混乱が生じるかもしれない。だから整理して頂くように(厚生労働省に)何度も申し上げてきました……。もっとも、新ガイドラインで全てを示すことはできないと思います。ですから衛生管理に関しては、実際の運用で対応していくしかないと今のところは考えています」
認定基準に大変化はない 通知が追い付いた面も
新ガイドライン施行後、GMP認証の基準や考え方などに何らか変化が生じることはあるのだろうか
「平成17年通知は、我われのGMP工場認定と安全性自主点検認証の2つ認証の元となっています。それが変わること自体は大きな話ですが、考え方が大きく変わる訳ではありません。ですから認定基準などが大きく変わるようなことも基本的にはないと考えています」
もちろん、新ガイドラインの内容に合わせ、協会で作成したガイドラインやマニュアルなどの記述は変えていく必要はあるという。続けてこう話す。
「新ガイドラインは、製造・品質管理レベルの向上を業界全体に促す内容になっています。一方、平成17年通知の施行から時間が経過し、われわれ認証機関も、認定を受ける工場の側も、当時と比べれば格段にレベルアップしています。平成17年通知は、製造・品質管理のいわば『基本中の基本』を示していたということもあります。
その意味で、通知の内容が製造の現場の実際に追いついてきた、という捉え方もできると思います。原材料から最終製品販売まで、(錠剤・カプセル剤等食品に関わる)全ての事業者が新ガイドラインを守ることで、業界全体で品質レベルを底上げできそうです。そのようにして原材料から最終製品まで安全性を確保した上ではじめて有効性があるのだということを、新しいガイドラインが出されることを機会に、強く訴えていきたいと考えています」
健康食品GMP認証、そろそろ制度化が必要
ただ、新ガイドラインが運用されるようになっても解消されない課題がある。それは、GMP認証機関の法制度的な裏付けだ。日本では、健康食品はもとよりサプリメントの法律上の定義がないこと、加えて、指定成分等含有食品を除いてGMPが義務化されていないがゆえの課題ともいえる。増山氏は足元の状況と今後の展望を次のように語る。
「GMP義務化まで一足飛びにはいかないにしても、そろそろ検討するべき時期だと思っています。日本の場合、GMPは事業者の自主的な取り組みに委ねられています。その上で、GMP認証の仕組みとしては第三者認証のかたちが取られていて、私たちGMP認証機関が第三者として受け皿となっています。しかし、私たち第三者認証機関と認定工場はつながっている一方で、国や行政機関とはつながっていません。あくまでも第三者だからです。
それによって今、最も困っているのは、GMP工場で製造した製品の海外への輸出です。認定工場の事業者からの問い合わせが非常に多い。輸出先から『日本健康・栄養食品協会というのはどういったGMP認証機関なのか』と尋ねられることがやっぱり多いそうです。すると、『そのGMPは第三者による自主的な認証ですよね』となってしまう。それに、輸出する国によって必要な認証が異なることもあります。製造工場のGMP認定証明書を私たちの名前で発行してもステータスがないことが問題です」
これは健康食品GMP認証に対する行政の「非関与」が生んだ弊害といえる。
「平成17年に手探りで始まった日本の健食品GMPですが、ここまでやってくることができました。日本の健康食品GMP認定工場は、私たちと(GMP認証機関である)JIHFS(日本健康食品規格協会)さん合わせて現在までに200を優に超えています。
そうした中で、今後、ASEAN(東南アジア諸国連合)を中心に海外への輸出拡大が予想されています。それを考えると、GMPの仕組みが今のままでいいとは思えません。日本製品の輸出促進のためにも、グローバル化の視点が求められますし、少なくとも健康食品GMP認証の制度化が必要なステージに入っていると思います」
【聞き手・文:石川 太郎】
(下の画像:日本健康・栄養食品協会のGMP工場認定マーク(左)と安全性自主点検認証マーク(右))
プロフィール
増山明弘(ますやま あきひろ):1983年カルピス㈱入社。同社機能性食品部長、アサヒカルピスウェルネス㈱商品開発部長を歴任し、20年から現職。
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