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店頭にコメがない!令和の米騒動か? 【寄稿】農水省は分かりやすい説明を!

元食品表示Gメン 中村 啓一 氏

 店頭にコメがなく買えないというニュースが連日報道されている。
 筆者宅でも、夏休みが終わって子供の弁当が始まるのにおコメが買えないと、空になった売り場の写真と一緒に、娘からの「SOS」がラインで届く。ならばと、近くのスーパーに走った家内が、「ここもなかった・・・・・・」と落胆している。

具体策を欠いた農水相の棒読み会見

 今、似たような光景は全国のどこの家庭でも見られているのではないか。品薄が品薄を招いている状況だ。
 このような状況に対して、政府から丁寧なメッセージが発信されていないことを心配している。農林水産省や消費者庁のホームページにも、国民に向けた情報はない。
 「地震や台風等により買い込み需要など一時的な品薄が発生したものの、新米が出回る9月には回復する」という、農水大臣による原稿棒読みの記者会見は説得力がない。挙句に、「農水大臣は消費者の立場に立って米の流通不足の懸念に対処するように」総理から指示を受けるなど、米不足収拾に向けた具体的な対策が見えない。

冷夏と長雨がもたらした平成の米騒動

 コメが店頭から消えた現象は以前にもあった。平成5年(1993年)、冷夏と長雨の影響でその年の全国の作況指数が74と、戦後最低を記録した。政府保有の備蓄米23万トンを放出しても200万トンが不足する事態となったことからコメ不足が深刻化し、同年末から翌年にかけて平成の米騒動といわれる騒ぎとなった。
 筆者はこの時、農水省に設置されている「消費者の部屋」を担当していた。連日、窓口の責任者として消費者などからの問い合わせや苦情の矢面に立った。当時、農水省は不足分を緊急輸入で補うとしたが、タイ産米からネズミの死骸が見つかったとの報道もあり、輸入米に対する不安から、米穀店からも国産米が消える事態となった。

原因はさまざまだが9月まで待てない国民も

 当時と今回の米不足を比べると、背景の事情は大きく異なる。現在出回っている令和5年産米の作況指数は101と平年並み。前回のような極端な供給不足とはなっていない。インバウンド需要が一因とする分析もあるが、「外国人観光客が増加したからスーパーからコメが消えた」という説明はいかにも苦しい。

 農水省が説明するように、「端境期である8月に、南海トラフ地震臨時情報とその後の地震や台風などにより買い込み需要が発生した」ことによる一時的な現象とみられる。

 今年は能登半島地震もあり、家庭での災害に備えた食料備蓄については行政もその必要を呼び掛けていた。米の不足は、新米の令和6年度産米の出回りが始まっていることを考慮すれば、不足状態も9月中には解消されるとしている。しかし、現時点でコメが入手できず、自然回復する9月まで待てない消費者が多数いることも事実だ。

何のため?100万トンの備蓄米

 この状況に大阪府知事が備蓄米の放出を要請した。しかし、農水省は否定的だ。
 農水省は備蓄米について、「国民の主食であるお米について、不作の時でも国民が安定的に食べられるようにしていたところですが、1993年にはお米が大凶作となり、消費者の方々がお米を求めてスーパーに殺到しました。この経験を踏まえ、いつでもお米を供給できるよう、1995年からは、法律により、国によるお米の備蓄を制度化しました(同省「消費者の部屋」こども相談)」と説明。備蓄の水準を「10年に1度の不作に対処し得る」100万トン程度としている。
 とすれば、今こそ備蓄米の出番と考えられるものの、備蓄米放出には時間がかかるし新米の出回る時期と重なり意味がない、と農水省の対応は冷たい。

 さらに、「政府備蓄米の放出が、民間流通が基本となっている米の需給や価格に影響を与える恐れがある」との懸念も示している。
 8月13日からコメの先物取引が堂島取引所で開始されている。コメ先物は世界初の先物商品として、堂島取引所の前身である「堂島米会所」が江戸時代に取引を始めたものであり、その復活は関係者の悲願とされていたという。
 もしも、「需給や価格に影響を与える」心配が先物取引開始時期と重なることに配慮したものであるならば「食料の安定供給の確保」という本来の使命を放棄したことになる。むしろ「必要があればいつでも備蓄米を放出する」という政府の姿勢を国民に示すべきではないだろうか。

 今回の米不足を減反政策の結果とする意見があるが、コメの生産を調整するため、都道府県ごとの生産量を決めた減反政策は2018年に廃止されている。一方で、コメの消費量が年々減少していることを背景に、コメから他の作物に転作する生産者への補助金など生産抑制の仕組みは継続されている。消費者にも、主食であるコメの生産事情に理解を求めたい。
 今の米不足が一時的とはいえ、台風10号の影響が懸念される中で消費者の不安は大きい。農水省には国民に分かりやすい説明と、総理の言う「消費者の立場に立った」機動的な対処が求められている。

<プロフィール>
1968年 農林水産省入省(主に、食品産業・食品流通関係行政を担当)
2001年 近畿農政局 企画調整部 消費生活課長
2003年4月 総合食料局 消費生活課 企画官
2005年4月 消費・安全局 表示・規格課 食品表示・規格監視室長
2009年1月 総合食料局 食糧部 消費流通課長
2011年 8月 農林水産省 退官
 近畿農政局時代にBSE、牛肉偽装問題を担当、以来10年にわたり食品表示の監視業務に携わり、さまざまな食品偽装を摘発。2008年の事故米不正流通ではチーム長として、事故米の流通ルートの解明を担当した。公務員として、東日本大震災被災者への食料支援が最後の業務となった。
 退官後は、「元食品表示Gメン」として食品表示に関わるさまざまな情報を発信、メディアにも出演している。
<著 書>
『食品偽装・起こさないためのケーススタディ』共著(ぎょうせい)2008年
『食品偽装との闘い』(文芸社)2012年

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