寄稿⑤「食の安全」を振り返る 健康食品が抱える本質的な課題、「平和」な中で露呈した1年
(一社)日本健康食品規格協会 理事長 池田 秀子 氏
大麻グミ問題が意味するもの
2023年も押し迫って大麻グミ問題が浮上したが、それを除けば23年は健康食品の安全性という観点からは平和な年だった。大麻グミでは健康被害が続出し、NHKニュース等でも取り上げられたが、問題成分のHHCHを指定薬物とする緊急措置がとられたため世間の関心もほどなく消えたように思われる。しかし、大麻グミは健康食品が長らく抱えてきた本質的な問題を露呈しており、もしも重症の有害事象が発生していたなら、健康食品に大打撃を与えずにはおかなかったに違いない。
HHCHは大麻成分に似た合成化合物である。わが国ではHHCHのような新規成分(原材料)について販売前に食品としての安全性を評価し、許可する制度がない。食薬区分リストに成分(原材料)がないとしても、それを厚労省に照会して「専ら医薬品」か「非医」かの判断を得るかどうかは事業者の判断(良心)次第である。今もこうした成分を悪用する隠れ蓑に健康食品が利用される実態に憤慨しつつも悲しく思う。
GMPめぐるいくつかの動き
さて、業界内でさして話題にもならなかったが、もう1つの問題として、GMP認証機関である日本健康・栄養協会と日本健康食品規格協会が共に健康食品認証制度協議会(以下、協議会と略す。)と縁を切ったことを挙げたい。2団体は共に平成17年通知が発出された2005年からGMP認証を開始したが、協議会が活動を開始したのは2011年である。協議会はもともと業界8団体によって創設されたのだが、現在、業界団体は全く協議会に関与していない。協議会は国内のGMPのレベルをそろえ、民間の認証活動が適切に実施されていることを確認・指導することであったはずだが、その役割を十分に果たしてきたとは到底言い難く、両団体が協議会と縁を切ったことは言わば当然でもあり、悔いもない。しかし、協議会が担っていた民間認証と国をつなぐという重要な役割を、もはや必要ないとは言えず、問題は残されたままだ。わが国のGMPはあくまで事業者の任意の努力としか位置付けられておらず、サプリメントの品質確保にGMPを義務化している諸外国への輸出においても今後課題として大きくなるものと思われる。
そうした懸念の中で、去る11月21日に健康食品の安全性自主点検並びにGMPガイドラインとして知られる平成17年通知の改正案に対するパブリックコメントが開始された。24年4月からの厚生労働省基準審査課の業務の消費者庁への移管に先立つ措置であるが、意見締め切りが12月21日0時、翌1月下旬から施行予定という急ピッチのスケジュールである。
改正17年通知への対応どうする
改正案の特徴は、従来の健康食品の成分(原材料)の安全性自主点検とGMPのほかに、適正な製品設計が新項目として追加され、基原材料から最終製品の製造・加工・輸入に係る全ての事業者が対象者とされ、それぞれの段階で安全性確認作業を行う事とされたことである。安全性確認フローチャートでは、点検対象原材料とその基原材料に含まれる成分の安全性・毒性情報の確認も要求されており、必要に応じて分析試験の実施も行うなど、17年通知よりも要求レベルが高くなっている。GMPにしても指定成分GMPとHACCPとを取り込んだ内容となっており、従来の純粋なGMPとは様相を異にしており、これを矛盾なくスムーズに進めるための検討を余儀なくされている。
冒頭に「平和」と敢えて記載した。世界はウクライナやイスラエルの戦禍、ミャンマーやハイチ等々の国内情勢の悪化など予断を許さない。健康食品業界も油断禁物の状況である。
<プロフィール>
北里大学薬学部薬学科卒。薬剤師、臨床検査技師。東京田辺製薬㈱研究開発本部などを経て2013年9月より現職。バイオヘルスリサーチリミテッドの取締役社長も務める。