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女性向けサプリ普及、後押し期待 【フェムテック特集】一方で立ちはだかる薬機法の高い壁(後)

2兆円の経済効果 労働損失の軽減で

 フェムテック製品・サービスの普及によって得られる経済効果も試算されている。

 前述した経産省の委託調査事業「働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査」の報告書によると、その額は約2兆円に上る。PMSや月経に関連した症状に伴うパフォーマンスの低下を軽減したり、更年期症状や不妊治療などに伴う離職を減らしたりなど、女性のウェルビーイング(Well-being)の実現にフェムテックの普及が寄与することを前提条件とする試算だ。

 女性に特有の月経に関連した症状(月経随伴症状)による社会経済的負担について、年間で約6,300億円に上るとする日本人女性を対象にした調査データがある。そのうち7割超の約4,900億円を「労働損失」が占める(ちなみに、労働損失以外の負担は、通院費用として約930 億円、OTC医薬品費用 として約980億円)。

 それを前提に上記の報告書では、フェムテック製品・サービスの普及によって「PMS、月経に関連した症状に関する知識が広まり、これまで治療など適切な対応を取ってこなかった女性が約60%→30%まで低下する」ことを条件に、月経随伴症状による労働損失が「半減」すると仮定すると、フェムテックの普及に伴う月経分野の経済効果は年間で約2,400億円に上ると試算する。前提条件が崩れると「絵に描いた餅」であるが、月経分野に続いて妊娠・不妊分野に関しては約3,000~5,000億円、更年期分野では約1.3兆円の合計計約1.9~2.1兆円の経済的インパクトが見込める、としている。

 そのようにフェムテックが普及していけば、市場規模も大きくなっていく。国内のフェムテック・フェムケア関連消費財・サービス市場を22年に調べた㈱矢野経済研究所(東京都中野区)によれば、21年の市場規模は7.7%増の642億9,700万円。22年はさらに拡大し701億1,300万円が見込まれるとする。

 一方で、世界のフェムテック市場の拡大スピードはより急速だ。米調査会社のフロスト&サリバンでは、19年に820億円であった市場規模が25年には5兆円を超えると予測。年平均成長率は101%超に達すると見ている。

 このように、女性のライフステージ全般にわたる健康課題に対応するフェムテック・フェムケアは、「女性特有のライフイベントに起因する望まない離職を防ぐ」(成長戦略フォローアップ)ことを通じ、女性が働きやすい環境の整備、女性の活躍促進──といったSDGsにも関わる社会的な要請に応える製品・サービスになり得る。

 少子化で不足する働き手を確保したり、セルフケアを通じて社会保障費の自然増を抑えたりしたい政府の意向ともマッチしているといえ、健康寿命延伸を旗印に掲げるヘルスケア産業と同様、新たな産業として成長していけば、女性の健康だけではなく、日本経済の成長に寄与する可能性を秘めている。しかし、成長を阻むものがある。医薬品医療機器等法(薬機法)の壁だ。

ヘルスケア産業の宿命 薬機法規制が壁に

 医療や医薬品に近接するヘルスケア産業の宿命というべきか、フェムテック関連製品・サービスも薬機法の規制を受ける。

 例えば、前述した生理用ナプキンを不要とする吸水ショーツ。これは「生理用」である旨の訴求が規制される。生理処理用の紙ナプキンは薬機法で規定される医薬部外品として規制されており、規格基準が設けられている。生理用タンポンも同法に基づき医療機器に分類されているため、吸水ショーツはそのどちらでもない「雑品」として取り扱われることになる。そのため、生理用の下着として開発した一方で生理用である旨の「機能」を訴求すれば、薬機法に抵触するおそれがある──このように製品やサービスとしての法制度上の位置づけが明確にされていないことを背景にした規制を受ける。

 そうした規制の緩和、その上での品質などを担保するためのルールメイキングを通じて、フェムテック製品・サービスの普及を目指すフェムテック振興議連や、フェムテック産業の育成を担う経産省の動きもあり、生理用の吸水ショーツを医薬部外品として申請したり、広告宣伝を行ったりする際の一定のルールが現在までにまとめられてはいる。しかし、同類の規制事例は他にもある。サプリメント・健康食品も例外ではない。

 医薬品ではないサプリメントや健康食品でPMSや更年期症状に対する有効性を訴求することは、薬機法をはじめ景品表示法、健康増進法の規制を受ける。有効だと言える根拠がないのだとすればそれは当然のことだとしても、一定の科学的な根拠に基づき、機能性を訴求できる機能性表示食品においても、フェムテックの領域に展開できそうな製品は今のところ出ていない。治療を受けるほどではない、月経や更年期に関連する軽微な不調を有する女性を摂取対象にするような届出がない、という意味だ。そうした機能性表示食品の届出にチャレンジした事業者が存在しなかったわけではない。一般消費者に医薬品と誤認されるおそれがある──そのような強い懸念が行政側にあるとみられる。

 PMSや更年期障害のための一般用(OTC)医薬品が多く存在することも、この領域の機能性表示食品の届出を困難にさせている。PMSに関しては、西洋ハーブ(チェストベリー乾燥エキス)を配合した、いわゆるダイレクトOTCの『プレフェミン』(22年4月に要指導医薬品から第1類医薬品へ移行)が知られる。効能効果は「月経前の次の諸症状(月経前症候群)の緩和:乳房のはり、頭痛、イライラ、怒りっぽい、気分変調」。

 また、更年期症状の改善薬としては各種の漢方がある。その中でも売れ筋とされる『命の母』シリーズ(第2類医薬品)は更年期症状からPMSまでを守備範囲としており、この領域では有力な医薬品だ。

「いわゆる」で行くか 消費者庁に届け出るか

 2015年4月の機能性表示食品制度の施行を受け、ダイエットや美容、アイケアをはじめとするさまざまな領域の製品が、「いわゆる」付きの健康食品から機能性表示食品に順次移行していった。

 しかし、フェムテックの「一丁目一番地」と言える女性の「生理」に関連する領域は、いわゆる健康食品の世界に取り残されている。そのため、サプリメント・健康食品業界でも注目度が高まっているのとは裏腹に、フェムテック・フェムケア市場に向けて最終製品を投入しようとする動きは鈍いのが現状だ。

 規制を覚悟の上で「いわゆる」のまま「暗示」で機能を伝えるのか。そうではなく、医薬品と誤認されないヘルスクレームを行う機能性表示食品の届出を実現させ、堂々と機能を伝えていくか──フェムテック・フェムケア市場にサプリメント・健康食品を広げていくための選択肢はそのいずれかしかない。後者の道を選べば、健康管理アプリなどのフェムテック関連サービスと連携した「セルフケア」を提供できる可能性も出てくる。

 日本のフェムテック元年が21年だとすれば、今年は3年目。機能性表示食品の届出に向けた準備もそろそろ終わった頃だろう。2023年が日本のサプリメント・健康食品にとってのフェムテック元年となるかどうか注目される。

(了)

【石川太郎】

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