大規模産地偽装が発覚した2022年(前) 相次ぐ産地偽装、表示規制を元食品表示Gメンが振り返る
元食品表示Gメン 中村 啓一 氏
アサリの産地偽装、国・県を挙げての大騒動に
昨年は大規模な産地偽装が発覚し、筆者も講演や執筆で大わらわの1年だった。
2月、農林水産省は熊本県産アサリに外国産が混入している可能性があると公表した。流通しているアサリのDNA分析だけで、特定の産地の産品について産地表示を疑う公表は極めて異例だ。
公表の背景には、年間で漁獲量20トン余りの熊本県産アサリが、2,400トン以上も熊本県産として消費者に販売されているという看過できない現状があった。事実、その後の国や県の調査により、偽装を行っていた事業者が相次いで摘発され、地元の業者が関わっていた事例も発覚している。
アサリの産地偽装は、畜養した場合に、稚貝の産地に関わらず生育期間の長い都道府県を産地とする、いわゆる「長いところルール」を悪用したとされたことから、食品表示基準Q&Aの改正により、証明書類の保存を求めるなどの管理が厳格化された。併せて、従来から議論のあったしいたけについて、菌糸の培養段階の環境が大きな影響を及ぼすとして、収穫地ではなく、原木または菌床培地に種菌を植え付けた場所を原産地とすることとした。
輸入ごぼうなどの偽装相次ぐ
産地の偽装は、アサリ以外にもさまざまな品目で繰り返されており、昨年も、ごぼう・しいたけ・ワカメ・シジミなどが摘発されている。
ごぼうは、中国から土を落として輸入されたものを国内で土をつけ直して国内産に偽装していたことが話題となったが、この手口はこれまでも里芋などで行われている常套手段だ。行政も産地表示については安定同位体分析による産地判別など科学的手法も取り入れて監視を強化しているが、偽装の特定は簡単ではない。
無添加不使用表示に一定の歯止め
3月、消費者庁は「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」を公表した。食品表示法は、商品に付随して表示すべき事項や表示方法を詳細に定めているが、事業者が任意で表示する事項については、輸入原料を使用しているにもかかわらず国産使用等の強調表示など、食品表示基準で表示すべき事項の内容と矛盾する用語や内容物を誤認させるような文字等を禁止してはいる。
しかし、食品添加物にみられる不使用表示については明確な基準がなく、一部に誤解を招く表現もみられることから対策が求められていた。
ガイドラインは、食品添加物の不使用表示を一律に禁止するものではないが、単なる「無添加」など表示の対象が消費者にとって不明確なものや、人工、合成、化学、天然等食品表示基準に規定されていない用語など、表示禁止事項に該当する恐れが高いと考えられる表示について10の類型を示して注意を喚起している。これにより、氾濫している「化学調味料不使用」などの表示がなくなるのか、ガイドラインの効果を注視したい。
原料原産地表示が完全施行
4月には、3年半の経過措置期間を終了し、国内で作られたすべての加工食品に対して、原料原産地表示を行うことが義務付けられた。これ以前は、農畜産物すべての生鮮食品に原産地表示が義務付けられており、加工食品については、原産地に由来する原料の品質の差異が、加工食品としての品質に大きく反映されると一般に認識されている品目のうち、乾燥した野菜や味付けした肉など、加工の程度が低く、生鮮食品に近い加工食品22品目群と、うなぎ蒲焼など個別4品目を対象に原料の原産地の表示が義務付けられていた。
加工食品は、国内外から多様なルートで原料を調達し、加工度が高く産地が製品の品質にあまり関わらない品目もあることなどから、産地表示のルールも限定的に運用されていたが、日本の環太平洋パートナーシップ(TPP)への加盟に伴い、2017年に国内対策として原料原産地表示が全ての加工食品に拡大されたのである。
新たに対象とされた加工食品は、一番多く使用されている原料について、原産国や中間製品の製造地の表示を基本としたものの、A国又はB国などの「又は表示」や複数の輸入先をまとめて輸入とする「大括り表示」なども認め、表示根拠を過去の実績や今後の計画とするなど、様々な例外規定が設けられている。
(つづく)
<参 考>
アサリの産地表示適正化のための対策について:農林水産省
新たな原料原産地表示に関する情報:消費者庁
食品添加物不使用表示ガイドラインについて:消費者庁
<著者プロフィール>
1968年農林水産省 入省(主に、食品産業・食品流通関係行政を担当)
2001年 近畿農政局 企画調整部 消費生活課長
2003年4月 総合食料局 消費生活課 企画官
2005年4月 消費・安全局 表示・規格課 食品表示・規格監視室長
2009年1月 総合食料局 食糧部 消費流通課長
2011年 8月 農林水産省 退官
近畿農政局時代にBSE、牛肉偽装問題を担当、以来10年にわたり食品表示の監視業務に携わり、さまざまな食品偽装を摘発。2008年の事故米不正流通ではチーム長として、事故米の流通ルートの解明を担当した。公務員として、東日本大震災被災者への食料支援が最後の業務となった。
退官後は、「元食品表示Gメン」として食品表示に関わるさまざまな情報を発信、メディアにも出演している。
<著 書>
『食品偽装・起こさないためのケーススタディ』共著(ぎょうせい)2008年
『食品偽装との闘い』(文芸社)2012年
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