唐木東大名誉教授が受託2社に問う(2) 【座談会】受託製造から見た機能性表示食品の今
機能性表示食品といわゆる「健康食品」の線引きは?
唐木 お話の中にも出ていましたけれども、いわゆる健康食品の問題ですね。いわゆると機能性表示食品を取り扱っておられて、何か感じるところはありますか。
又平 いわゆる健康食品というのが、言葉として適切かどうかというのは別にして、食品である以上、何らかの機能があると思うのですね。それを期待する消費者の方が、一定の認知度の中で食べていただいている。ですから、伝承的に何らかの体感があるからこそ続いてるものだと思います。ただ残念ながら、そういったものの中にもいいものがあるのですが、機能性表示の今の制度では受けられないということもあります。このように、きれいに線引きしてしまうというのがいかがなものかと、個人的にはずっと考えているところです。昔から食べられていて、健康にも良いと伝えられているものの中にもしっかりとしたエビデンスを取れば、今後、機能性表示食品に移行できるものがあると思いますし、表示上は何も書けませんが、従来から長く伝えられてきているものの中には、それなりに良いものはあると思いますから、それはそれでしっかり認めていくべきではないかと思います。
取り出すのは薬理作用だけ、試験法はこのままでいいのか?
唐木 今のお話は非常に重要なポイントだと思うのです。「特定保健用食品」、「機能性表示食品」、「いわゆる食品」というのは行政的には分けているけれども、中身は本当に違うのか?それは試験制度とか制度が違うだけであって、実際、又平さんが言うように、何かいいものがあった時に、それをどうやってうまく利用できるのか、それを今は試験法で試験をしないといけないということになってるけれども、その試験法というのは薬理作用だけを取り出す試験法です。でも、あらゆる医療、それから薬に付きまとうのは心理作用なんですね。心理作用が非常に大きいというのをどう評価するのか、これは今の薬の世界では評価した上で除去することになっている。ただ、健康食品では心理作用がプラスである、しかも薬理作用がプラスである、こういう両方を認めないと健康食品は成り立たないと私は考えているのですが、そういう意味で非常に大事なご意見だと思います。
和田 三生医薬さんが機能性表示食品も、いわゆる健康食品も作り方は同じだと言いましたが、私どももまさしく同じです。機能性表示食品だから、健康食品だからというのは全くありません。元々私は、製薬メーカーの製造工場にいた人間ですけれども、今の健康食品は昔と違って健康食品GMPによる製造工程管理もしっかりしてきましたし、OTC医薬品も機能性表示食品も、いわゆる健康食品も、作り方は同じになっていると思います。中身に関して違いがありますが、作り方についてはほとんどが同じだと思います。
唐木 品質管理は完璧にできているというふうに考えますか。
和田 全ての事業所がどうかわかりませんが、そう考えます。
又平 そうですよね。
唐木 そこまでは誰も心配しないのだけれども、関与成分の効果判定ですね。そこが一番問題になると思います。萩生田さん、何かありますか。
萩生田 かねてから健康食品は心理作用が大きいというのは非常に感じておりまして、例えば唐木先生のご講演で、伝統医療を提唱した「スモールウッド報告書」がありますが、あのデータはすごく好きなんです。医薬品でも心因作用の大きなものがあって、それが普通の食品とも変わらないような効果を持つということなど、認知していただくことが非常に重要だなと実感しています。ただし、それを実感してもらうにはどういうふうに広めて理解してもらうか、業界の中でも少し課題かなと感じています。
唐木 それはね、もう立派な教科書がある。それはアメリカのサプリメント法ですね。あれがどうやってできたかというと、サプリメント業界が消費者に呼びかけたのですよ。消費者はサプリメントのメリットをみんな享受していたわけです。それはサプリメント法案を作って、公式に認めなくちゃいけないという多数の署名が議会に上がったんですね。それでサプリメント法ができたのです。
日本の業界、私も含めて関連の人たちは消費者団体と一緒にこれをやっていこうという意識がほとんどないし、消費者団体も、どちらかというと消費者庁寄りなのですね。厳しい方がいいというね。だから我々としては、私としても、消費者団体の人に何とか納得してもらうと、国民的な運動が広がって、アメリカのサプリメント法案みたいに日本でもいわゆる健康食品法案なり、新しい法律ができて、健康食品が新しい存在として社会的に認められる、こういう方向に行って欲しいなと思ってるんですけれどもね。切り札は消費者のサポートだろうと思います。アメリカの例から見るとそんな感じがしています。もう1つは、ロビー団体です。議員にお金を渡してロビー活動する。日本ではそれが悪いことみたいに受け取られるけれども、アメリカとかヨーロッパでは当たり前のことなんですね。日本でも業界団体は、特に医師会などはロビー活動をしてますが、ああいうものに習うことも大事だろうなという気がしますね。
PRISMA2020準拠、改正GLへの対応は?
唐木 9月30日に通知された改正ガイドライン、そしてPRISMA2020への対応についてですが、機能性表示食品制度に向き合う中で、この問題について直面している課題とその対策、具体的な成果。どう対応していこうとしているのか、どういう対策をお考えになってるのか、その辺についてお聞かせください。
和田 当社としてはまず直面している課題として、6月30日に消費者庁が出した措置命令後の変化についてお話しいたします。届出業務をやる中で、これまでにも消費者庁の食品表示企画課が、私どもの届出に対して、SRの科学的根拠の細部にまで踏み込んだかたちで差し戻してきたことは何度もあります。特に新しいヘルスクレームであったりとか、新しい機能性関与成分においては。そういう中で、お客様からも早く何とかしてほしいと催促されるけれども戻ってくる。前回は良かったけど、今回は差し戻される。担当官によっても違う。そういうことがあって、正直言って、非常に困ったという実情がありました。
そんな中、消費者庁の表示対策課が実際に論文の中身まで細かく調べたところ、科学的根拠が不十分であるということになり、もう一度見直してくださいということになった。実は、当社の届出商品にもありました。機能性表示食品制度が施行されてから丸8年が経っていますが、だんだんと、あたかも受理されるのが目的になっていたという現状に気が付いた次第です。実際には、商品が市場に出てから事後チェックで問題が発覚する方が、非常に大きな影響があるということを改めて痛感しました。
今後どうするかということで、学術担当含め、今一度社内で事後チェック指針を徹底的に見直しました。そして、先ほどお話しした体制の一部見直しもそうですが、社内で根拠論文の精査も含めたチェックリストを作りました。これまでは原料メーカーからSRをいただいて申請する時には、受理実績があるものは、よほど何かおかしいなと思う以外は、ほとんど根拠論文の精査はしておりませんでした。今後は最終製品を作っている当社の責任として、少なくとも製品の摂取設定量以下の根拠論文の中身を徹底的に見てから申請するというかたちに方向を転換しました。それと同時に、今回、消費者庁からもありましたが、時代は変わっていくわけですから、定期的にSRを見直す方向で考えています。
萩生田 PRISMA2020に対する対応ということでお話させていただきます。現在まで、当社を届け出者とした製品が28製品あります。また、当社が作成したSRがヘルスクレームでいうと7件あります。こちらの対応について、猶予期間をいただいていますので、2025年4月までに完全に同2020に移行するということを決定しています。その中で延べ30件のSRの確認などの関連作業がありますので、それで得た知見をお客様に還元していくといった対応を考えております。
PRISMA2009から同2020への移行についてですが、もちろん大きく変わったところはあると感じておりますが、基本的な考え方というのはそこまで変化がないので、英語の原著論文になりますけれどもしっかり読み込んで、こう書いていけば良いという指標もありますから、それに沿って作成すれば問題ないと考えています。また原料メーカーの中にはすぐに対応したいというような声もあるので、そういった原料メーカーが先んじて出した資料なりを確認しつつ完全移行に向けて進めていくというように考えています。
(つづく)
【文・構成:田代 宏】
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