南課長が語る「景品表示法とは?」 全国消団連の学習会に消費者庁表対課長が登壇
景表法とは何か?改正景表法はどうなるの?(一社)全国消費者団体連絡会(東京都千代田区)は3月2日、「景品表示法の今~基礎から検討会報告書までを学ぶ」というテーマでオンライン学習会を開催した。講師に、消費者庁表示対策課長の南雅晴氏を招へいした。
南氏は、「景品表示法の基本的な考え方」と題して講演した。法律とは何か、なぜ国民は法律を順守しなければならないのかという法治国家の原点から説き起こし、景品表示法の歴史、景表法の要件と効果などについて、かみ砕いた表現を交えながら初心者にも分かりやすい解説を行った。
景表法のルーツは競争法
景表法は元々、公正取引委員会が公正な競争を阻害する恐れがある行為を規制した競争法にルーツを持つ。事業者側から見た欺瞞的顧客誘引や不当な利益による顧客誘引に関し、消費者との関係で問題が大きいと考えられる不当な表示と過大な景品類の提供について、さらに規定を具体化したものだと説明。
「正しい情報で商売をするか、正しい情報を選択するか、事業者側から見るか、消費者側から見るか、その評価の違いに過ぎない」と南氏は続けた。「表示と実体が違っていれば、神様しか見分けられない」。
景表法の目的は?
法律を解釈する場合、「法律の条文を理解するためにはまず、その目的を見ることが大事」とし、「目的規定は解釈のためのモノサシ、ガイドラインを指すもので、法律は目的を達成するための手段を定めているもの」と、目的が法解釈の糸口になることを強調した。
景表法の目的は「商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止する」こととし、不当な顧客の誘引とは「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を歪める行為」と説明。このような行為を禁止し、一般消費者の利益を守るのが景表法の目的だとした。
南氏はこのことを分かりやすく説明した。
「間違った選択のせいで本来選択したかもしれない正しい選択肢を無駄にした。これはとんでもないこと。正しい情報に基づいて正しい選択をする権利を守るのが景表法の主旨・目的」と述べた。そして、景表法はあくまで選択を守るための法律であり、特定商取引法のように購入者が被る被害を守るために業務停止や商品の販売禁止のような権限は持ち合わせていない。目的と手段のバランスという観点から、表示を排除することしかできないことになっていると補足した。
あらゆる表示が対象となるが、あくまで問題となるのは「事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他表示」(景表法2条4項)であるかどうかにかかる。例えば、新聞の広告は新聞社が発行する紙面上の広告だが、広告主は事業者であるために新聞社の責任は問われない。
同様に、あるメーカーが小売業者に販売した商品が店頭に並んだ場合、そのパッケージにある不当表示の責任は小売店にあるのかというと、「そうではない」(同氏)。景表法上、表示規制の対象となるのは「表示の内容の決定に関与した者」(表示主体者)とされているため、責任を問われるのはパッケージの表示を決めたメーカーということになる。
不当表示(優良誤認・有利誤認)とはどういう表示か?
南氏は、広告というものが「良く見せたい」、「安く見せたい」などとある程度の誇張を含んでいることは織り込み済みと説明。ただし、「内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示」(優良誤認)、「取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」(有利誤認)などを不当表示とみなす。
それがどういう場合かというと、「社会一般に許容される程度を超えていることを指す」(同氏)。ではその誇張・誇大が社会一般を超える「著しい」とはどういうものか?それは顧客が誤認して誘引されるかどうかで判断する。逆に言うと、「もしその誤認がなければ、あらかじめ表示と実体が異なることを知っていたら、消費者は誤認させられることもなかっただろう。要するに、消費者が『え?そこ違うの?ガッカリ・・・』と思うかどうか」だと例えを挙げて説明した。
改正景表法案とステマ規制告示案
2月17日に公聴会を開いたステルスマーケティング規制のための告示指定に関する報告書、2月28日に閣議決定した改正景品表示法の報告書などにも言及した。
改正景表法では、不当表示を行った事業者が措置命令を免れるための自主的な取り組みとして、新たに「確約手続」が導入されることになる。措置命令には1年近い時間がかかる。課徴金納付命令にはさらに倍近い時間がかかる。その上、誤った措置を行うと、事業者から取消訴訟が提起される。そのような中、これまでは自主的に改善するという事業者がいても、法律上、その声を受け止める仕組みがなかった。南氏はその運用についておおよそ次のように話した。
法律ができたら、その下位の法令で確約に関する書式や様式によって確約の申請をどのようにするかを定める。どういう考え方で確約を動かしていくかというガイドライン、運用指針みたいなものを作る。
確約認定に当たっては、措置が一般消費者の誤認排除のために十分か(十分性要件)、事業者がきちんと措置を守ってくれそうか(確実性要件)、この2つの要件についての考え方を明らかにする。法律上、確約の通知をしたとしても調査をすることができるようになっているので、そこは事業者の立場も考えた運用を図る。
確約認定は、法律に基づく行政処分。事業者が認定どおりに計画を遂行しなければ、途中で取り消して改めて処分することになる。確約手続の導入によって、措置命令の執行力が弱まるのではないかとの危惧があるが、そういうことはない。確約に従いそうもない事業者を認定するようなことはしない。むしろ、早く終わらせることのできる事案は早く終わらせ、別の事案に注力する。例えば、これまでに40件の措置命令を行っているが、1件でも確約にいけるのであれば、40件だった措置命令が41件になるかもしれないというイメージ。いずれにしても、法律というのは、最終的には主権者である国民が作ったものだから、国民に与えられた法律を運用する我々の立場として、確約の認定の実績は公表しなければならないと思っている。
食品表示法との違いは?
また、食品表示法と景品表示法の違いについて分かりやすく説明した。原産地表示違反は景品表示法の規制対象ではないのか、という質問が出た。
南氏は、両方共に表示を規制する法律だとした上で、それでもそれぞれに主旨と目的が異なり、役割が違っていると説明した。
食品表示法とは、消費者の購入、商品選択に当たってこの情報は必要だから最低限書いてもらおうというのであらかじめ義務付けてしまう法律。食品に限り、原産地や原材料、重量などについて必要な情報を書くように義務付けているものだが、そこには良いとか悪いとかいう価値判断は入らない。とにかく書かないとダメというのが食品表示法である。
他方、景品表示法とはあらゆる商品サービスが規制対象となる。原則、広告は自由である。何を表示してもいいが、ただし、消費者にガッカリを与え、ガッカリさせるような表示はダメ。ものすごく優良な商品だと表示しながら、実際は違う。ものすごくお得だと表示させて、実際は違う。こういったものを規制するのが景表法だ。
そこで、原産地ということだけだと、直ちに群馬県産の何かと、栃木県産の何か、これが仮に表示と実際が違っていたとしても、食品表示法はきちんと書くべきものを書かなかったということで問題になるが、景表法的には群馬県と栃木県どちらが優良なものかは分からないため、(よほどのことがない限り)景表法では規制できないということになっている。
ここで南氏は、2つの法律の役割についてユニークな例えを引用した。
表示規制は大きく2つに分かれると思っている。食品表示法のようなあらかじめ表示を義務付けるのは学校の制服で言えば、まさに制服があるパターン。当校の制服は、この指定マークの付いた制服しか着てはいけませんというケース。これが食品表示法の世界。
景表法は私服だ。当校に制服はないので自由でいい。ただし、著しく、我が校の風紀を乱す服はいけない。これが景表法の世界で、我が校の風紀を乱すかどうか、これは具体的に、例えばトゲトゲが出て危険であるとか、そういうものはダメというイメージ。
南氏はこの他、違反行為を繰り返す事業者に対する課徴金の割り増しなどの強化策にも言及。さらに多くの違反例、裁判の判例などを示しながら、景表法による表示規制の正当性について説明した。
【田代 宏】
(冒頭の図:学習会のチラシより)