全相協・増田理事長「建議がデジタル化推進の理由に使われた」~KC’s総会シンポ
特定適格消費者団体の(特非)消費者支援機構関西(KC’sケーシーズ)は26日、2021年度総会記念シンポジウムをオンラインで開催した。
基調講演では、適格消費者団体(公社)全国消費生活相談員協会(全相協)の増田悦子理事長が「特定商取引法の改正について考える」と題して、消費者相談員の立場から見た改正特商法に関する見解を示した。KC’sの坂東俊矢常任理事がコーディネーターを務めた。
増田理事長は昨年2月18日から8月19日まで開催され、自らも委員として参加した「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」(制度の在り方検討会)から6月16日に改正法が公布されるまでの経緯について説明した。
同検討会で増田氏は、法改正を目指し半年程度で報告書を作成すると聞いて「そんなことができるのか」と半信半疑だったという。ただし、法改正に関する過去の委員会では、消費者対事業者という対立構図に陥りがちだったのが、同委員会では悪質な事業者を共通の敵とみなすことで意見が一致し、「最終的に非常に納得感のある報告書となった」と評価した。
ところが、今年6月2日時点で全国各地の消費者団体・弁護士会・司法書士会など164団体から反対意見が出されるなどの異例の事態を招いた「電磁的方法による契約書面の交付」については、「いきなり出てきた。(検討会の)報告書には一文字もなかった」と不信感を示した。11月9日の規制改革推進会議第3回成長戦略ワーキンググループで英会話スクールの事業者の報告に基づいて特定継続的役務提供の書面について電子化が検討され、同21日の第2回規制改革推進会議でも特定役務に限定して改正措置を講じるとされていたと説明。1月14日に開かれた消費者委員会本会議で初めて全ての役務に対して電子化を認めるとの改正措置が講じられた。
その後、1月20日に開かれた自民党消費者問題調査会で改正法案が了承されるに至ったが、「同会は消費者庁が一番最初に法案として提出するにあたって説明を行い、ここで了解されるとほぼ国会で可決されるというような場」と説明。「この段階でデジタル化に関する問題や懸念については、議員の先生方はほとんど理解していなかったように思う」と述べた。
さらに2月4日に消費者委員会が消費者庁に提出した「建議」は、デジタル化を前提としたものではないにもかかわらず、国会で井上信治内閣府特命担当大臣に、「デジタル化推進の理由として使われてしまったのが残念」とした。しかし「成立してしまった以上は、政省令で厳しく規定して、最低限の被害の未然防止、被害回復ができるようにしてほしい」と今後に期待した。
増田理事長は改正法において注意を要する点として、クーリングオフの発信主義が明確化された点に言及。消費者が電磁的方法で行うことが可能となるが、クーリングオフを口頭で伝えていた場合の効力については、「これまでにも裁判で認定されている。消費生活相談においても、口頭やメールで伝えても通知したと主張して認められているため、今さら電磁的方法を可能とすることを追加するまでもない」とし、「むしろ電磁的方法による書面交付をバーターとして了解するわけにはいかない」と消費者委員会で発言したと述べた。
また、機器の不具合、消費者の操作ミス、事業者のアドレス変更、悪質な事業者による意図的な拒否設定などによって通知が届かないことも考えられる。悪質な事業者は何年かして支払いを請求してくる可能性もあるとし、「相談員としては外見的に明らかな時効の成立まで発信した証拠を保存して残しておいてほしい」とし、相談現場における適切な情報提供とその工夫が必要となると同時に、消費者教育として組み入れる必要性があるとした。
シンポジウムでは、坂東常任理事が法改正の経緯、国会における審議、消費者団体の関与などについて増田理事長の評価を聞いた。
【田代 宏】