健康食品産業協議会・橋本会長に聞く 【機能性表示食品特集】認知機能めぐる指導/届出事前確認
認知機能表示に対する一斉監視・行政指導、そして民間団体による届出の事前確認の制度化といった機能性表示食品をめぐる行政主導の大きな動きを、健康食品業界はどう受け止め、対応するべきなのか。健康食品業界6団体や関連企業らで構成される(一社)健康食品産業協議会の橋本正史会長(=写真)に聞いた。
<制度の原理原則、改めて理解する必要>
──消費者庁表示対策課による認知機能表示をめぐる改善指導は115社131商品に及びました。受け止めを聞かせて下さい。
橋本 残念に感じています。事後、田中誠室長(消費者庁表示対策課ヘルスケア表示指導室)に話を伺いました。多くの企業が指導を受けたわけですが、主な目的は、消費者に対する注意喚起であったと聞いています。
今回はたまたま認知機能であったと受け止めています。言うまでもなく、健康食品にせよ機能性表示食品にせよ、疾病の治療や予防を目的にしたものではない。一方、そうしたものだと誤認されかねない表示も行われていたと。とりわけ3社が行っていた表示は、消費者が医療を受ける機会を逸してしまう可能性があるなどとして重く受け止められました。それに比べれば、他の指導を受けた企業の表示は重くないわけですが、やはり、届出の範囲を逸脱した行きすぎの表現がありました。
届出ガイドラインや事後チェック指針、また、業界団体でまとめた事後チェック指針の解説などに沿った表示を行っていれば、そうした逸脱は起こらないはずだと思います。だから、私たち業界団体から企業に対するメッセージとしては、機能性表示食品の表示などに関する原理原則を改めて理解してもらいたい、ということです。
ただ、分かりにくい部分があるのも事実です。どこまでが良くて、どこからがダメなのかといった具体的な線引きが分かりにくい。そこで私たち健康食品産業協議会では、そうした分かりにくいところを、田中誠室長から具体的に説明していただく勉強会を7月に開催する予定です。機能性表示食品に関わる多くの企業が、田中誠室長と直接対話できる機会を得ることが大切だと思っています。今回の問題は、機能性表示食品の市場規模を1兆円、2兆円と引き上げるためにも、上手く乗り越えていく必要があります。それが出来ないと、つぶされてしまいかねない。
──届出の範囲を逸脱してはならない。それはそうです。しかし差別化も必要です。今回の問題は、広告等の表現における差別化が必要だからこそ起きた気もします。
橋本 個人的には、広告などの表現以外にも、他社の製品と差別化したり、消費者とコミュニケーションしたりできる手段はあると思っていますが、私も企業の代表です。ですから差別化にチャレンジすること自体は理解できる。しかし、原理原則を理解していない中でチャレンジするのが最も危うい。「あそこの企業はこう書いている。だからここまでなら問題ないはず」などといった声をよく耳にしますが、他社の事例を判断基準にしてはならないと思います。機能性表示食品の表示などに関する原理原則と、自らの会社の方針に則って判断していかないと、結局、自らが苦しむことになる。まだ指導されていなかったり、処分されていなかったりするだけかも知れませんから。機能性表示食品は、事後規制と事業者責任に基づく制度であるという原理原則も忘れてはなりません。
<切り出し表示、事業者の判断に委ねられている>
──今回の問題では、届け出たヘルスクレームの「切り出し」にスポットが当てられました。どう考えていますか?
橋本 非常に悩ましい。企業の立場としては、長いヘルスクレームを消費者に分かりやすく伝えるために、商品パッケージや広告などでは、できるだけ簡潔に表現したいと考える。一方で、切り出せば切り出すほど、届け出た内容から逸脱してしまう可能性が高まる。そこをしっかり認識しておくべきです。広告にせよ、商品パッケージにせよ、事後チェックが行われているはずです。商品パッケージの表示見本も食品表示企画課に届け出ていることから、事後に問題が起こると、「受理する前に何も指摘しなかったではないか」、「あそこの企業も同じように表現している」などといった不満の声が上がることもあります。それはその通りなのかも知れませんが、他者のせいには出来ない。繰り返しになりますが、事後規制と事業者責任を原理原則とするのが機能性表示食品制度。ヘルスクレームの切り出し方にしても、事業者の判断に委ねられているのだと思います。
──切り出しに関するガイドラインが必要だという意見も業界内から聞こえます。
橋本 消費者に誤認されないようするためとはいえ、届け出たヘルスクレームの全文を広告のキャッチコピーにしたり、商品パッケージの正面に記載したりするというのは現実的では全くない。栄養機能食品でも似たような議論があって、そこは消費者庁も理解していると思います。一方で、切り出しに関して詳細、かつ、明確な業界自主基準やガイドラインを設けるのも現実的ではないと私は考えています。切り出しにはさまざまなケースが想定されますから、それら全てをまとめて一律に「こうすべき」とはいかないからです。
他方で、企業にとって厳しいルールを作ることは簡単ですし、もしかしたら消費者庁もそれを望んでいるのかもしれない。しかし、それは本当に危険なことです。現在、業界団体で議論を進めている機能性表示食品に関する公正競争規約の話にもつながるのですが、企業の足かせになるだけで何らメリットのない自主ルールを作っても意味がない。そのようなルールは誰も喜ばないし、そもそも使われない。だから、切り出しに関しても、行政側の意見を聞きながら、業界側で検討した一定のルールをベースに考えていく必要があると思っています。
<民間団体での届出事前確認、前向けに受け止めたい>
──消費者庁が推進しようとしている民間団体での届出事前確認制についてはどう受け止めていますか。
橋本 個人的な受け止めでもあるのですが、消費者庁からそうした話が出てきたのは当然だと思っています。当初想定されていた以上に届出件数が増えていて、しかも増え続けている。新規届だけでなく変更届も確認しなければならない。その中で、消費者庁として使えるリソースは決まっているのですから、いつか破綻すると考えられていた。破綻の直前まで来た、ということだと受け止めています。「最近、書類確認に時間がかかっている」という企業の声も聞こえてきますが、そうなるのも仕方がありません。
これまでとても頑張ってくれたと思います。初期に比べれば、書類の確認期間は大幅に短縮されました。そこを評価する意見は、業界内にも少なからずある。もちろん、許可ではないと言いながら届出資料を事細かにチェックしているから負担がどんどん高まった、という指摘も理解できる。ただ、これは食品だということもあって、消費者庁はそれをやらざるを得なかったのだと思います。
私見ですが、機能性表示が可能になった後の米国ダイエタリーサプリメント市場の規模拡大を踏まえれば、機能性表示食品の市場規模は今後、1兆、2兆円と成長していってもおかしくないし、届出件数も1万、2万と増えていく可能性がある。その意味で、現在の5,000件超という累計届出件数は、まだまだ発展途上でしょう。そう考えれば、このまま消費者庁で届出資料を慎重にチェックするべきではないし、そもそも中央行政官庁の本来の仕事は法律や制度の立案であって、行政手続き上の書類チェックではないはずです。
──多くの企業が事前確認にかかるコストを気にしていると思います。
橋本 そうだと思います。これまでゼロ円ベースで考えてきた企業にとって、書類確認にコストが掛かることへの拒否感は心理上、当然あると思う。一方、これまで通り、消費者庁に直接届け出る道も残されますから、そちらを選べばコストは掛からない。しかし商品を発売できる時期が見通せないなどといったリスクが残るわけです。
いずれにせよ、民間で書類確認を行う以上、これまで通りゼロ円ベースで、とは考えないほうがいい。1つ製品の届出事前確認に100万円のコストを要するのだとすれば、それはあまりにも厳しいですが、かといってゼロ円にはできない。事前確認を行う団体としても、コストをある程度は吸収する必要がある。考えてもみれば、これまでずっとゼロ円であったことに無理があったのかもしれません。リソースの課題もあって、健康食品産業協議会が事前確認を行う団体になることはないはずですが、多くの企業が納得できる価格設定が行われるかどうかが焦点だと考えています。個人的には、特定保健用食品(トクホ)に求められるようなコスト構造になるわけではない、そういう時代に戻るわけではない、と前向きに受け止めています。
──ありがとうございました。
【聞き手・文:石川太郎】
橋本正史氏プロフィール:2019年5月、健康食品産業協議会の会長に就任。現在2期目。ルテインを始めとするサプリメント原材料などの製造販売を手掛ける米ケミン・インダストリー社の日本法人、ケミン・ジャパン㈱の代表も務める。