事後チェック指針運用から1年半
開始後の変化は?
関西福祉科学大学 健康福祉学部 福祉栄養学科講師 竹田 竜嗣 氏
制度への意識高まる
事後チェック指針運用開始から1年半が経過した。
機能性表示食品制度の企業への認知度は、ますます上がっており、取得を目指す企業も引き続き多い。機能性表示食品のセミナーや学会の勉強会で登壇すると、食品会社以外の参加も増えており、製薬会社・原料会社などの参加も目立つ。
また、地方自治体の産業支援部門などの公的機関の参加も増えてきた。このことから、食品の機能性に関するエビデンス取得は、引き続き企業の意識が高い状態が続いていると考えている。セミナー以外でも、さまざまな企業関係者と懇談する機会があるが、その場面でも機能性表示食品の開発をするにはどうしたらいいか? という相談が増え、これまでは様子を見ていた食品企業も、制度を意識していると感じる機会が少なくない。
本稿では、これらを踏まえながら、主に「事後チェック指針運用開始後の変化」という視点について述べる。
新たな臨床試験による開発が増加
この1年半で大きく変わったと感じることの1つとして、臨床試験の実施相談が増えた。
これまでは、SRの作成方法など既存エビデンス(自社論文・海外論文)を用いた届出や、自社原料に研究レビューが無いので作成してほしいという依頼が圧倒的に多かった。
しかしこの1年は、最終製品メーカー、原料メーカーを問わず、「機能性表示食品」取得のための臨床試験実施に関する相談が増えた。2019年末から20年初めはコロナ禍の影響で社会活動が一時ストップし、経済が停滞していた時期だったにもかかわらず、機能性表示食品の届出相談は目立って減ってはいなかった。
いったん既存のエビデンスでの届出やヘルスクレームは出尽くした時期でもあり、新しい関与成分や新しいエビデンスを模索し、他社との差別化を検討していた時期でもあったと考えられる。
事後チェック指針を企業側が意識
大きく変わったと感じる点は、企業側の事後チェック指針への意識の高まりだ。
事後チェック指針で示されている内容は、ガイドラインに記載されている内容や質疑応答集で記載がある内容を踏襲しており、新しく指摘されたことはほとんどない。しかしながら、企業側が意識を高めているのは、前例が少ないからと考えている。
今のところ、事後チェック指針で明らかに撤回したという大きな報道がない。実際に運用され指摘がされている企業もあると聞いているが、その内容について細部まで知ること、情報に触れる機会はまだまだ少ない。そのため企業としても情報収集を行っているのだと思われる。
ただし、届出をいくつも実施している企業よりも初めて実施する企業や、原料会社などから届出資料一式を提供され、制度がよく分かっていない企業が事後チェック指針に敏感になっていると感じている。自社の届出内容を細部まで知ろうとしている点は非常に良い点だと思う。
根拠論文の定期的な見直しが必要
研究レビューによる届出が圧倒的に多いが、研究レビュー特有の注意点も出てきている。
まず、研究レビューの更新がされていないまま新規の届出が現在もされている点がある。ここ2,3年で文献データベースのデータ量は多くなっている。ガイドラインには検索情報の有効期限もなく、研究レビューの更新や届出内容の点検が明記されているわけではない。
一方、事後チェック指針には、科学的根拠における指針の中でエビデンスの根拠論文の撤回について述べられている。論文が撤回されることはそれほど多くないが、訂正が実施されることは比較的よく行われている。
特にオンラインジャーナルが増え、出版スピードが速くなっている一方で訂正も増えている。最終原稿のチェック期間がほとんどなく、論文が出版されてしまうため出版後に訂正が必要になってしまうケースがあるのだと思われる。訂正内容は親切な雑誌では「訂正内容の告知」が行われ、容易に見つけることができるが、告知もなく差し替えで終わってしまう雑誌もある。
そのため根拠論文となっている定期的な内容の確認は行うべきである。実際に検索をやり直して更新する作業は大きな作業量が伴い頻繁にはできないが、根拠論文のチェックは比較的容易にできる。
この作業を実施している企業が増えつつあるものの、まだまだ少ないと言わざるを得ない。事後チェック指針の運用に関わらず、届出企業の責任として実施が望まれる。