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世界に誇れる「効果ある健康食品」今こそ創り出せ!(後) 【寄稿】医療と健康業界を追い続けたジャーナリストの提言

ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト
星良孝

機能性表示食品は良いと思ったが

 医療のエビデンス隆盛を見ると、食品の分野でもトクホや機能性表示食品が登場するのは必然だったろう。食品は健康につながることは明らかであり、それがデータで示されるのは理想的だ。健康食品も医療で進んでいるエビデンスという動きと無縁ではないわけだ。米国で1994年に「DSHEA(栄養補助食品健康教育法)」により健康食品が法的に位置づけられることと、食品の健康効果が科学的に検証される動きは並行して起こっていた。
 
 2000年代から2010年代にかけて、私は海外の論文をさまざまな分野にわたって読みこなしてきた。そうした中で、健康食品ばかりではなく、一般の食品もデータで健康効果が示されるようになっていたことに関心を向けていた。効果が示された代表的な食品は、フルーツやナッツ、野菜であり、魚であった。お茶やコーヒーのプラス効果も示された。一方で、食肉やお酒の心臓病のリスクを増やすといったネガティブな効果も報告されることがあった。

 そういう流れで見た時に、機能性表示食品というのは合理的に見えた。一般の食品などでも健康の効果が示されている。一部の研究で効果が報告されており、食品の種類によっては比較的大規模な試験で証明されているケースもあった。そうであれば、そうした食品を販売する時に、食品にそのデータを示すことができるのは良いことに見えた。当時、あるコーヒー店を訪ねた時に、テーブルにコーヒーの健康効果がアピールされていたが、臨床試験でしっかり示されているならば、ぜひとも多くの人たちに知ってもらいたいと考えられた。それが産業としてもうまく回り始めるならインパクトは大きい。

 こうして2014年以降、機能性表示食品が多く出たが、最近になって健康被害が明らかになった紅麹の問題に限らず、現在になって機能性表示食品のデータの信頼性について注目されるようになっているのは周知のとおりだ。
 7月の週刊東洋経済の担当記事で書いたことだが、私としては紅麹の問題に限らず、「そうなってしまうのか」と、現状を目の当たりにして、より効果的で信頼性の高い健康食品が増えるべきだと改めて感じた。
 どういうことかと言えば、既にさまざまな食品を見てきて分かってはいたが、質の高い臨床試験に基づいて食品の有効性が示されている状態が当たり前になっているかといえば、決してそうではない。安易に小規模な臨床試験などが、効果を裏付けるために利用されている。この食品を摂取すると、本当に、そのうたっている効果を得られるのか?厳しい目で見ると、うたわれた効果を得られるとは到底納得できない。

 『週刊東洋経済』で7月に指摘したのは3点だった。詳細は同誌記事に譲るが、要約すれば、まず第一に、科学的根拠となる臨床試験には利益相反や試験方法の問題が多く、信頼性に疑問が残る。多くの健康食品の臨床試験は、製造・販売元や原料供給元が資金提供や試験実施を行っている。このような場合、試験結果が偏るリスクが高くなる。

 第二に、評価項目を多数設定し、試験後に有意差が出た項目だけを取り上げて効果を主張する「ショットガン方式」と表現されることもある問題もある。主要評価項目が明確でなく、結果的に都合の良いデータだけを強調しているという問題が指摘されることもある。
 第三に、試験参加者が少ない臨床試験では、結果が偶然による可能性が高まる。脱落者も多い状況が頻繁に見られるのも問題だろう。このような試験データを根拠に効果を主張するのは、科学的に信頼性が低いと考えられる。
 担当記事で書いたことは、私が2000年代以降、医療の臨床試験で、白い巨塔の秩序を崩すようなエビデンスの力を目の当たりにし、一部の製薬企業により不適切なエビデンスの利用が問題となり、エビデンスの透明性向上が図られた経緯の中で学んだ事柄を反芻したものといえる。食品も同じなのだろうと感じた。指摘した以外にも問題は存在するだろうが、食品の効果に関する信頼性向上に向けてできることは多いと考えている。

海外の規制と日本の課題

 興味深いと感じたのは、単純に欧米が参考になるわけではないという点だ。一般的には欧米は日本よりもルールで優れていると思われがちだ。必ずしもそうではない。
 米国では、サプリメント市場が年間7兆円以上の規模を誇るが、規制が不十分なため健康被害が発生している。米国食品薬品局(FDA)は市場の全サプリメントを把握できておらず、年間約2万3,000件のサプリメント関連の救急受診が報告されている。また、新規成分の届け出が求められているものの、適切に管理されておらず、実質的に義務化されずに、違法成分を含む「脱法サプリ」が横行している。

 欧州では、健康食品の規制が厳格で、欧州食品安全局(EFSA)が科学的根拠を基に審査を行う。その後、認可された製品のみが市場に出るが、厳しさから新規成分の審査が滞り、特に植物由来成分の承認が進まず、市場参入が難しい。
 ASEANでもルール作りが進められているが、ASEAN各国を細かく見ていくと、食全体の品質など、課題は多いと推測している。筆者は医療の領域において、タイやベトナム、フィリピンで偽造医薬品がたびたび摘発されているのを確認している。そのような医薬品の課題の存在から、食においても課題は多いと類推しているのである。健康食品の規制をいかに守らせ、品質の高い健康食品を流通させるか検討すべき問題があると考える。

 つまり、世界的な課題だということだと考えている。日本はどうすべきか。健康食品に関する法規制は断片的だ。紅麹の問題をきっかけに国の動きも活発になっており、今後、日本の健康食品をいかに健康に真に貢献するものにしていくのか、規制の動向は見逃せない。ぜひ世界に誇れる健康食品産業を作ってほしい。
 食品は健康維持に不可欠だが、科学的根拠のない健康食品が市場に増えれば、かえって消費者の予防効果につながらず、期待とは逆の結果を生む可能性がある。より良い科学的根拠を伴った製品を増やし、透明性のある情報公開を進めることで、市場は洗練されてくるだろう。消費者の方も知識を深め、リテラシーを高めることが重要だ。

(了)

<星良孝氏プロフィール>
ステラ・メディックス代表。獣医師/ジャーナリスト。
東京大学農学部獣医学課程卒業後、日経BPで記者として医療や食品産業の取材に従事。事業会社を経て会社設立。現在は医療機関や企業、行政への取材を続け、ヘルスケア分野の情報発信を継続。ウェブサイトディレクションやウェブ構築、動画制作なども行う。
ステラ・メディックス:https://stellamedix.com/
Youtubeチャンネル:https://www.youtube.com/@stellach
Xアカウント:https://x.com/yoshitakahoshi

※参考文献
予防・健康づくりの意義と課題

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