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世界に誇れる「効果ある健康食品」今こそ創り出せ!(前) 【寄稿】医療と健康業界を追い続けたジャーナリストの提言

ステラ・メディックス代表 獣医師/ジャーナリスト
星 良孝

今年7月27日発行号の『週刊 東洋経済』(東洋経済新報社刊)が「機能性表示食品、トクホ、サプリのウソ・ホント」という特集を組んだ。「機能性表示食品の科学的根拠を問う」というコーナーでは、ジャーナリストの星良孝氏が、大手7社の機能性表示食品を取り上げ、臨床試験における「利益相反」、「評価項目」、「被験者数」の3点からその科学的根拠を批判している。星氏がサプリメント業界に何を期待し、何を課題としているのか、ジャーナリストの提言を2回にわたり掲載する。

今こそ健康に良い健康食品を

 大学で獣医学を学び、その後、日経BPで医療やビジネスの取材をし、事業会社を経験してきた。その中で、医療や食品産業の取材に携わった。こうした中で、獣医師や医療分野のジャーナリストとしての科学的な視点、ビジネス誌記者や事業会社での経験で得た現実的な課題に直面した経験から、健康食品の可能性と課題を考える機会もあった。
 2024年7月27日号の週刊東洋経済で「機能性表示食品、トクホ、サプリのウソ・ホント」という特集に参加し、関連する取材をして記事を執筆したことが大きなきっかけだが、今回、これまでの取材経験などから健康食品について考えを述べる機会を得たので、ここでは「今こそ健康に良い健康食品を」と題して、健康食品の信頼性やエビデンスの重要性といったキーワードに的を絞って書いていく。

健康食品との出会いと市場の変化

 健康食品に深く関わるようになったのは、特定保健用食品(トクホ)が注目を集めた2005年からだ。私は当時、日経ビジネス記者として健康食品の新たな動きを目の当たりにしていた。花王の「ヘルシア緑茶」が市場で大ヒットし、こうした緑茶への関心の高まりもあり、緑茶市場全体が急成長するなど、食品業界が大きく変化していた。消費者の健康志向が高まり、食品に健康効果を求めるニーズが急速に拡大していた時期であった。
 当時、取材を進める中で、緑茶以外にも、腸内細菌を整えて、花粉症に効果があるとされるキャンディのような食品など、多種多様な健康食品が市場に登場していた。振り返ってみれば、腸内細菌が体に与える影響がはっきりと分かってくるのは、2010年代以降と考えられるので、健康食品は随分先取りしていた。乳酸菌などの研究が活発な日本ならではであろう。

 一方で、それから時期をさかのぼると、私は日経メディカルという医療誌に2004年まで所属していた。当時から健康食品でトクホの制度が始まるという話もあったが、医療関係者の視点を振り返ると、健康食品への関心は高くはなかったとも記憶する。日経BPにおいて健康食品分野で積極的に取材を続ける河田孝雄さんという記者こそ存在したが、日経BPの中では健康食品の取材が医療誌にまで広がるという感覚はなかった。日経ヘルスもあるが、どちらかといえばフィットネスに寄っているのではと思う。健康食品というのは、医療と、ビジネス(食品)との狭間にあったのだろうと思う。それはまさしく新興産業という位置付けに見えた。私はその狭間で取材してきたといっていいと感じ、その視点からの経験や考えをここに寄せることになると考える。

予防に関心の低い日本国民

 健康食品を考えた際に、一般的に日本人は予防への関心が低いというのは、健康食品の普及という点でも長らく課題であったと思う。
 日本は国民皆保険制度により、比較的安価に医療を受けられるため、病気になっても病院に行けば大丈夫と安易に考えがちであると指摘されることがある。そもそも予防とはなにかという定義はさまざまだろうが、公的なデータを参考にすると、健康保険の支出の割合を見ると、市町村国保で0.8%、健保組合で4.2%となっている。これが高いか低いかの解釈は難しいが、一昔前は、予防に取り組むこと、有り体に言えば「健康づくり」への一般的な関心は低かったのではないかと考える。もっとも、現在はもっと一般化したことも付け加える。

 そうした中で、健康食品への関心も海外と比べれば低かったのだろうと考えられるが、トクホなどの動きもあり、2000年代以降、市場拡大と軌を一にして関心は高まったのだろうと考える。
 しかし、そもそも考えてみれば、言うまでもなく、食品はもともと健康食品だ。健康に欠かせないのである。獣医学を学んでいたという立場からも説明を試みると、食品そのものが健康に直結することは明白である。動物の健康管理では、栄養バランスの取れた飼料が基本で、栄養素の欠乏や過剰は直接的に健康障害を引き起こす。人間も同様で、適切な栄養摂取が健康維持に不可欠。食品はそもそも健康食品なのだという発想は持っている。

 「炭水化物」、「脂質」、「タンパク質」、「ビタミン」、「ミネラル」といった基本的な栄養素は、エネルギー供給や代謝の調節、免疫機能の維持などに重要な役割を果たす。例えば、ビタミンDの欠乏は骨軟化症や骨粗しょう症のリスクを高めることが知られている。これらの基本的な栄養こそが健康食品の礎を築いていると考えられる。
 制度でいうと、これらの栄養素は栄養機能食品であり、これらは生命維持に欠かせない。それくらい健康にとってなくてはならない栄養素に、広義の健康食品がどれくらい迫れるかが、健康食品の予防や保健への貢献度を考えると重要になるのではないか。

エビデンス・ベースト・メディシン(EBM)の時代から健康食品へ

 私が日経メディカルに在籍した頃、トクホ登場よりも少し前段階の2000年代前半、医療の世界では、「エビデンス・ベースト・メディシン(EBM)」が興隆を極める時代になっていた。医療の安全性や有効性が臨床試験で証明できるようになり、医師の経験や大学の権威に基づいて実行される医療から、データ=エビデンスに基づく医療が行われるのが当たり前になっていった。これは、これに先立つ1990年代までの情報技術(IT)の進歩により、大規模なデータの収集と解析が可能となり、医療分野でも診断、治療、予防といった医療行為に関係したデータを取得しやすくなった変化があったと考えられる。

 私は02年頃、英国医師会雑誌(BMJ)のエビデンス集「Clinical Evidence」という辞書のような書籍を日本語に翻訳して編纂するプロジェクトに参加していた。これは、最新の臨床試験やメタアナリシスなど医療の情報を整理して、医療従事者が日々の診療に活用できるようにするものであった。この書籍は発見にあふれていた。高血圧の薬を使って血圧を下げると、どれくらいの治療効果があるかが明確に示される世界には驚きを覚えた。
 このエビデンスというのは、医療を本当に変えた。従来の教授が医学の常識を作るような、「白い巨塔」と表現された秩序を崩す強い原動力になったと考えている。

 例えば、2002年に米国で結果が公表された「ALLHAT試験」では、高血圧治療薬の効果を比較するために約4万2,000人の患者が参加しただが、高血圧の考え方を揺さぶるパワーがあった。この研究では、数十円の高血圧の薬だった利尿薬が血圧を効果的に下げ、心臓病などのリスクを確実に減らす結果を示した。当時、数百円の高血圧薬が多数開発されている中では、衝撃的なデータだった。この試験結果をそのまま受け止めれば、高い薬を使わなくて済むという結果になるからだ。一方で、利尿薬は糖尿病につながるなどと言われており、結果の解釈や副作用のリスクについては専門家間で激しい議論が続いた。とはいえ、いくら教授などが賛否両論したとしても、データが示す事実は力強く、最終的にはALLHATの示した「血圧を下げられさえすれば薬は安くても構わない」という結果が重要視されるようなかたちになったと考えている。

 このようなエビデンスの力を、ビジネスに生かそうという動きも当然増えていた。当時、というか、今でもそうだが、製薬企業はエビデンスの蓄積と活用に積極的に取り組み、巨大な資金を投じて大規模な臨床試験を実施した。薬の安全性や有効性についての科学的な根拠を得るという目的はもちろんあるが、同時に、マーケティングに用いる根拠情報を得るための投資としてランダム化比較試験(RCT)を実施し、必要なデータを作る研究を盛んに行った。「メガファーマ」とか「ブロックバスター」と言われたが、年間売上高が1,000億円を超える薬剤の創出に執心し、そのターゲットは、生活習慣病の薬が今とは異なり高価だったこともあり、高血圧、高脂血症、糖尿病などだった。
 問題になったのは利益相反。今思えば虚しいが、前述のように、結局、高血圧は血圧さえ下がれば良かったものの、プラスアルファ効果を薬剤企業が演出し、過剰な宣伝を行った。高血圧の薬であれば、この薬なら脳や腎臓にも、心臓にも良い効果がもたらされるといった宣伝が医療誌に踊っていた。後に、幾度も報道されているように、ノバルティスファーマなどの製薬企業の不正が指摘され、臨床試験データの改ざんや隠蔽を行っていたことが明らかになった。「臓器に良い」は実態が伴っておらず、羊頭狗肉というべき内容だった。

 2010年代、米国では13年にサンシャイン法と呼ばれるルールが施行され、医薬品のマーケティングは厳しくなり、日本でも14年に日本製薬工業協会が透明性ガイドラインを作った。
 こうした経緯を見てきた立場から言うと、現在、健康食品のデータの解釈が注目されるようになり、それらの透明化が進むのは、医薬品がたどってきた流れをもう一度、たどっているとも感じる。言い換えれば、健康食品業界が医薬品業界の過去の経験を踏まえ、エビデンスの重要性や透明性の確保に取り組んでいると見える。こうした動きは必然なのだという感覚を持つ。

(つづく)

<星良孝氏プロフィール>
ステラ・メディックス代表。獣医師/ジャーナリスト。
東京大学農学部獣医学課程卒業後、日経BPで記者として医療や食品産業の取材に従事。事業会社を経て会社設立。現在は医療機関や企業、行政への取材を続け、ヘルスケア分野の情報発信を継続。ウェブサイトディレクションやウェブ構築、動画制作なども行う。
ステラ・メディックス:https://stellamedix.com/
Youtubeチャンネル:https://www.youtube.com/@stellach
Xアカウント:https://x.com/yoshitakahoshi

※参考文献
予防・健康づくりの意義と課題

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