リスク抱えながら健康被害情報公表へ 厚労省、健康食品の安全性行政で新展開
健康食品との関連が疑われる健康被害情報の取扱いを検討してきた厚生労働省が12日開催した有識者会議で、成分名や製品名などを伏せつつ健康被害情報を公表することが大枠で決まった。厚労省や有識者は、特定するのが困難な因果関係を分析するために、疑い事例を幅広く集積する必要があると判断。風評被害を引き起こすリスクを抱えながら、健康被害の新たな未然防止策に取り組むことになる。
同日オンライン開催された「薬事・食品衛生審議会 食品衛生分科会 新開発食品調査部会」(曽根博仁部会長=新潟大学大学院医歯学総合研究科教授)。先月14日開催の「同 新開発食品評価調査会」(曽根博仁座長)を受けるかたちで健康被害情報の取扱いについて議論し、健康食品との関連が疑われる健康被害情報の公表範囲を指定成分等含有食品以外にも広げること、健康食品のリスク管理の全体像を見直すとともにその運用に向けた議論を継続することを確認した。
今後の議論は、健康被害情報の報告について規定した通知(平成14年通知=健康食品・無承認無許可医薬品健康被害防止対応要領)の改正を視野に入れながら進める。同通知をめぐっては有識者から、「機能していない」とも指摘されている。
厚労省はもともと、健康被害と疑われる情報について、その製品に配合されている主要な成分名も含めて公表することを検討していた。しかし、因果関係が明らかではない原因不明の被害情報を、成分名も含めて公表することで重大な風評被害が引き起こされたり、消費者が誤認したりするおそれを強く懸念する声が業界団体などから上がった。
また、厚労省が成分名などを含めた公表を検討していた、2020年6月から21年12月に集積された健康被害情報「14事例」について厚労省は、「現時点では緊急の対応が必要な状況ではない」と判断。このため、成分名を含む公表は原則行わず、摂取した人に生じた主な症状や因果関係に関する有識者の見解などを公表するにとどめることにした。
製品名も公表しない。ただ、同一の番号を割り当てる。これにより、健康被害情報が繰り返し寄せられる製品を判別できるようにする。そうした製品が出てきた場合の対応として厚労省では、食品衛生法に基づく注意喚起を含めた緊急措置の検討や健康被害情報の報告を義務付けている指定成分等含有食品の指定成分候補として、検討を進めることを想定している。
「出来るだけ多くの症例(健康被害と疑われる情報)を集め、それをチェックすることで、因果関係に関する情報がさまざま見えてくる。事業者にとっても良いこと」(曽根部会長)。有識者や厚労省は健康被害疑い事例を集積する意義をそう強調する。
しかし、一部の有識者からは、「(保健所や医師としても)因果関係が分からない中では情報を上げづらい」との指摘も。また、指定成分等含有食品以外の健康食品に関して健康被害情報の報告義務はない。実効的な情報収集の仕組みを構築できるかが今後の鍵になる。その上で、風評被害を引き起こさないようにするためのリスクコミュニケーションが求められることになる。
【石川 太郎】
(下の画像:厚労省が描く健康食品リスク管理の全体像イメージ。12月12日新開発食品調査部会配布資料から)
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