セレノネイン、未病改善に有効か
神奈川県や聖マリアンナ医科大らが臨床試験
生活習慣病対策や抗老化(アンチエイジング)などの未病改善に魚のマグロの継続摂取が有効かどうかを検証する臨床試験を、マグロの水揚げで有名な三崎漁港を擁す神奈川県や聖マリアンナ医科大学らが進めている。マグロ等の魚に多く含まる機能性成分としてはオメガ3脂肪酸(DHA・EPA)が知られるが、この臨床研究が有効性を明らかにしようとしているのは「セレノネイン」というアミノ酸の一種。どのような成分なのか。
回遊魚に多く含まれる機能性成分
マグロに含まれるセレノネインのヒトに対する有効性研究を昨年9月以降から進めているのは、聖マリアンナ医科大学、神奈川県、そして横浜市に本部を置く国立研究開発法人の水産研究・教育機構の3機関。健常者ボランティア100人を対象にした臨床試験を通じて未病改善への有効性を明らかにしようとしている。来年3月までを目途に概要を取りまとめ、その後、学術論文にした上で公表する予定だ。
セレノネインは有機セレン化合物の一種。ヒスチジンのアミノ基がトリメチル化され、イミダゾール環に互変異性のセレノキソーセレニ基が付いた化学構造を有し、強力な抗酸化活性を持つと言われる。もともとマグロの血合いから発見された成分だが、これまでの研究でマグロ以外にサバやブリなど回遊性の魚に多く含まれることが分かっている。
含有する機能性食品素材、すでに開発済み
セレノネインを含有するサプリメントも販売されている。商品名は『まるごとSABAペプチド』。「SABAR」を屋号にした、とろさば料理専門店を運営するサバ専門商社の㈱鯖や(大阪府豊中市)と、健康食品原材料の開発・販売などを手掛けるエル・エスコーポレーション(東京都中央区)のコラボレーション商品だ。同品にはセレノネインを含有するサバ抽出物が配合されている。
国内で水揚げされたサバを原料にしたこの抽出物は、セレノネインを発見した研究者や水産加工会社の協力を得ながらエル・エスコーポレーションで開発したもの。サバを丸ごと酵素分解しスプレードライしたエキス粉末で、オメガ3脂肪酸など脂質の含量はほぼゼロ。代わりにペプチドを多く含み、その中にセレノネインが一定量含まれるよう規格化してある。
開発に協力したのは、前述の臨床研究にセレノネインの正確な定量分析などの役割で参画する水産研究・教育機構に所属する水産化学研究者の山下倫明博士(農学)。セレノネインは2010年、同博士らによって発見された。
エルゴチオネインに続け 機能性表示食品対応素材へ
エル・エスコーポレーションがセレノネイン含有サバ抽出物の製造販売を手掛けるようになったのには伏線がある。「エルゴチオネイン」という、セレノネインと名称が似た機能性成分に着目した食用キノコ(たもぎ茸)の抽出物をそれより以前に開発、製造販売を始めていたことがきっかっけになった。ヒトの体内には、「OCTN1」という、エルゴチオネインを取り込むトランスポーター(輸送体)が存在する。
同社の製造開発部によると、両成分は化学構造が非常によく似ている。エルゴチオネインのケトン基がセレノケトンケトン基に置換されたのがセレノネイン。違いはほぼそれだけの一方で、強い抗酸化活性を持つといわれるエルゴチオネインよりも更に強い抗酸化能を持つという。
「それぞれ同じような機能性を持つと考えられるが、エルゴチオネインとは異なる機能を訴求する素材にできれば面白いことになると思い、山下先生のところに飛び込みで相談に行った。普通であれば断られると思うが、もともと(同社が研究に関わった)エルゴチオネインの論文を読んでくれていたこともあって、とんとん拍子に話が進んだ」。セレノネイン含有サバ抽出物の開発経緯について同部の松本聡執行役員はそう語る。
同社が手掛けるエルゴチオネイン含有タモギタケ抽出物は、現在、認知機能領域の機能性表示食品対応素材として販売量が伸びている。「次はセレノネイン(を機能性関与成分にする)。どちらも成分認知度が課題だった。狙い通り、(機能性関与成分になった)エルゴチオネインの認知度は以前に比べて大きく高まっている。セレノネインを受け入れてもらえる下地が整いつつある」(同)といい、機能性表示食品対応素材化に向け、生活習慣病予防や疲労感軽減などをターゲットにした研究開発を独自に進めていると話す。
【石川 太郎】