ステマ広告検討会スタート(前) 河野大臣「必要なら規制も」年内の取りまとめを指示
広告主と情報発信者との関係が明らかでないステルスマーケティング(ステマ)にどう対応するか、消費者庁は16日、有識者会議「ステルスマーケティングに関する検討会」(ステマ広告検討会)の1回目となる会合をオンラインで開催した。
広告主の顔が見えないステマ広告
ステマ広告とは、SNS上のインフルエンサーに事業者が報酬を支払うことで商品の宣伝を行うという手法。広告主自らが広告であることを隠して広告を出稿するため、インフルエンサーによる投稿や口コミが広告であるかどうか、また投稿などがインフルエンサーの真意に基づくものなのかどうか、消費者には理解できない。
また、インフルエンサー自身が広告主とどのような関係にあるのか、広告主の顔が見えないステマ広告ではその仕組みが一般の消費者には非常に分かりにくくなっている。インフルエンサーの投稿を広告と認識しないまま消費者が商品を購入した場合、このような広告表示はアンフェアとみなされかねない。
表示物の内容の決定に関与した者が広告主
しかし現在、景品表示法によってステマ広告を規制することは難しい。広告とは、「事業者が、自己が供給する商品またはサービス(役務)の取引について行う表示」のこと。表示主体(広告主)は表示物の内容の決定に関与した者で、自らの商品に表示をしていると法的に評価できる主体とされている。ところがステマ広告においては、広告主の広告であるにもかかわらず、例えば、記載された不正レビュー(表示)はインフルエンサーによるコメントなのである。
消費者庁は昨年11月9日、豊胸サプリと偽ってインスタグラマーやアフィリエイターに商品を宣伝させていた通信販売会社㈱アクガレージとアシスト㈱の2社に対し、SNS(インスタグラム)上の宣伝文句(表示)を「優良誤認」とみなして措置命令を下した。
インスタグラムに記載されたインフルエンサーの表示には、広告主の名前は一切出て来ないが、これらの「優良誤認表示」は「広告主の表示」と特定して景品表示法7条2項の規定に基づき処分した。つまり、その表示が事業者の表示と言えるかどうかにおいて、事業者の名前があることが要件ではなく、その表示がその広告主の表示と法的に判断できる事実関係が認められれば、表示に事業者の名前がなくても規制はできると消費者庁は判断したのである。当時、SNS広告に対する措置命令は初めてのことだった。
ステマ広告に対する景品表示法の限界
ただし、「有名人が商品・サービスと一緒に取った写真を広告だと明示せずに宣伝」したり、「商品やサービスについて広告である旨を明示せずに“よかった”“おすすめ!”などといった感想の体裁を取ってSNSに投稿」した表示など、実際は広告主の広告であるにもかかわらず、広告であることが分からない行為、ある意味、その広告主体・表示主体を隠す行為それ自体は現行の景表法では規制することができない。景表法の隙間を狙ってくるステマ広告に対し、これが景品表示法の限界とされている。
ステマ広告 野放し状態は日本だけ?
同検討会で事務局を務める消費者庁表示対策課の南雅晴課長は、アフィリエイト広告等検討会の審議を行った第367回消費者委員会本会議で、ステマ広告の規制の難しさについて次のように語っている。
「景表法というのは残念ながら、不特定多数の一般消費者に誤認を与える表示を規制する法律で、財産被害に関しては無力」、「現行の景表法の枠組みで考えると、優良誤認・有利誤認がないと規制はできない。ただ広告であるにもかかわらず、広告でないかのように装うこと自体、それ自体、直ちに商品サービスの優良性ないしは有利性に結びつかないので、それ自体は規制できない」(2022年3月3日)。
消費者庁によれば、OECD加盟国(名目GDP上位9カ国)の中では日本だけが、ステルスマーケティングに対する規制が行われず、ステマ広告が野放し状態にあるとされている。
このような状況を受けて消費者庁は、一般消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害する恐れがある行為を規制する景表法的観点から、今回、検討会を設置し、年内をめどに何らかの対応を講じることにした。
2021年6月~22年1月にかけて消費者庁が実施したアフィリエイト広告等検討会でも当初、ステマ広告に関する検討も予定されていたが、諸事情で先延ばしとなった。開催中の景品表示法検討会においても、ステマルスマーケティングへの対応が課題として挙げられている。座長には両検討会の座長も務め、デジタル広告の違法性について精通した中川丈久神戸大学大学院教授が河野太郎内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)によって指名された。
河野大臣「規制も視野に年内に結論を」
検討会の開催に当たって挨拶を行った河野大臣は、「消費者が日常目にする広告の中には、これが広告であるということが明示されていない、俗にステルスマーケティングと言われているものが存在している。これが一般の消費者の自主的かつ合理的な消費行動、あるいは商品選択、これにどういう影響を及ぼしているのか。合理的な商品選択の機会を確保することが困難になっているとの指摘もある。
これからも発展していくであろうデジタル広告が健全に発展を続けられるように、また、一般の消費者にとって分かりやすく適正な広告を今後とも維持し、実現していくということが非常に重要。必要とあらば、ステルスマーケティングに対する何らかの規制をしていくということも当然考えていかなければならないと思っている」と、規制の可能性を示唆し、検討会に対して年内に一定の結論を出すよう求めた。
(つづく)
【田代 宏】
(冒頭の画像:オンライン開催された検討会の様子)