エビデンス入門(72) 論文誌の種類
関西福祉科学大学 健康福祉学部 福祉栄養学科 准教授 竹田 竜嗣
論文誌は、大きく分けると専門の学会が発行している雑誌と、学術出版を手掛ける出版社が発行している雑誌に分かれる。学会が発行している雑誌でも、近年業務の効率化、迅速出版の観点から、出版社へ委託発行を依頼するケースも増えている。学会が発行している雑誌は、紙媒体で発行されるケースが多く、年数回学会誌として会員らへ提供されることが多い。
一方、出版社が発行する専門雑誌は、多くの場合、誰でも雑誌の編集方針に合致していれば投稿できるケースが多く、専用の電子投稿システムを用いることで迅速なやり取りができる。また、近年は紙媒体が発行されずオンライン(インターネット上でのPDF発行)専用の雑誌や、紙媒体も発行するがオンライン版が先行出版されるような形式を取っているケースが多い。
学術雑誌のデジタル化は世界的に急速に進んでいる。論文の引用数などから算出されるインパクトファクターは、オンラインで迅速に発行される雑誌で高まっており、論文の採択率(著者が投稿してどの程度掲載されるか)よりも影響が大きくなりつつある。これは、オンラインのみで発行される雑誌が、オープンアクセスを取っていることが多いことも理由にある。オープンアクセスとは、論文を読者へ無料で配布する体系である。一般的に紙媒体などの論文誌は、雑誌として読者が購入して読む。
オープンアクセスのオンライン雑誌では、読者の購読料を著者が出版費用に上乗せして支払っていることが多く、誰でも無料で読める。このことは、自身の論文が多くの読者の目に触れる機会が増えることにつながる。論文を作成する際には、必ず先行研究について調べ議論の対象とする。先行研究を調べる際は、論文データベースで検索するが、有料などですぐにアクセスできない場合が多い。論文をすぐに読めるオープンアクセスになれば、自身の論文が引用される可能性も高まる。引用数が増えれば雑誌のインパクトファクターも上がるという流れになる。
このように近年は、良質で参考になる論文ばかりを収めた、査読の厳しい名門誌ほどインパクトファクターが高いという傾向は薄れ、著者に選ばれる、読者がアクセスしやすい雑誌もインパクトファクターが高くなる傾向がある。
しかし、重要なことは、早く迅速に出版される学術雑誌が、必ずしも良質の論文ばかりを収めているとは限らないことだ。雑誌によっては、論文ごとに質の差が大きいものもある。雑誌名だけでなく、個々の論文の質については、読者が内容をしっかりと読んで、情報の正確さを含めて精査しなければならない。
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<プロフィール>
2000年、近畿大学農学部農芸化学科卒。
2005年、近畿大学大学院農学研究科応用生命化学専攻、博士後期課程満期退学。
2005年、博士(農学)取得。近畿大学農学部研究員、化粧品評価会社勤務、食品CRO勤務を経て、2016年から関西福祉科学大学健康福祉学部福祉栄養学科。
専門は、農芸化学分野を中心に分析化学、食品科学、生物統計学と物質の研究から、細胞、動物試験、ヒト臨床試験まで多岐に渡る研究歴がある。特に食品・医薬品の臨床研究は、大学院在籍時より携わった。機能性表示食品制度発足時から、研究レビューの作成およびヒト臨床試験など多くの食品の機能性研究・開発に関わる。
2023年1月、WNGが発信する会員向けメルマガ『ウェルネス・ウィークリー・レポート』やニュースサイト『ウェルネスデイリーニュース』で連載した「エビデンスの基礎知識」が100号に達したのを記念し、内容を改めて編集し直し、「開発担当者のための『機能性表示食品』届出ガイド」を執筆・刊行。