エビデンス入門(64) 機能性関与成分の特定
関西福祉科学大学 健康福祉学部 福祉栄養学科 准教授 竹田 竜嗣
これまで、食品が持つ健康機能に関する研究では、いくつかの過程が採用されている。水、アルコールやヘキサンなどの溶媒を使って、食品由来あるいは食品として使用可能な原料から抽出物(エキス)を作成し、エキスが持つ機能性を細胞試験や酵素試験で機能性活性のスクリーニング研究を実施する(一次スクリーニング)。
一次スクリーニングの結果、機能性活性が強いエキスは、さらに各種溶媒や分離剤の持つ特性を使って、物質を分ける分離作業を実施していき、得られた画分の活性を測定していく(二次スクリーニング)。二次スクリーニングの結果、機能性活性が認められた画分をさらに分離していき、最終的には物質レベルで単離ができれば化合物の構造を各種機器分析で決めていくという作業を行い、最終的に機能活性を確認し、機能性関与成分とする。こうした過程は、農学部や薬学部など生物活性を研究テーマで実施している大学では卒業論文のテーマとして、何年かに渡り引き継がれ実施されている。
20年ほど前は、分析技術がまだ発展途上だったため、化合物の構造を決めるには、比較的多くの単離した物質(数mg)が必要だったが、近年は、高感度の分析機器が開発され普及しつつあることで、微量での分析(数㎍)も可能となり、1年間の卒業論文研究で物質が特定まで至るケースも増えている。
大学は教育的研究のため、人力での作業となるが、物質特定を業としている民間の研究所や国立・公立の研究所では、人力だけでなく、分離を自動化する機械まであるため、非常に短期間で物質特定まで至るケースもある。物質の構造を決めるには、熟練した技術者がNMR(核磁気共鳴装置)などで分析した結果をもとに構造解析を実施していたが、近年ではAIを用いて機械学習させ、コンピューターで短期間に構造解析を実施するなどさらに進化してきている。
このように、10年スパンで科学技術は進化しており、物質の特定までは短期間かつ少ない量で実施が可能となっている。今後も科学技術の発展により食品の機能性研究は進化していくと考えられる。
(つづく)
<プロフィール>
2000年、近畿大学農学部農芸化学科卒。
2005年、近畿大学大学院農学研究科応用生命化学専攻、博士後期課程満期退学。
2005年、博士(農学)取得。近畿大学農学部研究員、化粧品評価会社勤務、食品CRO勤務を経て、2016年から関西福祉科学大学健康福祉学部福祉栄養学科。
専門は、農芸化学分野を中心に分析化学、食品科学、生物統計学と物質の研究から、細胞、動物試験、ヒト臨床試験まで多岐に渡る研究歴がある。特に食品・医薬品の臨床研究は、大学院在籍時より携わった。機能性表示食品制度発足時から、研究レビューの作成およびヒト臨床試験など多くの食品の機能性研究・開発に関わる。
2023年1月、WNGが発信する会員向けメルマガ『ウェルネス・ウィークリー・レポート』やニュースサイト『ウェルネスデイリーニュース』で連載した「エビデンスの基礎知識」が100号に達したのを記念し、内容を改めて編集し直し、「開発担当者のための『機能性表示食品』届出ガイド」を執筆・刊行。