エビデンス入門(45) 多重性の考慮とは(後)
関西福祉科学大学 健康福祉学部 福祉栄養学科講師 竹田 竜嗣
多重性の問題は、検定回数を1つの試験で複数回設定して「良いとこ取り」をすることが良くないという問題に回帰する。そのため、「良いとこ取り」が無ければ多重性は回避できるという考え方がある。
具体的には、臨床試験の実施前、つまり計画時にエンドポイントを決めておく。多くの場合、主要評価項目はエンドポイントになるが、経時測定のデザインの場合は、評価する時点(例えば、摂取12週後など)を含めて宣言することは少ない。
一方、主要評価項目に評価する時点まで含めて宣言すると、エンドポイントが明確になるが限定されることになる。例えば血圧低下を見る有効性の試験であれば、「摂取12週間後の収縮期血圧」のように主要評価項目(エンドポイント)を決める。こうすれば、同じ収縮期血圧でも他の測定ポイントは、副次評価項目の扱いになるため、多重性の問題は起こらない。ただし、エンドポイントとした摂取12週間後の収縮期血圧で有効性を得られなければ、試験の目的は不達となる点に注意が必要である。
また、この方法の応用としては、主要エンドポイントをどうしても複数設定したい場合、複数のエンドポイントで有意でなければ、試験の目的は不達とすることにすれば検定は見かけ上、2回実施しているが多重性の問題は起こらないと考えることもできる。花粉症に対する有効性試験で、鼻に関するQOL指標と目に関する有効性指標をエンドポイントとし(経時測定であれば評価する時点も限定する)、同時に有意であった時のみ、試験目的が成立するという状態にすることである。
このほかにも、閉手順という検定手法でも多重性は回避できると言われている。閉手順とは、検定を行う順番を試験計画時(あるいはキーオープン前の解析計画時)に決めておくこと。検定を決められた順で実施していき、有意でない結果が算出されたところで検定を中止する。この方法で実施すれば、多重性の回避は可能であると言われている。
多重性の問題は、良いとこ取りを防ぐことが重要であり、複数のエンドポイントが試験開始前、あるいはキーオープン前に存在することで良いとこ取りが発生してしまう。そのため、事前にエンドポイントを明確にする、または、複数発生してしまう場合は、複数のエンドポイントが同時に成り立つ場合のみ試験目的が達成することで多重性の問題は回避できる。ただし、この手法は、2群比較などによる有効性試験の回避方法であるが、多群の試験などの場合は、前回述べたボンフェローニ補正など何らかのp値の補正が必要になってくる。
(つづく)