エビデンス入門(36)
事後チェック指針がもたらした変化
関西福祉科学大学 健康福祉学部 福祉栄養学科講師 竹田 竜嗣 氏
機能性表示食品について、さまざまなトピックを取り上げて解説してきた。今回は、事後チェック指針がもたらしたと考えられる変化について紹介する。
事後チェック指針は、機能性表示食品の届出受理後にさまざまなチェックを行う仕組みを入れることで、事業者への継続的な注意喚起を促していると筆者は考えている。
この指針は、大きく分けると、事業者に受理後もエビデンスの正確さの維持を求める科学的根拠に関する指針と、受理後に広告表現が届出した科学的根拠を大きく逸脱したものとならないようにするための広告に関する指針の2部構成になっている。
特に科学的根拠に関する指針は、事業者の継続的な情報収集を促すことで、科学的根拠に誤りが生じないかを常に確認させる手段となった。機能性表示食品は、研究レビューによる届出がほとんどであり、トクホとここが大きく異なる点である。
研究レビューによる届出では、採用文献に基づき科学的根拠を示していることから、採用文献が撤回された場合は、科学的根拠の前提を失う。海外では、論文の撤回や修正は比較的よく認められている。日本においても、論文の修正は比較的よく行われるようになってきている。これは、論文のオンライン化、スピード出版が進み、論文の校正に十分な時間がないことや、研究者や組織が研究資金の獲得や他研究者との競争のために、成果を早く上げることを求められるようになってきているためである。
20年ほど前は、出版に半年かかる論文もざらにあったが、論文出版のデジタル化、システム化が進み、2週間程度でプレ出版されるような学術誌も出てきた。この結果は、科学研究の充実をもたらしたが、一方でエビデンスに関する情報が更新されるのも早くなってきている。
そのため、機能性表示食品の研究レビューも定期的な確認と更新が必要である。事後チェック指針は、事例を示すことで、届出後も研究レビューへの注意喚起が行われるきっかけになっている。
また、広告に関する指針は、消費者へ正しい情報を伝えるきっかけとなった。これまでは、研究レビューの採用文献が同じでも機能性表示文言が異なるために、広告表現が出されたエビデンス以上に過大になることもあった。広告表現に関する指針は、広告を作成する企業にとっても、届出を精査するきっかけをもたらし、論文内のグラフを安易に取り出して強調するような表現を抑制している。
事後チェック指針によって、企業側も広告に関しては、届出資料をよく読んで精査を実施していることが増えており、事後チェック指針はこの点でも貢献している。本制度は、企業側の努力で拡大している面がある。今後も、多くの企業が事後チェック指針の有無にかかわらず、正確な科学的根拠に基づく機能性表示食品の販売を続けることが求められている。
(つづく)