エビデンス入門(17)海外で行った試験の日本人への外挿性
関西福祉科学大学 健康福祉学部 福祉栄養学科
講師 竹田 竜嗣 氏
機能性表示食品制度で、研究レビューを実施する際に求められる「日本人への外挿性」について述べる。最終製品を用いた臨床試験による届出を行う場合は、日本国内で実施することがほとんどであるが、研究レビューによる届出を行う際には、機能性関与成分に関する既存論文を検索し、それらの結果から機能性が担保されるかどうかを検討する。
また、機能性関与成分によっては外国のメーカーが生産し、輸入されるものも多い。外国から輸入される機能性関与成分については、原産国のメーカーがヒト試験を含むデータを持っていることも多く、それらを利用して研究レビューを実施するケースも多い。
一般的に研究レビューや最終製品を用いた臨床試験による届出で、機能性の担保の根拠として用いるヒト試験のデータは、想定される食品の摂取対象者(便通改善なら便秘気味の方など)に限定して試験を実施し、その結果を基に科学的根拠が「あり」としている。ヒト試験では、多くの対象者で試験を実施したいが、予算などの制約もあることから、統計手法を用いて正確な結果を得るために必要な人数を計算して実施する。
しかし、統計手法によって正しいと導かれた結果でも、さらに考慮する必要があるのが人種間差である。ここで言う人種間差は、機能性表示食品の届出ガイドラインでは「日本人への外挿性」と呼ばれている。
生物学的な人種間差とすれば、遺伝的な差がまず考えられる。例えば、日本人は外国人よりも酒に弱いとされるが、その原因の1つとして、アルコール代謝酵素を体内で作れるかどうかなどの遺伝的な問題がある。
また、遺伝的な差だけでなく、日本国内でも寒い地方では、冬場の保存食として漬物を多く取る傾向があるが、漬物に含まれる塩分は多く、塩分摂取量が多ければ、血圧や血管系の病態に影響することは古くから言われてきた。
このように気候や風土、食環境などによっても、人の病態などに影響を及ぼす。従って、ヒト試験の結果を全ての人に無条件に当てはめることは難しい。そのため、ヒト試験が行われた環境(国、人種、それらの人種が取る生活様式)を十分に考慮する必要がある。
現在ではグローバル化が進み、先進国だけでなく、発展途上国でも基本的な生活水準が向上し、大きな差はなくなりつつあり、生活様式に関する人種間差も小さくなりつつある。しかし、医薬品ではしばしば、人種間の遺伝子の差、体形、食環境によって、効果の差が変わることが知られており、必ず人種間差を考慮した試験結果がなければ、外国で承認されても、すぐに日本で承認されることはない。
このように、人種間差は「機能性の根拠」によって重要であるため、作用機序などを含め、慎重に検討される必要がある。
(つづく)