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エビデンス入門(1)臨床試験の種類

関西福祉科学大学 健康福祉学部 福祉栄養学科
講師 竹田 竜嗣 氏

 機能性表示食品制度の届出資料を理解するためには、科学的な知識が必要となる。当然ながら、届出を行う事業者側はサイエンスの基礎を正確に理解しておくことが不可欠である。健康食品業界の関係者にとって必要な科学的エビデンスの基礎知識を解説する。

健康食品の販売で、「○○にお勧め」「○○に良い」などの広告を見かけることが多い。その根拠について、体験談や動物実験の結果、または細胞試験などによってメカニズムを確認し、ヒトに当てはめて説明しているケースも多い。

 しかし、機能性表示食品制度が始まってからは、ヒトで機能性を確認しなければ機能性を表示できないことから、ヒト試験(臨床試験)を実施する事業者が増加している。また、特定保健用食品(トクホ)の申請にも、ヒト試験の実施が不可欠である。

 今までサイエンスになじみが薄かった人にとっては、「ヒト試験」と言っても、具体的にどのような内容であるかを把握していない場合も多いと思われる。そこで今回は、代表的なヒト試験の種類(デザイン)を機能性表示食品制度やトクホ制度などと結び付けながら見ていく。

 まず、大枠で分けると、患者などの経過をまとめたものがある。これは症例報告と言い、エビデンスではなく、単なる報告レベルの記述研究である。

 次に記述研究よりも、もう少しまとまった人数で統計学的な視点を加味した研究にレベルが上がる。特定の条件の集団において、ある薬剤に暴露されている、または特定の食べ物などを摂取する食生活を持つ集団と、これらの薬剤の暴露や食生活を持たない集団を比較観察する研究が、コホート研究である。

 コホート研究には前向きと後ろ向きの2種類がある。通常は観察開始から未来へ向かって観察を続けることから前向きであるが、診療記録など何らかの追跡可能な記録がある場合、過去に向かっても調査・分析ができる。これは、後ろ向きと呼ばれる研究である。

 ここまでの臨床研究は主として何らかの介入を行うのではなく、特定の条件を持つ個人や集団の記録を蓄積するだけの研究のため、一般に観察研究と呼ばれる。機能性表示食品制度も、生鮮食品などについては観察研究も科学的根拠の対象となる。

 次に、何らかの食品や薬剤を暴露させて、比較を行う介入研究について述べる。介入研究には、(1)介入前と介入後を比較し、特定の指標(血液検査指標やアンケート項目など)の変化から統計的有意差を見出す前後比較試験、(2)特定の成分が入っている食品と入っていない偽の食品(プラセボ)を集団に暴露するプラセボ対照比較試験――の2種類がある。

 トクホの場合、主に3種類の試験が申請に必要であるが、これまでの事例では、最初に行う容量設定試験(関与成分の有効量を複数の濃度とプラセボで同時に試験する)や有効性試験(関与成分が含まれる食品とプラセボで比較)は、プラセボ対照比較試験である。安全性を確認するための過剰摂取試験は前後比較試験である場合が多いが、プラセボ対照比較試験の方が良いという専門家も多い。

 機能性表示食品の場合は有効性試験だけでもよいため、プラセボ対照比較試験となる。プラセボ対照比較試験にも種類がある。対象者についてランダムにプラセボか、機能性関与成分が入った食品かを決定する無作為化試験(RCT)が、機能性表示食品にもトクホにも要求されている。これは、対象となる個人の記録や生活習慣を見て、「効きそうな個人」に本物を、「効かなそうな個人」に偽物を渡すことで生じる影響を排除するためである。

 また、人間の心理的要因も試験結果に影響を与える。プラセボ効果と言われる「効く食品を飲んでいる」という思い込みだけで、ターゲットの指標が変化することがある。そうした心理的要因を排除するため、通常は盲検化(偽物か本物か、どちらを暴露しているか対象者はわからない)も行う。盲検化は対象者だけでなく、実施者にも行い、これを二重盲検と言う。

 トクホも機能性表示食品も、有効性試験ではさまざまな影響を与える要因を排除して試験を実施することが必要とされ、質の高い科学的根拠が求められている。

(つづく)

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