インタビュー「表示を考える」(2)
(一社)健康食品産業協議会は、66の正会員、25の賛助会員を持つ業界団体。2020年に『機能性表示食品の事後チェック指針』(広告その他の表示上の考え方)解説」を作成した。橋本正史会長に適正広告自主基準をめぐる問題点などについて話を聞いた。
事業者と行政のすり合わせに苦労
――「「事後チェック指針』解説」作成に当たり、難しかった点は何でしょうか?
橋本 あくまでも自主基準ですので、自分たちで基準を作成します。特に機能性表示食品は事業者の責任が原則ですが、実際のところは、不実証広告など、かなりの部分で行政に相談しながら進めていかなければならない部分があります。事業者側の都合と行政側の考え方のすり合わせをしなければなりませんので、そういう部分が一番難しい点だと思います。
そのすり合わせに関してですが、広告については、事後チェック指針の解説書作成時に、どのような問題があるのかが整理されておりましたので、消費者庁にも納得してもらうことができました。
当協議会だけでなく、他の団体とも一緒に発表できたというのは良かったと思います。
――例えば?
橋本 事業者は少しでも売りやすくするため、なるべく規制は強化してほしくないですし、行政側は法律に従いコンプライアンスを守りながら、いかに事業者側にそれなりに納得してもらいながら、規制の範囲内で何がルール化できるか考えなければなりません。その部分が非常に難しく、そこの話し合いが無ければどちらかに振れてしまい、結果的にビジネスがやりにくくなり、不確実性が高まってしまいます。事後チェック指針が出される前は、予見性が無く、突然行政側から指導を受けたり、場合によっては薬機法違反で摘発されるなどの事案が発生していました。まだまだ全てをカバーできているわけではありませんが、景表法上著しく問題があるという事案に対して、例を示して伝えることができるようになり、一定レベルの行き過ぎた業者に歯止めがかかっているのではないかと思います。
おそらく、行政側もあまり行き過ぎた規制を行うと、産業全体が委縮してしまうということは分かっていると思いますので、そのバランスを取る必要があると思います。
――認知度向上など、まだ課題はありますね。
橋本 あくまでもこれがゴールではありませんので、実態に合わせてブラッシュアップしていきます。まじめに機能性表示食品に取り組む多くの事業者からは、非常に助かっているという意見もいただいておりますが、まだ認知していない事業者もあるかと思います。その認知度を高めるため、勉強会やイベントを他の団体と共催するなど、少なくとも会員企業には「今、何が議論されているのか」、「どのようなルールが決まっているのか」などを周知する必要があると思います。展示会などの場も使い、発信していきたいと思います。私たちの活動をPRするだけではなく、その中身を発信していきたいと思います。
SRのグラフの使い方に注意
――機能性表示食品の広告表示で、SR1報に基づくグラフの使い方が問題になっています。
橋本 グラフを使うこと自体は問題ありませんが、その使い方には注意しなければなりません。まれにアフィリエイト広告などで見られるような、都合よく加工したり、見栄え良く手を加える、試験の条件などを掲載しないようなことはダメですが、使ったグラフをそのまま掲載する分には問題ありません。グラフを使うこと自体は悪いとはしておりませんが、あくまでもその使い方によっては問題になることがあるということです。当協議会としては、適正広告自主基準をつくりホームページに掲載していますので、それを見てくださいと言っているにすぎませんが、わかっているようでわかっていない部分も多くありますので、より実態に合わせた分かりやすい言葉で伝えていく必要があると思います。
「崩壊性試験」自主基準へ
――業界健全化に向けて何をするべきでしょうか。
橋本 健康食品業界が今後さらなる健全化を図るために、①医師、薬剤師を含むヘルスケアプロフェッショナル、②サプリメントアドバイザーなどの栄養関係者、③消費者団体や行政、④海外の団体との連携・協業――をすべきと考えています。特に個人的に興味があるのは海外の団体との連携です。
また、広告については事後チェック指針で、エビデンスについてはエビデンスレビュー評価委員会の設置でカバーできるようになりました。品質に関して、今まさに「崩壊性試験に関する、業界としての自主基準」について議論が進められていますが、協議会として積極的に関わっていきたいと思っています。また、消費者への情報提供や、リテラシーの向上を図るために、私たちがどのように関わっていくのかということも課題です。
――機能性表示食品の公正競争規約の現状はいかがでしょうか。
橋本 機能性表示食品の公正競争規約を作ることの意義、業界団体共通の認識を整理する必要があり、動きがいったん止まっておりました。まだ完全ではありませんが、ある程度その方向性が見えてきたことで再度動き始めました。もう1つ、広告や表示については規約の原案が出来上がりましたが、不実証広告の規制の絡みがあります。広告についての規約をつくる際に、ある程度科学的根拠についての考え方も整理されましたので、そこから少し進展したという状況です。少し時間はかかりましたが、作成と同時に発信を行いながら進めていきます。時間が優先ではなく、価値観の共有が重要ですので慎重に進めていきます。
――ありがとうございました。
【聞き手・文:藤田 勇一】