アニマルウェルフェアって何? めざす会、第5回情報交換会で課題を検証
みどりの食料システム戦略を実現するための法制度「みどりの食料システム法」が、2022年7月1日に施行されたのを受けて農林水産省は15日、環境負荷の低減に取り組む計画を認定し、税制・融資などの支援措置を受けるための認定制度の運用を開始した。同戦略の中間取りまとめに関するパブリックコメントにおいて農水省は、「家畜を快適な環境下で飼育することにより、家畜のストレスや疾病を減らす取組であるアニマルウェルフェアの推進を図っている」と明記している。
食の信頼向上をめざす会(唐木英明代表)は16日、「アニマルウェルフェア」をテーマに、第5回情報交換会をオンラインで開催した。
㈱アニマル・メディア社の岩田寛史氏、エフコープ・品質保証推進スタッフの井ノ上誠氏、ファロスファーム㈱の竹延哲治氏の3者が、それぞれの立場からアニマルウェルフェアの歴史を踏まえながら、世界の潮流とその実情、日本の畜産会が直面している諸課題について展望した。
アニマルウェルフェアとは、「動物が生活および死亡する環境と関連する動物の身体的および心理的状態」(国際獣疫事務局/OIE)のことで、動物福祉の観点から、①飢え、渇きおよび栄養不良からの自由(餌や水の適正な給与)、②恐怖および苦悩からの自由(家畜の適切な取り扱い)、③物理的および熱の不快からの自由(暑熱・寒冷対策)、④苦痛、障害および疾病からの自由(疾病予防、適切な治療)、⑤通常の行動様式を発現する自由(行動制限の解除)――が提言されている。つまり、飼育動物の「飢餓」、「恐怖」、「不快」、「疾病」、「不自由」の5つを制限することを禁止し、家畜の飼育方法の改善を求めているのである。
例えば、オスの臭いを防ぐための去勢、感染症を防ぐための断尾や歯切りなどの実施において、極力、獣医師の指導の下、鎮痛剤や麻酔薬を用いて苦痛を取り除くなどの処置である。
食の信頼向上をめざす会の唐木代表は、アニマルウェルフェアが抱える問題点を次のとおり整理している。
・ OIEは科学を基礎にして、世界各国で実施可能な指針を示し、日本はこれに基づいて対応を行っている。
・ 他方、肉食そのものを否定するような急進的な内外の愛護団体はOIE指針では飽き足らず、知名度が高い生産企業に潜り込むなどの手段で内部の極端な画像などを入手して糾弾し、対応を強要している例もあるようだ(全く同じ構図が半世紀前の動物実験反対運動でも見られた)。
・ 国内においても、日本ハムが妊娠母豚のストール飼い(囲いでの飼育)を2030年度中に止めると宣言したが、その背景には、愛護団体が同社本社がある大崎駅コンコースで宣伝活動を続けた影響もあると考えられる。同社は日本で最大の豚の生産企業であり、その後、商社系の養豚企業は相次いで同様の方針を公表している。
・ アニマルウェルフェアは生産性の改善にもつながるので業界も前向きに対応しているが、施設改変や飼養面積の拡大などで相当の経費が生じるため、国内養豚が維持してきた50%自給はほぼ不可能になる。また、飼料はじめ生産経費の増加を末端価格に転嫁できない状況がさらに悪化すると予想される。
・ 科学に基づく合理的な対策は、生産性の向上にも動物愛護にも役立つのだが、一部の人たちが組織の力で感情的な対策を要求し、業界を圧迫することが本当に消費者のためになるのか、真剣に検討すべき時である。
登壇した3氏は、「欧州アニマルウェルフェアと既存畜産のギャップ」(磐田氏)、「アニマルウェルフェアは畜産業の危機か?」(井ノ上氏)、「一人の養豚経営者が捉えるアニマルウェルフェアと産業としての課題」(竹延氏)と題して、畜産業界の現実と課題を身近な立場から分かりやすく分析・検証した。
【田代 宏】
(冒頭の写真:本文とは直接の関係はありません)