アスリートの安全のために正しいアンチ・ドーピング教育を(前)
(株)DNSは9月、アパレル企業(株)ドームのDNS事業を引き継ぐかたちで発足した。性格が異なるアパレル事業とサプリメント事業を分けることで、よりスポーツサプリに特化することで業務の生産性をアップする。同社執行役員の青柳清治氏にアンチ・ドーピング認証について話を聞いた。
<JADAを脱会、インフォームドチョイス認証へ>
――これまでのアンチ・ドーピング認証に対する取り組みについてお聞かせください。
青柳 世界アンチ・ドーピング機関(WADA)が設立されたのが1999年です。この時からドーピングの取り締まりも国際オリンピック委員会(IOC)からWADAへ移管しました。その後、2001年に日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が設立され、ドーピング検査や教育・啓蒙活動などを統括する一方、WADAの定める禁止リストに抵触しないサプリメントの認証事業を開始しました。
――当初はドームも参加していましたが、後に脱会しましたね。
青柳 JADAの認証事業はいくつかの問題を抱えていました。まず、「サプリメントの認証を行うのは第三者機関であるべき」という原則に反していました。また、WADAではアスリートの尿や血液の分析だけを行い、サプリメントの認証は行っていませんし、やるべきではないという考えで、世界各国のアンチ・ドーピング機関が同様の考えを示しています。その後、JADAも19年3月末日付でJADA認証を終了しました。
――ドームはそれ以前にJADA認証に異議を唱えて脱会し、新たに国内でインフォームドチョイス認証の立ち上げに尽力しました。
青柳 JADAのサプリメント認証に関わりたくないという思いから、海外の認証プログラムを探すなかで、LGC(英国)が実施しているインフォームドチョイス認証が最適だと考えました。LGCも最初は日本のマーケットには興味がないということでしたが、説得を重ねるうちに了承してくれました。
――ほかにもNSF(米国)、BSCG(米国)、Colonge List(独)、HASTA(豪)などが認証プログラムを行っていますが、その中でLGCが最も良いと判断したのですか?
青柳 そうです。欧州でも米国でも名の通った組織ですし、友人がアメリカの某有名サプリメント会社に勤務していて、その説明を詳しく聞いた上で最終的に判断しました。LGCは、リアルタイムで問題になっている禁止物質を優先的に分析しているのと、公表していない最近のトレンドにある50くらいの禁止物質をモニタリングしています。世界のネットワークを駆使して集めている情報をベースに、今問題になっている成分を分析しています。
――JADAは昨年、「スポーツにおけるサプリメントの製品情報公開の枠組みに関するガイドライン」を公表しました。
青柳 ガイドラインは「サプリメント認証枠組み検証有識者会議」で議論してまとめました。
作成当時、ガイドラインに記載のある「製品分析において対象とする項目(物質)の範囲」とあるのは、WADAによる最新の違反統計に基づいたものなのですが、そのデータは2年前のデータであって、陽性になった禁止物質の中には今日現在は陰性のものもあります。逆に2年前は陽性事例が少なくても、最近では増えている禁止物質もあります。ガイドラインでは「禁止表の各区分について、それぞれの上位50%の物質を一時的対象範囲として、一時的対象範囲のうちの60%を下らない範囲とし、この範囲について分析を行う」(GL3.2)とあります。しかし、2年前の古いデータをベースにして、そのトップ30%(50%x60%)の物質のみを対象と定めているので、最近のトレンドになっている禁止物質を見逃す懸念があります。日本でもうっかりドーピングの被害者が出ている合法ステロイドなどが良い例です。
LGC(英国)とNSF(米国)、BSCG(米国)はアンチドーピングコミュニティーとして、情報を分かち合っていますが、その中に日本は入っていないため、なかなかグローバルインテリジェンスが入って来ないというのが実情ですね。
<インフォームドチョイス認証はSNDJのウェブサイトで公開>
――ガイドラインにも問題があると?
青柳 技術的な限界はありますね。「新規に参画する製品分析機関については、試験所の技術能力を証明する手段の1つとして、試験所・校正機関の認定であるISO/IEC17025の認定を取得することが望ましい」(GL3.6)とあるのも今後の大きな課題です。そもそもISO/IEC17025は分析機関が出す数字(分析結果)の信頼性を担保するものですから、ISO/IEC17025認定は「望ましい」ではなく、「必須」とあるべきです。また、年に1回分析すればよいとしている点も問題です。
――ガイドラインは情報公開の体制について言及しています。
青柳 「情報を公開するサイトの運営主体は中立的な立場の組織であることが望ましい」(GL4.2)とありますが、現在公開されている「アンチ・ドーピングのためのスポーツサプリメント製品情報公開サイト」は製品分析を行っている当事者である(公財)日本分析センターが公開、運営しているサイトです。中立性については疑問があります。
――現在、大塚製薬(株)、森永製菓(株)、味の素(株)の3社の製品だけが公開されていますが、インフォームドチョイス認証の取得製品は同サイトで公開しないのですか?
青柳 インフォームドチョイス認証の製品は、第三者である(一社)日本スポーツ栄養協会(SNDJ)のサイトで公開されています。その他、BSCGの認証を受けた製品も掲載されていますし、今後はインフォームドスポーツ認証を受けた製品もリスト化されていきます。アスリートや栄養士が情報を得やすいサイトで、万全なアンチ・ドーピング対策をした認証製品を閲覧できます。「スポーツサプリメント製品情報公開サイト」はあくまでもガイドラインに則って作られた製品を紹介しているだけで、このサイトはインフォームドチョイスとは無関係です。
(つづく)
(冒頭の写真:青柳氏、記事中の画像:インフォームドスポーツ認証のロゴマーク)
(聞き手・文:田代 宏)
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