これでいいのか?日本の健康食品制度(2) 【座談会】定義のない健康食品、海外との違い
日本の健康食品には法令がない
唐木 皆さんが共通して指摘しているのは、これは企業が一生懸命やらなくちゃいけない問題なんだけれども、国の関与が欲しいよねという問題だと思います。ではなぜ国の関与がないのか。これについては、健康食品についての法令がないということも問題になるのでしょう。ではなぜ法令がないのか、その辺の問題も含めてご意見をお願いします。
法律の建付けがないと規制ができない
武田 まずこの改正通知が出るまでは、「保健機能食品」と「いわゆる健康食品」という枠組みだったと思うのですが、改正通知はその2つを合わせて「いわゆる健康食品」ということにした。保健機能食品が「いわゆる健康食品」で、元々のいわゆる健康食品が「その他のいわゆる健康食品」ということなので、健康食品の定義というものがなかなか難しいなと思います。
先ほど東アジアだけがサプリメントの法的な定義がないと申し上げましたけれど、アメリカもEUも当然ありますし、ASEAN諸国もあります。それぞれ、ダイエタリーサプリメント、フードサプリメント、ヘルスサプリメントと呼び方こそ違いますが、あくまで食事を補完するものという位置づけで定義をすることによって、一般食品と分けるということができていて、そのサプリに関してはGMP義務化という法律で規定しているわけです。ですからやはり法律の建付けがないと規制はできないということだと思います。
サプリメントの制度化は必要
大曲 サプリメントの制度化というのは、個人的には必要じゃないかと思っているのです。これは長年、品質関連の仕事をやってきている身としては、細かな点で判断がしにくいような問題というのが割とあります。そこが1つの制度、法律というものがバシッと決まってくれると、判断がしやすくなる。そこで国の関与というのが必要になると思います。
ただ、法制化ということに関しては課題もあると思います。1つは、先ほどからも話が出ていますけど、健康食品の定義という点、それから範囲ですね。この辺が曖昧だというのと、もう1つはもうすでに保健機能食品制度が運用されており、そこを無視するわけにはいかないので、厚労省の食品衛生基準行政が4月以降に消費者庁に移行した後に、行政とともにこういう課題解決に向けて制度化の検討というのが必要ではないでしょうか。
まずは物の定義、事業者の定義を法令で規定
原 メイド・イン・ジャパンの優れた国産健康食品を海外に輸出する際、輸出先から(国の)証明を求められるという事業者の声はよく聞きます。国によっては日本で運用されている民間認証の健康食品GMPは受け入れ国側として認められないという話も聞きます。ここは行政としても、業界団体としても、しっかり対応していく必要があると思います。
各国を見ても、例えばASEANではヘルスサプリメント法など、各国がすでに連携して、法令に基づいた共通の枠組みで事業活動をやっています。日本の場合、独自では非常に良い制度や指針がありますが、それが、海外とうまく親和性が取れていないというところは、日本のモノ作りにおいても著しい損失だと思います。健康食品を定義する上においても、健康食品の製造事業者、それから販売会社の把握が重要になります。
例えばサプリメント製造業などの業種で縛ったり、他にも販売登録制度を導入したり、過去にもさまざまなやり方が議論の中で出たかと思います。まずはその物の定義、それから販売に関わる事業者の定義をしっかりと法令で定めて、それに対して、その後にGMPの義務化であったり、法的な枠組みであったりを決めていく必要がある。健康食品は玉石混交だとよく言われますけれども、やはりそういった中でしっかりと日本の産業として世界で認知される一歩にしなければならないと考えます。
唐木 健康食品GMPには国の関与がない。厚労省の通知指導、ガイドライン指導でしかできない最大の原因はやっぱり食薬区分。食品全体にGMPを義務化することはできないでしょう。
健康食品は食品であって、医薬品だったらできるけど食品はできないという、その中間に健康食品を位置付けるような新しい法律が必要だということは皆さんお考えだろうということはよく分かりました。この問題についてはまた最後のところで議論することにしまして、それでは次の問題に移りたいと思います。
「改正平成14年通知」、被害疑い情報への対応は?
唐木 健康被害疑い情報への対応についてですが、①情報収集対象食品に生鮮食品を除く保健機能食品が全部含まれていることをどう考えるか。それから②平成14年通知に基づき、厚労省に報告された健康被害情報というのは2年半で指定成分等含有食品を除くと20件程度と極めて少ないこと。この数字をどういう見るか。こんなに少ないからすでに安全じゃないかという考えもあるし、少な過ぎるから届け出が足りないのだというのが厚労省の考え方ですし、その辺どう考えるのかということです。
そして③事業者も健康被害疑い情報を厚労省に報告するべきかどうかという問題。今のところ健康被害疑い情報というのは体調を崩した人の診断をした医者が保健所に届けて厚労省に届けるというようなルートになっているけれども、事業者にそういう情報が来た時に厚労省に報告するのか、すべきなのか。その辺のところについてもお話を伺いたいと思います。
武田 まず保健機能食品が含まれるという件ですけれども、もともと機能性表示食品制度では健康被害情報の報告はガイドラインで義務付けられていますので、機能性表示食品制度には最初から含まれていると思います。一方、トクホは当然申請許可を受けているということなのですけれども、最もつかみどころがないのが栄養機能食品だと思います。これは自己認証制度ですから企業は自分で表示をして販売する。それに対する健康被害の報告義務がないということは不十分かなという部分がありますので、保健機能食品が含まれるということは非常にいいことだと個人的には思います。
後はこの報告数ですが、これは実は2013年に機能性表示食品制度が議論され始める頃に、アメリカの行政監査委員の出したレポートの中でダイエタリーサプリメントの健康被害情報が報告されたのですね。その件数が08年から11年にかけて6,307件という数ですので、ちょっとこの日本の数はかなり少ないなというふうに思います。レポートの内訳を見ていきますと、92件が死亡と、それから1,836件が入院ということでかなり重篤な事例が多かったですね。その因果関係などを見ていきますと、サプリメント同士の飲み合わせ、過剰摂取、医薬品との相互作用が一気に重篤化させてしまうという部分があったので、日本の消費者はそのあたりしっかり使うことができているからこの程度で済んでいるのかなという部分もあると思います。だから消費者のリテラシーの問題もここにあるのかなと思います。
とにかく疑わしきも全て報告しなさいというのが基本的な考えですけども、なかなか日本では因果関係がないものについては報告まで至らないという例も水面下ではあるのではないか。もっと報告しやすいような状況にしてあげればさらに増えるのではないかと思います。事業者は風評被害を一番気にすると思いますので、そこをどうにかして国が守ってあげるぐらいのところがあっていいのかなと思います。
健康被害情報、アメリカでは疑いあれば届出
唐木 アメリカで届出件数が多いというのは、届出のやり方が違う。日本は医者が確証がある時にしか届けないが、アメリカでは疑いがあったら届けなくてはいけないということになっているということですね。
武田 重篤な有害事象は、15営業日以内にFDAに報告しなければなりません。そして、報告した重篤な有害事象について、最初の報告から1年以内に得られた更新情報は全て報告することになっています。重要な点は、自発的にFDAに報告された有害事象は因果関係を認めるものではない、とされている点です。その辺り報告しやすいようなルール化ができているのだろうと思います。
唐木 仕組みをちゃんと作らなくちゃならないということですね。
武田 これも機能性表示食品の検証事業で健康被害情報の報告についても調べていましたが、やはり報告しづらいという意見も多かったですね。事業者も少々ハードルがあるという。
唐木 そうですね。それからアメリカの場合は死亡事故が非常に多かったということですが、医薬品類似のものが入っていたとか日本では考えられないような強いものが入っていたということがありますね。
武田 はい、おっしゃるとおりです。
唐木 数だけでは言えないけれども、やっぱりアメリカの数の方が信頼性が高いのかもしれない。それを裏付ける証拠が、日本の食中毒統計、これも厚労省がやっているのですが、年間3万人前後が食中毒にかかっている。ところが、厚労省の研究では、3万人という数は実態の500分の1から1000分の1だということが分かった。というのは、我々は体調がおかしいなと思って医者に行く。医者は変なもの食べたのでしょうと言うくらいで終わってしまい、保健所に届けない。数人が同じ場所で同じものを食べて、同じ症状が起こった時に初めて保健所に届ける。届けるのは面倒なので、500分の1から1000分の1になってしまう。健康食品も同じことになっている疑いはある。そういう意味では武田さんがおっしゃるように、もう少し届けやすいシステムにする。もう1つは風評被害をどうやって防ぐか。それは今でも企業の名前なんかは原則公表しないことになっています。
武田 そうですね。
(つづく)
【文・構成:田代 宏】
(冒頭の写真:左から原、大曲、唐木、武田の4氏)
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