これが第三者による外部評価だ! 【機能性表示食品特集】私はこう評価する
日本獣医生命科学大学名誉教授 ASCON(アスコン)科学者委員会委員長 鈴木 勝士 氏
事業者には大きなメリット
機能性表示食品制度の評価すべき最大の点は、一般の健康食品と区別した点だろう。この制度では、届出企業の自主的な申請が、届出ガイドラインに従ってさえいれば形式的な審査だけで消費者庁のホームページで公開される。この点は、特定保健用食品(トクホ)とは大きく違う。比較的簡便かつ迅速に公開されるので、企業にとってはメリットが大きいだろう。しかもその要件として、機能性関与成分に関する論文が一報あれば認められるというのは魅力だろうと思う。
消費者にとっては良く分からない制度
消費者にとっては、何がメリットかという点ではよく分からない。機能性表示食品は健康な成人に対する健康の維持、疾病の予防にかかわる機能を持った食品だという点がメリットなのだろう。これは、治療のための薬品ではないが、誤解すると、例えば、加齢により低下した機能が、機能性表示食品によって回復するかのような印象を消費者は持つかもしれない。
製品にはサプリメント様加工品、その他の加工品、生鮮食品があり、機能性評価方法も、最終製品での人臨床試験、最終製品での研究レビュー、機能性関与成分での研究レビューがある。トクホと同様な最終製品での試験がやられていて、専門家が内容を審査するのであれば、また、過剰摂取の有害性、混在する各種成分同士の相互作用などについて、情報が十分にあれば、提唱されている機能性の信頼性は高まるだろう。機能性表示食品制度ではこれらの点について、「食品」だから大丈夫という形で基準を緩めているようである。ただ、いわゆる「健康食品」と一線を画した点は、評価すべきと思っている。
統計の原則を無視した届出も
この制度は届出者の自主的な届出を、消費者庁が形式審査し、同庁のホームページに公表する。その後の諸問題については届出者の責任で対処するという点で、届出者の責任が大きい制度である。専門家が内容を審査しているわけではないのに、一旦、監督官庁によって公開されると、「認可」されたような錯覚が生じるのだろう。根拠に対する情報の更新(否定的も肯定的も含め)など、持続的な自己評価の継続を怠る可能性が高いと危惧する。制度の健全な維持は、届出企業の自主的な責任に委ねられているという認識を広く行きわたらせる必要を感じる。また、消費者もこの認識が希薄なようだ。これは、届出資料が消費者にとって分かりにくいことに起因すると思う。
継続的な外部評価が必須
前述のように、機能性表示食品制度は許諾制度ではなく、届出制度なので、商品についての継続的な外部評価が必要だという観点から、ASCONは「科学者委員会」を設置し、2017年から届出情報のチェックを行い、ホームページで公開している。商品の有効性について厳密に評価するには届け出内容では不十分。したがって、評価基準は商品の有効性の強さではなく、有効性を担保する証拠の強さとした。
評価には、基本的にはRCTで行う試験が最善だ。RCTには並行群間比較、交差比較などの種類があり、プライマリーエンドポイントも試験後値の群間比較以外に、試験前値と後値の差分や変換値などで比較する場合がある。基本、対照群と介入群の試験前値に有意差がないこと、事前に試験プロトコールに統計法などの宣言があること、適切な統計法が用いられていることが比較の原理である。
証拠の強さは、十分な根拠(A)、かなりの根拠(B)、ある程度の根拠(C)とする3段階評価を用いている。有効論文と無効論文が混在するときには、有効論文数とともに有効論文の比率を参考にし、50%以上はC、65%以上はB、75%以上はAとしている。被験者数、病者を含む場合、前後差(変化量)の群間差の扱いなど、問題が生じている。
痛みや疲労感などの主観的なパラメータを用いる統計の仕方、コンプライアンス確保のために必要な試験計画などでも、問題が生じることがある。とは言いながら、我々の評価事業に対する協力企業を増やす必要を痛感している。打開策として、機能性表示食品制度の本質が届出者の責任にかかっている点を認識していただき、そのことを広く周知していかなければならないと考えている。また、ASCONによる第1段階「外部評価」から第2段階「企業による自己評価」、さらに第3段階「自己評価と社会評価」に移行するために、評価作業自体の価値を認識してもらうための努力をしなければならない。
<プロフィール>
1945年生。東大農学部、獣医師(1967)、農学博士(1977)。米国NIEHS留学(1978)、日本獣医畜産大学教授(獣医生理学)、同名誉教授(2010~)。研究テーマは「生殖機能の内分泌的・傍分泌的および遺伝的調節」、「発生過程の遺伝的制御と環境因子による修飾」他。内閣府食品安全委員会、農薬等専門調査会委員(初代座長)他。