【新刊紹介】神山美智子弁護士 『食の安全と消費者の権利』(食の安全・監視市民委員会刊)
食の安全・監視市民委員会(佐野真理子・山浦康明共同代表)はこのほど、神山美智子著『食の安全と消費者の権利』(頒価500円)を刊行した。
著者は同委員会が発足した2003年から今年4月まで、同委員会の代表を務めてきた市民派弁護士。東京弁護士会の消費者委員会のメンバーと共に1983年、消費者の権利獲得を目的とした「食品安全基本法の提言」を発表するなど、食品安全基本法や食品安全委員会設立のための足がかりを作った。
また、著者の愛読するドイツの法学者イエ―リングの『権利の闘争』にある「権利の目標は平和、その手段は闘争」の記述どおり、食品の安全をめぐる消費者の権利獲得のために長年にわたり法廷で戦ってきた。食品だけではない。アナフィラキシーショックによる健康被害を出して全国規模で社会問題化した「茶のしずく石鹸」裁判では、東京弁護団の団長を務めている。
同書では、熊本産アサリの表示偽装問題が抱える消費者に分かりにくい食品表示基準の運用から、チッソが垂れ流したメチル水銀が原因となった水俣病、多くの乳児に被害を出した森永ヒ素ミルク中毒事件、カネカが製造したPCBが原因で多くの社会差別まで生んだカネミ油症事件など、硬直した行政システムに見捨てられ、今は忘れられかけた象徴的な事件について著者の豊富な経験に基づき、消費者行政生んだ矛盾を鋭く洞察している。
健康食品についても厳しい目を注いでいる。医薬品ではないにもかかわらず、いかにも症状が改善するかのような暗示を与える機能性表示食品の誇大表示を批判している。
また、10月4日に東京地裁が消費者庁に一部開示を求めた「機能性表示食品に係る機能性関与成分に関する検証事業報告書」をめぐる情報公開裁判にも言及。消費者庁が提出したのり弁だらけ(黒塗りだらけ)の資料も巻末に紹介。機能性表示食品は「消費者の知る権利」を阻害しているとして、同制度をめぐる現状を批判している。
同裁判の原告でもある佐野真理子氏は同書の「あとがき」でこう述べている。
「神山さんによると、消費者が提訴する日本の行政訴訟は『百戦百敗』だそうです。消費者訴訟の制度が整備されている米国では『百戦五十敗』ぐらいだとか。負けを承知で挑んでいく神山さんには、たとえ0.1%の勝機に過ぎなくとも、理不尽な現状を打開し、消費者のその後の勝利へとつなげる展望を感じさせてくれます」。
【目 次】
熊本産アサリ問題から見えるもの
消費者側を向いていない消費者庁の対応
水俣病、森永ヒ素ミルク事件
救済されないカネミ油症事件の被害者
健康食品について
機能性食品での情報公開裁判
消費者の権利
農薬残留基準設定取消訴訟
食品添加物の指定取消訴訟
【体 裁】
編集・発行:食の安全・監視市民委員会
頁数:59頁
頒価:500円
問い合わせ先:03-5155-4765