【寄稿】疑問だらけの「健康産業流通新聞」報道(前)
(公財)食の安全・安心財団 理事長 唐木 英明
(健康食品・サプリメントの健全な市場流通を考える会 会長)
3月7日付の健康産業流通新聞に「独善が進む第三者評価」と題する記事が掲載された。(一社)消費者市民社会をつくる会(ASCON)のASCON科学者委員会が行う機能性表示食品の第三者評価を「独善的」と批判した内容である。世の中の出来事を批評することはメディアの役割であるが、その内容が論理的でない場合には放置するわけにはいかない。第三者評価のサポーターとして、また1人の科学者として、機能性表示食品制度を消費者にとって有益なものとするために、今回の業界紙による報道を検証する。
<ASCON科学者委員会の指摘>
ASCON科学者委員会の指摘はASCONのホームページに掲載されているので、そちらを見ていただきたいのだが、ここでは筆者の解説を述べることにする。
まず、機能性表示食品の有効性の判断について、消費者庁の届出ガイドラインと質疑応答集によれば、「特定保健用食品申請に係る申請書作成上の留意事項」で規定する「ヒトを対象とした試験」と同等の試験を必要とし、機能性については、試験食摂取群とプラセボ食摂取群との群間比較の差(有意差検定)で評価する必要があり、前後比較での有意差のみでは有効性の根拠として不十分であるとしている。
その上でASCON科学者委員会が、届出資料の統計処理が届出ガイドラインに沿ったものであるかどうかを検証したところ、次の2つのケースが見られたと報告している。
第1は、届出ガイドライン通りの群間差があるもので、これは調査した製品の83%を占めた。
第2は、群間差が見られず、前後差のみが見られたものである。これは届出ガイドライン上、有効性の根拠にはならないことは明確なのだが、残念ながらこのようなデータを示して有効性を主張する製品が17%あった。
さらに、第2のケースを詳しく見ると、2種類に分けられた。1つ目のケース(A)は、単に試験群の前後比較だけを行ったものであり、全体の5%だった。次のケース(B)は、試験群の前後比較に加えてプラゼボ群の前後比較を行い、この2つの間に有意差があるという理由で有効性を主張するものである。このような製品が全体の12%を占めた。
A、Bの双方は、群間差がないが前後差はある点で一致しているが、Bのケースは前後比較について追加の統計処理をするだけで「無効」を「有効」と主張している。このような処置によって、群間差がないものがあることになってしまうのであれば、「試験食摂取群とプラセボ食摂取群との群間比較の差(有意差検定)で評価する必要がある」という届出ガイドラインは無視できることになる。
これを認めるのであれば、前後差はあるが群間差がないために「無効」と判断し、届出をあきらめた多くの製品も、同じ統計操作によって「有効」に変化する可能性があるなどの混乱を招きかねない。
ASCON科学者委員会は「前後差はあるが群間差がない」というケースについては、「前後比較での有意差のみでは有効性の根拠として不十分である」という届出ガイドラインに沿って、「無効」と判断している。筆者はこれを当然の判断と考える。
ASCONのホームページによれば、この件についてASCON科学者委員会は消費者庁と意見交換を行った結果、次のような見解を示している。
「トクホの審査などにおいて広く採用されている群間差がないにもかかわらず、プラセボの前後差と試験群の前後差を比較して『群間差あり』とする論文を根拠論文とすることは、大きな問題がある。しかし、これに関する明確な文言がガイドラインなどに見られないことから、これを直ちにガイドライン不適合と見なすことはしない。この件に関する最終的な判断については、今後の関係者の議論を見守ることとする。 同時に、これを科学者委員会の独自の判定項目に追加し、今後の検討活動を進めることとする」。
要するに、不適切な方法ではあるが、直ちに「ガイドライン違反」と断言すれば消費者団体などが問題視して騒動が起こりかねず、さらには機能性表示食品制度に対する批判も拡大しかねない。しかし、放置することも適切でないことから、当面はASCON科学者委員会の見解にとどめ、この問題の決着は今後の議論に任せるという極めて常識的な判断である。
(つづく)