「大麻」の医薬品利用に道~薬物あり方検討会
厚生労働省の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」(薬物あり方検討会)は11日、8回に及ぶ協議を終了し、今後の基本的な方向性を取りまとめた。
厚労省は今後、大麻成分を用いた医薬品利用の具体化に向けて、法改正に関わる提言も含めて「可能な限り速やかに取り組む」とした。
検討会は、G7参加国の中で唯一、大麻成分を用いた医薬品の使用が許可されていない日本において、比較的ゆるやかな効果を持つ大麻の医薬品としての活用に道を開こうとするもの。その見通しを探るために、大麻の栽培農家の現状、大麻犯罪の実状、大麻規制の現実と課題とその可能性など多岐にわたる論点について12人の関係者が議論を重ねてきた。
【解説】
すでにWNG会員向けのメールマガジンでも紹介したとおり、我が国の大麻取締法では第4条で大麻の医薬品利用を禁止している。また第1条で、「大麻とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く」と規定している。
つまり現行法では、大麻草の樹脂を除く成熟した茎と種子以外の部位は取り締まりの対象とされている。ただし、国際的な潮流としては「部位による規制」ではなく、「成分による規制」が主流となっている。
大麻成分のなかでも有害作用の強いTHCに対して、CBDは幻覚作用などを引き起こす有害性がないために、検討会では成分に着目した規制の見直しを行う方向性が示された。
これに対して一部の業界紙は早々と、厚労省が「部位規制を撤廃する方針を示した」かのような記事を掲げ、CBD取扱事業者のコメントを紹介。報道を目にした関係者から当社にも、CBD製品の動向について質問が寄せられた。これに対して厚労省は「あくまで規制の見直しに向けた検討段階にある」としている。今後、見直し案がそのまま進むかどうかは分からないし、法律を改正するとなれば別の手続きも必要となる。専門的なところでの議論を受けて実際にどうするかという話になることだろう。
取りまとめの報告書にも、「成分に着目した規制に見直す場合には、含有されるTHCの濃度に関する規制基準を設けることの要否も含め、引き続き検討する必要がある」と示されている。
いずれにせよ、厚労省は食品としてではなく、医薬品としての活用を目指しているという点を押さえておく必要がある。仮に医薬品としての承認申請を行うにしても、それ以前に、日本人で治験を行った際に効能効果が認められるかどうかも、厳密に言えば定かではない。その後、承認申請を行い、PMDAが審査をして、科学的なエビデンスに基づいて有効性と安全性が確認されることになるにしても、それまでに適正使用に向けた検討が綿密に重ねられることになるだろう。まだまだ時間はかかりそうだ。
会の最後に厚労省は「大麻由来医薬品」について次のように指摘し、マスコミにも釘を刺した。主旨を変えずに要約紹介する。
「(医薬品化に)あまり過剰な期待をしないでいただきたいし、過剰な期待を煽るようなことをやっていただきたたくない。なぜこんなことを言うかというと、早速と言うか、今回の検討会における議論と関連して週刊誌の記事が掲載された。大変驚いたのだが、海外には試験管の中でCBDを投与することでがん細胞が死んだとの報告や、がん患者にCBDを投与したら寿命が延びたという報告があると書いてある。大麻は、がんだけじゃなく睡眠障害のある方にも効果があるとコメントしている方々がいる。万能薬みたいな書かれ方をした記事を拝見して本当に驚いた。
第2回目の検討会で、がんにともなう嘔吐治療、疼痛緩和に効能効果があると紹介したが、がんそのものに効果がある大麻由来の医薬品というのは聞いたことがない。
こういった報道がされると、大麻由来医薬品を認めていくということがエビデンスのないものと、分かりやすく噛み砕いていうと『キノコでがんが治る』というようなうさん臭い話に集約されてしまい、やはり大麻由来の医薬品を認めることはよくないのではないか、やめておいた方がいいのではないかという議論が拡大しかねないことに大変懸念し、大変危惧している。
そもそも大麻由来以前に、特定製品についてがんの治療に効果があるかのように標ぼうして販売の広告を行うことは医薬品医療機器等法68条に基づく無承認無許可医薬品に該当するので法律違反になる。いずれにせよ、この検討会は、一刻も早く必要な薬剤を必要とする患者さんにお届けするようなことを裏切ることにならないように、まずは海外で承認されたような医薬品がいち早く日本でも上市されるようにしたいとの思いから進めてきた。傍聴しているマスコミの皆さんにも、見識に基づく正しい発信をお願いしたい」(事務局)
【田代 宏】