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「ゲノム編集フグ」報道をめぐり討論 第2回「食の信頼向上をめざす会」情報交換会で

 メディアはどうあるべきか、報道と科学、政治の関係について28日、食の信頼向上を目指す会(唐木英明代表)が今年2度目となる勉強会を開き意見交換をオンラインで行った。テーマは「メディアに対する危機感と疑問」。

京都新聞地方版が報道

 議論の発端は、京都府宮津市を拠点とする京都大学発ベンチャー企業の「リージョナルフィッシュ」がゲノム編集技術を使って開発したフグをめぐる京都新聞地方版の「ゲノム編集で開発のフグ、ふるさと納税返礼品に採用で波紋」という記事だった。

 ふるさと納税の返礼品となった同フグに対する市民の発言「食の安全性が確保されていないのに、十分な説明もないまま全国に発信してしまうと、みんなが『安全な食品だ』と思ってしまう」、「1匹でも(ゲノム編集された魚が)海に出てしまったら、大変なことになる」などというコメントを検証することなくそのまま発信したと思われる記事に疑問を抱いた産経新聞の平沢裕子記者が問題提起した。
 同氏は、「ゲノム編集食品は他の通常食品と同等に安全である事実や、フグが『陸上養殖』で海に出てしまうことはほぼないという事実については記事中でいっさい説明がなかた」とし、食品安全情報ネットワーク(FSIN)に相談。同ネットワークが京都同新聞社に対して「《宮津市ふるさと納税返礼品 ゲノム編集魚採用に波紋》に関する要望と意見」という質問書を送付した。その後、毎日新聞からも同様の記事が報じられたため、同新聞社にも要望書を送った。平沢記者によれば、毎日新聞からは回答があったが、京都新聞からは今も回答がないという。

 意見交換会では、元毎日新聞編集委員の小島正美氏が、①京都新聞や毎日新聞のような「 記事の構図 」の特徴は何か、②そうした構図は変えられるのか、③新聞の媒体によって党派的バイアスが明確になってきたが、その背景には何があるのか、④新聞の分断対立はさまざまなテーマで見られるが、それはよいことか悪いことか。記者と社と読者層の一体化、⑤記者はどこまで自由 なのか。社の壁を超えられるのか、⑥メディアの裏には専門家同士、政治家同士の争いがあるのでは、⑦新聞の凋落の原因は何か。今後、復活は期待できるのか――という7つのテーマに絞って持論を展開した。

 議論は、科学とメディア、メディアと世論、科学と政治の問題にまで発展した。科学はあくまで公正中立。そこに情が入り込む隙はないとする意見に対して、農薬大手モンサント(現バイエル)の除草剤『ラウンドアップ』を使用してがんになった被害者(原告)が起こした訴訟で、同社が敗訴した裁判を例に引き、「科学を支えているのは誰か。科学でいくら事実を言っても、裁判では負けたではないか」とする意見が出た。
 それに対して、「あれは陪審員裁判なので、原告の弁護士は徹底的に陪審員に感情論で訴えた。最後はラウンドアップががんを起こしたかどうかではなく、モンサントは危険性を知りながら、それを原告に伝えなかったということで懲罰的賠償を受けた。これは科学の論争であるように見えながら、実際は感情の戦いだった」と反論した。

答えを出すことのできない問題に巻き込まれるサイエンスの危うさ

 政治と科学の問題も議論した。新型コロナウイルス感染症に対する国の対応に科学の失墜を見たとする意見。欧米のように科学顧問が存在しない我が国の政治が、一連の混乱を生んだ原因ではないか。科学者の代表がファクトに基づいて発言していけば、政策にも反映させることができたのではないか。科学者にも政党色の付いた科学者がいるので、意見は対立するのではないか。政党が選んだ科学者同士がオープンな場で議論する必要がある。それを見て国民が判断すればよい。科学者が真剣に議論していないことが一番の問題とする意見に対して、「政治に巻き込まれ、1つの決断を下す必要性にサイエンスが迫られる時というのは、実験室のラボでやるようなサイエンス、エビデンスを1つずつ取り出して証明していくようなサイエンスではない。施策を決めなければならないので、ある意味、見切り発車ではないが、時には確率論を使わなければならないし、虫食い算の中を埋めながら、答えを出すことを要求されることもしばしば。いつも問題になるのはそこで、基礎科学のエビデンスが対立議論になることは非常に少ないと考える。エビデンスを出すことができないところにサイエンスが答えなければならない点が問題になる。BSEの時にはほとんどがそうだった。我われ自身がプリオンというものが分からなかった」という生々しい意見も。

 唐木代表は最後に、「新聞記者が間違っていると思うのは、政治・経済・社会の問題についてはいろいろな見方がある。それについては両論併記でもいいし、世論で動いてもいいし、党派性があっても構わない。ただ、科学の真実というのは世論や党派性で動くものではない。科学というものは検証の積み重ねである。1つの結果が出たらそれが本当かどうかを検証し、さらにそれを検証するという蓄積の結果が科学。その蓄積の結果、遺伝子組み換えの安全性は非常に高いという時に、1つだけ、その遺伝子組換えががんを起こしたというおかしなデータが出てくると、科学者は無視するが、メディアは一斉に飛びつく。そういう点で、メディアの方々にも科学とは何なのかをもう少し勉強してほしい。もちろんそれらのことを正しく伝える科学者の役割も重要だろう」とまとめた。

 めざす会からの報告として、宮津市のふるさと納税返礼品に新聞報道の影響があったかどうかについて同市は、「ふるさと納税のオフシーズンということもあり、落ち着いている」と回答しているとのことだった。

【田代 宏】

FSIN要望書

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