消費者庁VS大幸薬品(9) 高裁の軍配は消費者庁も、大幸の主張を一部認める
東京高等裁判所は、次のような決定を下している。
0.01ppmの二酸化塩素が一定時間後に菌を99%以上減少
「本件論文(甲第8号証)『Inactivation of Airborne Bacteria and Viruses Using Extremely Low Concentrations of Chlorine Dioxide Gas(極低濃度の二酸化塩素ガスを使用した浮遊細菌とウイルスの不活化)』(Pharmacology Original Paper)は、1審申立人の従業員等が参加して実施した試験の結果を報告、分析した査読付きのものであり、認定事実のとおり、おおむね、同論文が紹介する試験の条件下では、0.01ppmの二酸化塩素濃度の下で、黄色ブドウ球菌は60分後に、大腸菌ファージは3時間後にいずれも99%以上減少しており、これらは同一条件下での自然減衰よりも顕著な減少量であったため、人間の健康に悪影響を及ぼさない非常に低濃度の二酸化塩素ガスは、細菌やウイルスを不活化する強力な効果を引き出し、病院の手術室で生存可能な空中浮遊微生物の数を大幅に減らすことが示されたとするものであるところ、上記の試験方法や試験結果、その要約について特段不合理な点は見られない。
そうであれば、同論文は、その設定した試験条件化においては、0.01ppmの二酸化塩素が、黄色ブドウ球菌を60分後に、大腸菌ファージを3時間後にいずれも99%以上減少させるという効果を実証したという限りにおいて、二酸化塩素そのものの効果を客観的に実証した内容のものであると認めるのが相当である」(P53~54)
「クレベリン置き型150g」閉鎖試験空間下で効果あり
「他方、上記回答書によれば、附属書D(規定)“浮遊ウイルスに対する除去性能評価試験”の試験方法は、『空気清浄機の運転時と自然減衰(空気清浄機等を運転しない状態)における試験チャンバー内のウイルスの検出量を比較することで、除去性能を逆算する方法となっております。(フィルターで捕集した量を測る訳ではない。)
よって、製品側の仕様(フィルターの有無)によって区別しているものではございません。』というのであって、フィルターによる捕集量に着目した試験方法ではないことに鑑みれば、附属書Dの試験方法は、その『D.5 試験方法』において定める、試験チャンバ(20~32㎥)、温湿度条件(ファージを使用した場合は、初期温度23±5℃、初期湿度(50±10)%RH、インフルエンザウイルスを使用した場合は、初期温度20±5℃、初期湿度40%RH以下であり、試験中にこの範囲を超える場合は同条件に合わせる。)、操作方法及び測定方法に準拠して試験を行った場合におけるウイルス等を除去する効果そのものを科学的に実証するものと認めることは可能ということができ、その限りにおいて、関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法に当たると認めるのが相当である。
したがって、本件各外部報告書は、本件商品②(クレベリン置き型150g)について、初期温度23±5℃、初期相対湿度50±10%、かくはんファンを作動という条件に設定された閉鎖試験空間(20~32㎥)という限られた条件下においては、大腸菌ファージウイルスは3時間後に、黄色ブドウ球菌は、当初の菌量により2又は3時間後にいずれも99.9%以上減少させる効果を有することを実証したという限りにおいて、本件商品②の効果を客観的に実証した内容のものであると認めることが相当である。」(P57~58、文中一部略)
つまり、分かりやすく要約すれば、「JEM1467の附属書Dによる試験方法については、『試験チャンバ』、『温湿度条件』、『操作方法及び測定方法』に準拠して試験を行った場合におけるウイルスなどを除去する効果そのものを科学的に実証するものと認めることは可能ということができ、その限りにおいて、関連する学術界または産業界で一般的に認められた方法または関連分野の専門家多数が認める方法に当たる」とも判断できる。
JEM1467における実験に対して消費者庁は測定方法が不適切と指摘したが、「JEM1467は、国内の電機製品製造会社からの委員によって構成される空気清浄機技術専門委員会及び標準化委員会の審議を経て、総合技術政策委員会が改正した日本電機工業会の規格『甲21“家庭用空気清浄機”(1995年3月17日制定、2015年3月25日改訂(第4回))』であって、試験方法や測定方法についても科学的な見地から審議がされて設定されたものと推認されることに鑑みれば、1審相手方(消費者庁)の上記主張は採用することはできない」と、決定書は消費者庁の一部主張を退けているのである。すなわち、閉鎖試験空間における除菌効果に関しては、高裁はその一定の効果を認めたということになる。さらに、クレベリン置き型150gの閉鎖試験空間における効果についても「認めることが相当」としている。
【解説】
一定条件下における二酸化塩素の除菌効果、クレベリン置き型150gの効果については認めるに至った高裁決定だが、実生活空間における除菌効果を標ぼうした大幸薬品の表示については、あくまで景品表示法に抵触するとの判断が示された。景品表示法は、商品の性能や品質を一定程度担保していても、広告表示が性能や品質を少しでも上回ったという印象を処分行政庁に与えた段階で発動される。逆を言えば、広告表示に見合った性能や品質、今回の場合、リアル空間で、実際に数カ月の生活を送る中でのウイルスの除菌効果を実証できるような試験が裏付けとして必要になるということだ。実生活といっても、2世帯家族や単身者などさまざまな家族形態がある。大人2人と子どもを交えた4人家族とでは、ドアの開閉の回数から空気の濃さや流れまで違ってくるし、家屋の構造次第で生活環境は多種多様に変化する。
「実生活空間における性能を表示するのであれば、景表法上、実生活空間で表示どおりの性能を有することを客観的に実証する必要があることは当然である。そして、実生活空間における効果・効能について、そもそもそれを評価するための客観的な評価方法が確立しておらず、適切な評価方法が存在しない又は実証することが困難であるのであれば、合理的根拠資料が存在しないということになるから、かかる資料が存在しない場合に、当該効果・効能を表示することを認めることはできない。しかるところ、このような場合に、当該効果・効能について、適切な評価方法が存在しないからといって、可能な範囲で評価を行えば足りるということにならないことは、原審相手方(消費者庁)抗告理由書44ページで述べたとおりである」(決定書より抜粋)とされる現状にあり、それでは再現性が可能な空間とは何か、というとてつもなく高い壁に突き当たってしまう。当然、「正直、実生活空間でどうやって試験するのか」(大幸薬品)という命題の前に再び立ち尽くすことになる。
(了)
【田代 宏】
(冒頭の写真:左から『クレベリン置き型』60gと150g)
関連記事:消費者庁VS大幸薬品(1)
消費者庁VS大幸薬品(2)
消費者庁VS大幸薬品(3)
消費者庁VS大幸薬品(4)
消費者庁VS大幸薬品(5)
消費者庁VS大幸薬品(6)
消費者庁VS大幸薬品(7)
消費者庁VS大幸薬品(8)
クレベリン訴訟、高裁が地裁決定覆す 「今後については白紙」(大幸薬品)