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消費者契約法、配慮義務へ転換 禁止中心から予防型へ制度設計を提示

 消費者庁は19日に開催した第5回「現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会ワーキンググループ(WG)」で、多様な脆弱性への対応を軸に制度設計の方向性を示した。従来の不当行為の禁止を中心とする枠組みから、消費者の意思決定環境を整える「配慮義務」を基軸とした予防型規律への転換を打ち出した。契約からの解放手段や扶養者への影響回避など3つの柱で整理し、制度の実効性や適用範囲について委員間で議論が交わされた。概念の明確化や水準設定などの課題も多く、今後の制度具体化が焦点となる。

 今回の議論は、これまでの1~4回の議論を踏まえた2巡目の出発点に位置付けられた。検討内容を大きく分けると、①事業者による配慮を促す仕組み、②脆弱性に乗じた契約からの解放手段、③扶養される者への影響の回避――という3つの柱から成る。消費者庁は、従来の「不当行為の禁止」を中心とした枠組みから、「望ましい行動を促す規律」へと軸足を移す方向性を明確にした。

配慮義務を中核に制度再設計

 配慮義務について、「消費者が適切に意思決定できる状態を確保するための規範」と位置付けた。特定の行為を禁止するのではなく、結果として消費者の判断環境が確保されているかを問う“状態規範”として整理した点が特徴だ。従来の消費者契約法が不当勧誘や不当条項の排除に重点を置いてきたのに対し、事前的な配慮を制度として組み込む発想である。

 消費者庁は、配慮義務の内容を2層構造で整理した。最低限守るべき基準(ミニマムスタンダード)として、消費者の判断を困難にしないことや、そのような状態に乗じないことを求めた。
 一方、望ましい対応(ベストプラクティス)として、判断を支援する行為や、契約内容が消費者の生活状況や財産状況に適合するよう配慮することを提示した。

 これに対し委員は、配慮義務の定義の明確化を求めた。複数の委員は「消費者の自律的意思決定を確保するための配慮」と明示すべきと指摘した。また、安全配慮義務や障害者差別解消法など既存制度との関係についても議論が及び、同程度の強い義務とすることには慎重な意見も示された。

 消費者庁は、配慮義務の適用場面について、契約締結時の勧誘を中心としつつ、契約の更新・変更・終了にも広げる方向を示した。とりわけデジタル取引やサブスクリプション契約の普及を踏まえ、更新場面の重要性が高まっていることを踏まえた考え方を示した。これまでの議論でも、契約の各過程に規律を拡張する必要性が指摘されており、今回はその流れを引き継ぐものとなった。また、配慮の対象について、消費者庁は本人に加え、配偶者や扶養親族など生活を共にする者も含める方向を示した。
他方、委員は対象範囲の拡大に伴う責任の不明確化を懸念し、家族を直接の保護対象とするのではなく、契約過程への関与機会を確保するかたちが適切ではないかと指摘した。

 配慮義務の水準についても議論が分かれた。消費者庁が示した「生活の現状を悪化させない」との基準に対し、委員は「厳しすぎる」と指摘し、「著しい」などの限定を付すべきとの意見が相次いだ。消費者の自己決定に伴う一定の不利益は許容されるべきとの認識が共有された。
 一方で、委員は「脆弱性に乗じる行為」については別次元の問題として整理すべきと指摘した。このような行為は配慮義務ではなく、明確な禁止規定として位置付けるべきとした。

契約からの解放手段を提示

 次に、消費者庁は第2の論点として、契約からの解放手段を提示した。消費者の意思決定が困難な状態にあり、かつ契約内容が生活に重大な影響を及ぼす場合を対象に、契約の拘束力から解放する仕組みを検討する。
 消費者庁は、解除権を中心とした制度設計を提示した。現行法では無効とするハードルが高いため、より柔軟な手段として解除権を活用する考えである。一方で、契約の一律無効については慎重な姿勢を示し、当面は民法による対応を基本とする方針を示した。

 対象範囲について、消費者庁は「生活の基盤となる財産を失う契約」を1つの基準として示したが、委員は「範囲が狭すぎる可能性がある」と指摘した。また、年齢や障害といった属性ではなく、状況に着目した規定とすることでスティグマを回避すべきとの意見も出された。
 さらに消費者庁は、予防的措置として第三者関与の仕組みも提示した。契約前に家族などへ連絡することでトラブルを防止する構想であるが、委員は実務上の負担や運用可能性について慎重な検討が必要と指摘した。

 第3の論点である扶養される者の保護について、消費者庁は配慮義務の中に生活維持への影響回避を組み込む方向を示した。契約内容が消費者の生活状況に適合することを求めることで、結果として家族の利益保護にもつながると説明した。ただし、対象範囲や具体的手法については今後の検討課題とした。

実効性確保と制度課題

 また、議論では制度の実効性確保も大きなテーマとなった。消費者庁は、行政処分ではなく、指針策定や助言、公表などを組み合わせた「ソフトな関与」を基本とする考えを示した。加えて、事業者の取組の可視化や、不法行為判断における参酌要素としての活用など、複層的な仕組みを検討する方針を示した。

 これに対し委員は、単なる参酌要素にとどまる場合は実効性が不十分となる可能性を指摘し、行政による勧告や公表の必要性を提起した。また、プラットフォーム事業者や決済事業者など、取引に関与する第三者の役割についても議論が及び、ベストプラクティスとしての関与を求める方向性が示された。

 今回のWG全体を通じて、消費者庁は従来の規制手法からの転換を明確にした。すなわち、「禁止中心」から「配慮中心」へ、「事後救済」から「予防」へと軸足を移すものである。第3回WGでも、行為規範と契約内容規範を組み合わせる新たな枠組みの必要性が議論されており、今回の整理はその具体化に向けた一歩といえる。
 ただし、配慮義務の導入自体には一定の方向性が共有されつつも、その概念の明確化、基準設定の適切な水準、民事・行政上の効果の整理、さらには第三者主体の関与の在り方など、多くの論点が残されていることが確認された。今後、消費者庁はこれらの論点を整理し、次回以降の議論に反映させる。

【田代 宏】

配布資料はこちら(消費者庁HPより)

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