新経済連盟・片岡委員が代替案提示 第6回ステマ広告検討会(後)
消費者庁が示した指定告示の条文案に関しては、(一社)新経済連盟の片岡康子委員以外は全員が賛成。指定告示の運用基準案については、広告であることの「表示」をどうするかなど、委員からいくつかの注文がつけられた。
新・告示案を提案
片岡委員は消費者庁の案に対して、独自に考案した「新たな告示案」および「運用基準の方向性案」を提示した。
同氏は、「今回のステマ(ステルスマーケティング)において何が誤認の対象なのか」を整理する必要があると指摘。
「誤認によって不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害する恐れがあるもの」について、(a)表示主体そのものなのか、(b)表示内容(評価や推奨)の第三者性なのか――の2通りに分類し、「事業者による推奨表示を第三者の表示と誤認させることに不当性があるのではないか」と主張した。
そして、表示が事業者のものであることが消費者に明らかである場合を除くとした上で、1.自己の供給する商品又は役務の取引について自ら推奨する表示であるにもかかわらず、当該表示が第三者による推奨であるかのように一般消費者に誤認させるもの、2.自己が表示内容を決定することができる第三者の表示において、当該第三者に自己の供給する商品又は役務の取引について推奨する表示をさせているにもかかわらず、当該表示が当該第三者による推奨であるかのように一般消費者に誤認させるもの(原文ママ)――という独自の告示案を示した。
新・運用基準案を提案
また、事務局の運用基準案に対して「大体のところが関係性とか、実態というマジックワードでフワッとしている」と疑問視。全てを明かにはできないまでも「第三者のように見せかけた(表示)という点に着目した場合として、「事業者から第三者への掲載の依頼」、「掲載する内容の依頼」、「第三者による作成・掲載の自主性」、「掲載を条件とした対価の支払いまたは掲載を条件とした経済的利益の提供」、「掲載を条件とはしていないが掲載に先立つ経済的利益の提供」、「掲載することで掲載後に経済的利益を得る可能性(経由購入があった場合のみの成功報酬や抽選による当選含む)」などの6つの具体的要素を紹介。これに対して、それぞれの度合いに応じた事例というものを示すべきではないかと、「第三者の自主性の有無」に焦点を絞り問題提起を行った。
例えば、事業者から第三者への記事の掲載依頼において具体的な指示があった場合は、自主性は「なし」。第三者の自主性に任せた記事の作成については「自主性が高い」などに分類し、それと要素とのかけ合わせによって、生じた事例の何たるかをレベルに応じて示すべきではないかとした。
掲載条件によって要素も度合いも変化するとし、経済的利益の有無によっても変わる。事務局資料にある「正常な商慣習を超えた取材活動の実体」という記述においても、度合いに応じたレベルがあると考えると述べた。
「事業者による推奨を第三者に表示させている」には該当しないと考えられる具体的な事例案として、「販売者が多数参加するアフィリエイトプログラムを利用し、アフィリエイターと販売者とが事前のコミュニケーションを行わず、アフィリエイターが自分で選んだ販売者の自分で選んだ商品を紹介するSNS投稿」などを挙げた。ただしこの場合は、経由購入などが期待される場合も例外としてあるとした。
また、「事業者による推奨を第三者に表示させている」に該当すると考えられる例として、「記事1本当たりの対価を設定し、具体的商品・役務を指定して、無償提供したうえで、推奨記事の掲載を依頼する行為」、「自社のアフィリエイターでもあるインフルエンサーに対し、SNSに使用体験を投稿してフォロワーに薦めてもらうことを条件として、定期的に商品や役務を無償提供する行為」、「自社のECサイトで商品を購入した消費者に対し、☆4つ以上の内容でレビューを投稿することを条件として商品代金を返還し、500円を支払う行為」などを挙げた。
このように同氏は、事業者の指示とインフルエンサーなどの第三者の自主性が複雑に絡み合う複数のケースを想定する必要があるとし、ステマ広告にもさまざまな形態があり、違法性にもレベル差があるということを示した。
6委員が反論へ
片岡委員の提案に対し、菊盛・寺田・壇・福永・早川・カライスコスの6委員と事務局が意見を述べた。概要は以下のとおり。
●菊盛委員
片岡委員の資料を拝見してすごく感じたのは、事業者の活動というのは多種多様で、販売促進の方法というのも多種多様。そういった活動を鑑みると、運用基準の中で、より規制の具体的な事例も、あるいは具体的な表示例というものを豊富に提示するということは重要と思う。
●寺田委員
元々当事業者寄りなので、片岡委員の話に合わせたいところだが、ちょっと賛同できかねる。というのが、対価とか経済的利益があれば、表現のあり方が(変わる)というのはあまり問題にならないのではないかと思う。例えば、有名人、芸能人であったり、アナウンサーであったり、こういう人が特に推奨ということをしなくても、服を身に着けるとか、何かを愛用しているというのを見せるだけで広告効果というのは非常に大きなものがある。何らかの対価とか、経済的利益を与えて服を着てくださいというだけで十分、広告効果を目的としてやっているというかたちになる。
やはりこれに関しては、何らかの表現をしなければいけないんだろうと思う。この部分に関して、典型的なのがテレビとか、映画の中でのプロダクトプレイスメントと言われるもの。番組提供されている企業のものしかその画面に映らないというかたちで(小道具などとして)そういうものを入れている場合、これ明らかに番組提供というかたちでの広告になっている。それから、衣装とかに関しても、(映画などの終わりに表示される)エンドロールのところで、衣装協力とか、そういうかたちで表現されると(海外では)法律で決まっている。日本の場合は決まってない。海外ではプロダクトプレイスメントにも、ほとんど規制が入っている。こういったのと同じような意味合いがあって、推奨する・しないというのはあまり関係がないだろうと思っている。
●壇委員
事業者が決定できるか否かという要件だが、事業者が決定しているかどうかというのは正直、消費者からは関係ない。消費者から見ると関係なくて、利益を提供している段階で好意的な記事を書くことが多い。
実際、某飲食店に関するやつとかだと、レビュアーとかにご馳走したりして、内容には触れないが、それでも書いてくださいということで、いいこと書いてもらうことがある。脱法が容易ということで、この要件を入れることについては反対。事業者が表示させるかどうかであればよくて、その内容を決定してるかどうかというのは要件には要らないと思う。
次に「当該第三者の推奨であるかのように誤認させる」という要件だが、これを入れてしまうと、結局はなりすまし型になってしまうので、インフルエンサー型は今回の規制対象外ということになる。これについては論外。
また、「当該第三者」の当該というのが重要で、これがインフルエンサーのことなのだというふうなご指摘いただいてそれを前提で改めて見ますと、この「当該第三者による推奨であるかのように一般消費者に誤認させる」というのはですね、これ例えば、利益を何かの対価、対価性、薄くても対価性がちょっとでもあれば、当該第三者による推奨であると認定できるのであれば、実質的な機能としては問題ないのですが、当該からここまで読み取るのは難しい。インフルエンサー型の問題というのは、第三者による推奨かどうかではなく、利益を得ている。要するに、全く公正な、要するに利害関係がないとかそういうものである、と誤信を与えてしまうところに問題があるので、この当該表示が当該第三者による推奨であるというのはこれハードルがちょっと高くなってしまうのではないかなと思う。ここについても、やはり私は相当ではないというふうに考えている。
●福永委員
新しい告示についての提案で「事業者に推奨表示を第三者の推奨と誤認させることに不当性があるというふうに考える」というところだが、推奨を載せてるということではなく、人気のある俳優とかタレントなどが商品を着て写真をアップしたりとか、そういうものを見るだけでも消費者は単純に憧れから同じものを買いたいというふうに思うことがあるので、推奨表示というところにこだわる必要はないと思う。
方向性案の中で「要素」と「度合い」ということで細かく分けてあるが、インフルエンサーというのは一般消費者であることも多いという話も先ほどから出ており、消費者の立場から言うと、あまり細かくすると、どれがいけないのと、非常に混乱してしまうと思う。なので、ここまで細かく分けるということについてはどうなのかなと思う。
そしてやはり、この度合いと要素で6項目に分けている表の中で、最後の3つについては結局、経済的利益を上げているというところは変わらない。それと自主性があるかということについては、ある程度利益の提供を受けるとか、後から見返りがあるということがあると、消費者というのは自主性が損なわれると思うので、経済的利益があるかどうかというようなことで一括りにして考えるのが分かりやすいのではないかと思う。
●早川委員
ご提案の全体としては反対だが、一部ごもっとも思うところがある。それはスライド2ページ(a)と(b)の区分だが、アメリカの連邦取引委員会の規制における発想としても、結局は商品に関して主張や意見などの推奨が表われていて、その信頼性を高めるということをアメリカの連邦取引委員会は問題にしている。突き詰めるならば、厳密にはこの(b)の発想になるんだろうと思う。
こういうものは、アメリカの連邦取引委員会の規制においては、この推奨と認定される閾値が非常に低くて、先ほど1つの例として、有名人が洋服を付けた写真をSNSにアップするというような例も出たけれども、そういったものもアメリカのFTCの基準ではこの推奨に当たる。そのような意味において、私自身もこの問題の本質は、厳密には、この(b)の点だろうと考えているが、実質的にこの(a)と(b)は相当部分が重なり合うと思う。
そうすると、規制の手法としては、事務局案のような条文にするということも非常に合理性があるものと考える。結局、アメリカでも、元となる法律の条文そのものは「欺瞞的行為」という非常に抽象的な文言になっているわけで、片岡委員が提案されたように、より条文を細かくすればするほど、脱法というか、その抜け穴ができてくるということは防ぎようがない。指定告示の条文の定め方としては、事務局案のようにするのが妥当なのだろうと私は考える。
●カライスコス委員
詳細な分析をいただき、非常に参考になった。時間的な制約もあるので1点だけ伺いたい。2ページのところで先ほども指摘のあった(a)(b)の表示主体が誤認の対象なのか、それとも表示内容が第三者性なのかというところだが、個人的には純粋に広告であることが示されていないことに関する誤認だと思っている。特にこの(b)を採用した場合には、例えば何か私がオンラインで番組をしていて、そこにその会社の社長さんを招待していろいろとその商品について語っていただくと。実際にはその関係性において、その会社にはスポンサーになっていただいてるというような場合に、第三者性ではなくて、視聴者から見た場合に、これは純粋に何か今関心が集まっている商品だから招待されてるのか、それとも、お金を払うというかたちでスポンサーになってるから招待されているのかという、その関連性であったり、結局はその広告であるにもかかわらず、それが一般的な番組であるかのように偽りの外観ができてるところが問題なのではないかと思っています。
●事務局(南課長)
お忙しいところ資料を作成いただきまして、事務局としてもお礼を申し上げたいと思う。大変議論が深まっており、感謝してるところ。
5ページの「新しい告示についての提案」は、景表法に関する実務家として、率直な感想を申し上げると、まず告示案の上の方の四角に事業者に表示主体性がある場合を前提に」と書かれているので、この表示主体性というところには、当然、いわゆるステマ、すなわち、この検討会で議論してきた「広告であるにもかかわらず、広告であることを隠す行為自体」も含むのだろうなということが前提になっていると理解した。
そうすると、端的に言って、もしこの告示で行った場合に、我が国においては「良いステマ」と「悪いステマ」があると、あくまで規制されるのは「悪いステマ」だということになってしまうのかなという感想を抱いた。
推奨しなければ良いステマで、推奨させる場合が悪いステマということになろうかと思うが、実務家的には推奨という概念は何だろうないうところがあり、元々景品表示法の2条4項に規定している定義において、表示とは「顧客を誘引するための手段である」と書かれている。顧客を誘引するための手段とはなんぞやということだが、基本的には事業者の主観を問わない。では顧客を誘引するためという要件を基礎付ける事情は何か。実務上は、当該事業者の商品サービスについての表示であること自体、これが顧客を誘引するための手段であるというふうに基礎づけられるので、その関係からしても、ちょっと推奨との違いが分かりづらいかなというところがあった。
後は、少し個人的に「へえそうなんだ」と思ったところは、最後の8ページで、推奨にも関わるのだろうが、星(☆)が4つ以上の内容でレビューを投稿したら推奨ですというふうに読めたが、星が3つとか2つの場合はなぜ推奨にならないのかなという感想を抱いた。
これらの意見に対する感想を片岡委員が述べた。
●片岡委員
推奨というところについて、私の感覚として持っていたのは「着用している」だとか「使用している」だとか、そういうことを示すものというのは推奨に当たるのではないかと思っている。1つ気になったものというと、例えば、アフィリエイト型の価格比較サイトのようなものをどう考えるかといった時に、もちろんそのタイプのアフィリエイトというのは事業者から何か、表示再生自体が否認されることもあると思っているのが、そういった場合の比較でどう考えるべきか疑問に思ったというところがある。
後は下げる表示について、第三者が書いたものかどうか分かりにくいという場合に、それは果たして不当表示になるのだろうかというところが気になった。
何かしら利益を得ていれば、それで表示主体性が認められるべきだという意見もいくつかあったと思うが、そうすると、メディアに対する招待券とかとの違いはどこにあるのかを明確にした上で、事業者がその予見可能性を高めることが必要になってくると思う。だとすると、なぜこの行為については表示が必要なくて、こちら必要になるんだろうというところを考えていくと、根本にあるその不当性というのをどこに見出して、事業者は何を気をつけたらいいのかというところが分かりやすくなると思った。
カライスコス先生の話については、第三者に表示をさせるといった時に、その第三者が誰になるのかというところが1つポイントになるのかなと思っており、私も先ほど話を聞き、聞いていて気付きがあり、そこは整理できてないなと思った。
今まで想定したのは、事業者自身が書く場合、あるいは事業者自身の媒体で書くような場合とは違う、別の誰かのところに誰かに書かせた場合に、その誰かが言っているように見えているが、でも実際は業者が書かせている、という場合を想定していたので、そういったテレビ番組でいうと、テレビ番組の制作者が居て、スポンサーが居て、そのスポンサーの息がかかったコメンテーターが居てという場合にどう考えるかということだと思うので、そこは私の方で整理はできていなかったので気付きになった。
メディアからの招待はどう考えるのかというものの他に、経済的利益を得る期待となると、やはりそのお友達紹介とか、そのTwitterによるキャンペーン投稿との違いをどこに見出すかというのは重要になってくるかなと思った。
「事務局案、これ以外に書きようがない」(中川座長)
「方向性が見えて来た」中川丈久座長は、案文の書き方はストレートでこれ以外に書きようがないと法律家としては思ったと述べた。「片岡委員の代替案のように、条文にない法律の言葉を使えば使うほど、またそこでいろいろと錯綜が起きてしまう。その副作用も考えると、確かに多くの委員が賛成されたが、告示案としてはこのようにしか書きようがないのかなというふうに感じている」と事務局案を推した。
そして次回以降の議論の準備として、片岡委員については、「事務局案だと、(事務局が示した告示案にある)このような表示の仕方だと事業者側として非常に困る。この条文だとこれが禁止されているが、これはビジネスとして正当な方法ではないか」そういう典型的な事例をいくつか提示し、それをたたき台にして議論することになった。
事務局に対しては、今回の検討会で示された意見を整理し、バージョンアップ版の条文案の提出を求めた。
第2部は、河野太郎大臣によるクリエイターのヒアリングが行われた。後半部分は非公開とされたが、冒頭部分のヒアリングでは、表示に対するクリエイターの知識や自覚が欠けていることが明らかとなった。
(了)
【田代 宏】
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