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広告表示差止請求事件を考察する ネットおかやまVSインシップ~消費者団体が2審も敗訴

 2020年2月19日、適格消費者団体(特非)消費者ネットおかやま(岡山市北区)が健康食品販売会社㈱インシップ(千葉県浦安市)を岡山地方裁判所に提訴した。訴状では、同社が販売している商品の広告が景品表示法によって禁止された優良誤認に当たると主張。その後、消費者ネットおかやまは1審、控訴審と敗訴。昨年12月19日、上告及び上告受理の申し立てを行った。本稿では、第1審(岡山地裁令和4年9月21日判決・令和2年(ワ)第144号)および控訴審(広島高裁岡山支部令和5年12月7日判決・令和4年(ネ)第191号)に関する紹介と考察を行う。

弁護士法人 淀屋橋・山上合同 弁護士 髙 芝元

広告差止請求事件の発端

 本件は、適格消費者団体である原告/控訴人「特定非営利活動法人消費者ネットおかやま」が、「ノコギリヤシエキス」という名称のサプリメント(以下「本件サプリ」と称する)に係る新聞広告(以下「本件広告」と称する)の表示について、本件サプリは医薬品として承認されていないにもかかわらず、本件広告において頻尿の改善という医薬品的な効能効果を表示していることなどが、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」と称する)30条1項1号(5条1号)所定の「商品…の内容について、実際のもの…よりも著しく有料であると誤認される表示」(以下「優良誤認表示」と称する)に当たると主張して、本件サプリを製造・販売し、本件広告の表示を行っている被告/被控訴人「株式会社インシップ」に対し、景表法30条1項1号に基づき、本件広告の表示の差止めを求める事案である(以下、1審を「本件1審」、控訴審を「本件控訴審」、1審及び控訴審を併せて「本件裁判例」と称する)。
 本稿では、まずもって本件裁判例を検討するに当たり、前提となる法的知識(適格消費者団体、優良誤認表示該当性に係る判断枠組み、不実証広告規制)を紹介し、その後、各当事者の主張や争点、判決のポイントについて触れた上で、実務上の留意点について考察したいと思う。なお、本件広告の表示の具体的内容は、次のとおりであった(1審判決の「前提事実(当事者間に争いがない事実又は後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)」より引用)。

適格消費者団体について

 適格消費者団体(全国に26団体ある)とは、不特定かつ多数の消費者の利益のために消費者契約法の規定による差止請求権を行使するのに必要な適格性を有する法人である消費者団体として第13条の定めるところにより内閣総理大臣の認定を受けた者(消費者契約法2条4号)であるところ、消費者契約法13条3項各号並びに「適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドライン」(消費者庁・平成19年2月16日制定、最新改訂令和5年5月30日)において、詳細な認定要件等が定められている。
 また、景表法30条1項において、「消費者契約法2条4項に規定する適格消費者団体は、事業者が不特定かつ多数の一般消費者に対して次の各号に掲げる行為を現に行い又は行うおそれがあるときは、当該事業者に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為が当該各号に規定する表示をしたものである旨の周知その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる」、同項1号において、「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると誤認される表示をすること。」と規定されている。本件裁判例で、原告は被告に対し、同条項を根拠として本件広告の表示の差止めを求めたものである。

景表法30条1項1号に係る判断枠組み

 本件裁判例における主な争点は、後記のとおり、本件広告の優良誤認表示該当性だが、景表法30条1項1号に係る判断枠組み(=優良誤認表示該当性に係る判断枠組み)については、「広告…の誇張の程度が一般に許容される限度を超えて一般消費者に誤認を与え、その誤認により顧客が誘引される程度のものである場合には、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあるものとして、「著しく優良であると誤認される表示」に当たるものと解するのが相当である。…そして、優良誤認表示に当たるか否かは、一般消費者が当該表示の内容全体から受ける印象や認識に基づいて判断すべきものと解される」と判示されている。

不実証広告規制について
 
 後記のとおり、本件控訴審にて、控訴人(本件1審原告)から、適格消費者団体による差止請求にも不実証広告規制(景表法7条2項)が妥当する旨の主張がなされている。
 この不実証広告規制とは、消費者庁長官において、優良誤認表示に該当するか否かを判断する必要がある場合には、期間を定めて、事業者に表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、事業者が求められた資料を期間内に提出しない場合や、提出された資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと認められない場合には、当該表示は、措置命令との関係では不当表示とみなされ、課徴金納付命令との関係では不当表示と推定されるという規制であり、本来的には規制側(行政側)が立証しなければならない優良誤認に関する立証責任を、被規制側(事業者側)に転換させるところに大きな意義を有している。

双方の主張

 本件1審において原告は、2つの観点から、本件広告の優良誤認表示該当性について主張した。

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<著者プロフィール>
●学 歴
2017(平成29)年  3月大阪大学大学院高等司法研究科(大阪大学法科大学院) 修了
2018(平成30)年  9月司法試験合格
2019(令和元)年  12月司法修習修了(第72期),弁護士登録(大阪弁護士会)
●主な所属団体
・在日コリアン弁護士協会(LAZAK)
・一般社団法人フードビジネスロイヤーズ協会(FBLA)
・全国薬機法医療法弁護士協会
●著作・論文
「中小企業における新型コロナウイルス感染症対策のための労務対応」(月刊「税理」2020年5月号別冊付録Ⅱ)ぎょうせい
「Q&A 感染症リスクと企業労務対応」ぎょうせい 2020年
「飲食店経営のトラブル相談Q&A」㈱民事法研究会 2021年
「知っておくべき改正薬機法における実務対応のポイント」Wellness Monthly Report 39号
「Q&A 会社のトラブル解決の手引き」(共著)新日本法規出版(2021年~)
「中小事業者もこれだけは押さえたい!! ハラスメント対策のポイント解説」
(税理士のための税務特化情報誌「旬刊 速報税理」2022年7月1日号)ぎょうせい
●主なセミナー
2021年 8月 全国薬機法医療法弁護士協会主催「いま弁護士に聞く改正薬機法(課徴金制度と広告規制の基礎)」
2021年11月 バリューコマース㈱主催
「敏腕弁護士たちが徹底解説 景表法、薬機法勉強会~基礎から課徴金制度対策までしっかり学ぼう」
2021年12月 ㈱テレビ東京、㈱メタップス、㈱メタップスペイメント、㈱東京海上日動パートナーズTOKIO共催
「-飲食店経営のための-ウィズコロナ時代における労務トラブル対応WEBセミナー」
2022年 5月 国薬機法医療法弁護士協会・㈱インタースペース共催
「薬機法&景表法徹底解説ウェビナー」
2022年10月 ㈱フォースリー主催
「広告規制の現状とコンプライアンス対応~アフィリエイト広告検討会報告書を踏まえて~」(オンラインセミナー)

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