ステマ規制へ、検討会の議論進む 第5回ステマ広告検討会(中)
ステマ広告検討会の事務局を務める消費者庁表示対策課の南雅晴課長は、検討会でこれまでに議論してきた検討事項を整理し、今後の視点について景品表示法の仕組みなども交えながら説明した。
まず、検討会の主な目的について述べた。
目的は、「広告であるにもかかわらず、広告であることを隠すこと自体を景品表示法(景表法)で規制すべきか否かである」(南課長)とし、「広告であることを明示しない投稿やクチコミは好感度が高い。逆もまた真なり」という複数の意見が第1回目の検討会(9月16日開催)で出されていることから、ステルスマーケティングは消費者の自主的合理的な商品選択の機会を阻害することになる。そのため「規制は必要という合意をすでに1回目の検討会で委員の方から得ている」と、大方の意見として規制の必要性が求められているとした。
具体的な規制のあり方として、景表法5条3号の指定告示に基づく規制の可能性について踏み込んだ説明を行った。優良誤認表示は5条1号、有利誤認表示は同2号による規制が可能だが、そのどちらでも規制できないものを3号で規制することができる。ただしこの場合、措置命令はできるが課徴金納付命令は行うことができない。
景表法5条3号独自の構成要件で機動的に対応
例えば、イタリア製であるにも関わらずフランス製と表示した。そのことだけで直ちに優良誤認とみなすことはできないが、原産国がどこであるかということが消費者の選択にとって重要な要素である場合もある。
A国製の商品にもかかわらず、表示上は別のB国の国旗やB国の文字が書いてある。こういう表示があるとすると、一般消費者はA国の製品であることが分からない。むしろB国の製品だと勘違いして商品を購入する可能性もある。そのような一般消費者の誤認を未然に防ぐために、補完的に告示で規制するという仕組みがある。
「優良誤認・有利誤認に該当しないものの他、商品・サービスの取引に関連する事項について、一般消費者に誤認される恐れがあるとして内閣総理大臣が指定するもので、基本的には法律上は商品の内容や商品の取引条件についての不当表示が法律で禁止されているが、行政がそれ以外のもの、一般消費者に誤認されるような恐れのあるものに対して機動的に対応できるように、いわゆる委任という形をとって告示で定められている」(南課長)と説明している。
規制の射程についても説明した。南課長は、「表示に広告の担い手としての記載がなければ規制できないかといえば、そうではない」とし、広告主ということが認定できれば規制は可能。実体として、商品やサービスを供給する事業者の表示であることが認定できれば規制できると、広告主の名前が無くても規制が可能であることを明らかにした。
実際に、消費者庁は2021年11月9日、豊胸サプリと偽ってインスタグラマーやアフィリエイターに商品を宣伝させていた2社に対して景品表示法違反(優良誤認)に基づく措置命令を下している。
ただこの場合、表示であることを認定できたとしても、不当表示であることが認定できなければ現行法では対応できない。その時に、優良誤認・有利誤認と認定できない表示を5条3号の指定告示で規制しようというのである。
広告とは表示の例示に過ぎない
「広告とは何か」について説明した。広告が何かについては、「不当景品類及び不当表示防止法第二条の規定により景品類及び表示を指定する件」(平成21年8月28日公正取引委員会告示第13号)に記載がある。第2項一号~四号に「商品」、「容器」、「包装」、「見本」、「チラシ」、「ポスター」、「新聞紙」、「雑誌」などとあり、2項五号に「情報処理の用に供する機器による広告その他の表示(インターネット、パソコン通信等によるものを含む。)」とある。ステマ広告はこれに該当するが、「ポイントは表示にある。広告は表示の例示に過ぎない。一般に言われている広告よりも(表示は)広い概念」(同)として捉えられている。したがって、「クチコミ」や「レビュー」も事業者が自己の供給する商品についての表示として行っているのであれば表示に該当する。
立法による規制か?現行法による規制か?
具体的な規制のあり方として、一般的・包括的な規制とせざるを得ないのではないかとし、➀「広告であるにもかかわらず、広告であることを隠すこと自体(商品又は役務について優良性や有利性の表示を行わない)は優良誤認表示や有利誤認表示と同等の行為といえるか」、②「優良誤認、有利誤認規制の補完・予防的で足りるとすれば、景品表示法5条3号の告示に新たに広告であるにもかかわらず広告であることを隠すことを指定するということが考えられる」――2つの考え方を示した。これはいわば、国会で時間をかけて新法を作るか、それとも現行法5条3号による指定でいくかという問題である。
その他、表示の範囲、運用基準の策定、他団体などとの連携の必要性にも言及した。この後、各委員が意見を述べた。
景表法7条2項は「憲法違反ではない」
今回の検討会で、憲法との関りについて南課長が言及したくだりがあるので参考までに紹介する。
景表法が規制する表示は営利的表現、つまり事業者が自己の供給する商品・サービスについて行う表示に限る。したがって商品・サービスの供給とは関係しない表現を規制するものではないため、不当表示の規制は「憲法違反に当たらない」(南課長)とした。
その根拠として、㈱だいにち堂(長野県安曇野市)と消費者庁が争った最高裁判決を例に説明した。
優良誤認表示を規制するための不実証広告規制7条2項(措置命令)では、優良誤認の疑いがあるときに事業者が表示の裏付けとなる根拠を出さないと、法律がその表示を不当表示とみなすという立証責任の転換が行われる。「これが憲法で保障されている表現の自由ないしは、その営業活動の自由を制限する違憲ではないか、そういったことが争われたが、目的は公共の福祉に合致するし、その手段も必要かつ合理的なものであるということで、違憲ではないとの判決が下された」としている。
事業者に対する事業活動の制約にはなるが、公共の福祉の観点から正当化されるという判示が行われた。「これは7条2項の話だが、7条2項は優良誤認を規制するためのものなので、当然、不当表示、優良誤認等も違憲ではないということが言えるかと思う」と述べている。
(つづく)
【田代 宏】
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