ステマ規制、課題別に委員の発言整理 第5回ステマ広告検討会(後)
最後に、事務局(消費者庁)が説明した「主な検討事項のこれまでの整理と今後の検討の視点」に基づいて各委員が意見を述べた。東京大学大学院教授の渡辺安虎委員は欠席した。
ステルスマーケティング(ステマ)に対する①規制の必要性については、委員全員がその必要性を認め、規制に向けて②具体的な規制のあり方、③規制対象となる表示の範囲(媒体)、④運用基準の必要性、⑤規制の実効性確保のための対応――など、それぞれの立場に立った意見が提示された。ウェルネスデイリーニュースでは、各委員の意見を課題別に要約、整理した。
事務局ではこれらの意見を元に、11月11日午後3時から、取りまとめに向けた論点整理と自由討議を予定している。
➀ステマ規制の必要性
●片岡康子委員(新経済連盟事務局政策部)
規制の必要性について、不正レビューやフェイクレビューなどの問題がかなり深刻になっているので、そこに対する規制というのは必要と思う。一方、先ほど檀委員の、利益提供取得型については幅がある。非表示に対する法規制というところが入ってきますので、法律でどこを禁止するかというところは限定的かつ明確にしてほしい。慎重に検討してほしい。
●カライスコス・アントニオス委員(京都大学大学院法学研究会准教授)
諸外国の現状に照らしても、一般的・包括的な規制とせざるを得ないし、そうでなければならない。これから技術的な進展などがあった場合にそれに対応することもできないし、消費者法の領域で問題になってる後追い型の立法という問題がステマ規制で生じてしまう。
●菊盛麻衣委員(立命館大学経営学部准教授)
ステルスは規制をするべきで、より広くステルスマーケティングを規制していくという意味で包括的な規制の方がいいと考える。
●壇俊光委員(北尻総合法律事務所所属弁護士)
最初にステルスマーケティングが出てから、類型としては大きく分けることができるが、いろいろな形が出てきている。それに対応することを考えると、ある程度幅のある規制が必要。新しく出てくるものに対してどう対応するかではなく、もう乗り遅れてしまっているので、どうやって追いつくかという観点から規制を考えていかなければならない。
●寺田眞治委員(一般社団法人日本情報経済社会推進協会 主席研究員)
包括的にステルスマーケティングが違法であるということを明確にすることは重要と思う。ただ、なぜ違法なのか、これが論理的に説明できないと問題になるだろう。ここが曖昧だと業者も消費者もリテラシーが高まらず、根本的な解決とはならない。広告表示があるかないかといった表面的なところで判断するような事態に陥らないようにすることが重要。
●西田公昭委員(立正大学心理学部教授)
基本的な方向性として、一般的・包括的な規制するということに賛成。
●早川雄一郎委員(立教大学法学部准教授)
総論的な方向としては、ステルス規制は必要。
●福永さつき委員(全国消費生活相談員協会)
規制が必要ということは大前提で、一般的・包括的な規制が望ましい。
●山本京輔委員(WOMーケティング協議会副理事長)
自主規制を何年もやってきたが、アウトサイダーには及ばない、自主規制の限界を感じているので、法規制には賛成の立場で検討会に参加している。
②具体的な規制のあり方
●片岡康子委員(新経済連盟事務局政策部)
予見可能性の担保が非常に重要だと思う。何を不当な表示と考えるのかということがわかる程度の条文が必要だろう。運用基準とその条文と合わせて、予見可能性が担保されることが重要であると思う。
不当表示の類型のところだが、気になるのが関係性の表示がされてない場合に不当表示と考えるという場合。関係性というのが景表法5条3号でいう「商品又は役務の取引」に関する事項に該当するのか、どこかのタイミングで説明してもらいたい。告示と言っても、今までの告示というのは結構具体的なものが出ている。それとの横並びのようなものが出せるのであれば告示という選択肢もありだと思う。
●カライスコス・アントニオス委員(京都大学大学院法学研究会准教授)
景表法第5条3号の指定告示が最も現実的な規制の手法。
●菊盛麻衣委員(立命館大学経営学部准教授)
景表法第5条3号告示に追加するのが現実的に妥当。
●壇俊光委員(北尻総合法律事務所所属弁護士)
景表法第5条3号告示については2017年にも検討している。今ではむしろこの方法で規制すべきとの確信に変わっている。
●寺田眞治委員(一般社団法人日本情報経済社会推進協会 主席研究員)
景表法第5条第3号で指定する方が一般的で包括的という視点で良いのではないか。ただし、現在の5条第3号では課徴金といった強いエンフォースメントがないので、今後検討する必要があるのではないかと思う。
●早川雄一郎委員(立教大学法学部准教授)
景表法第5条3号告示による規制は重要と考える。業界団体では、自主規制があるから法律が必要ないという議論もあるが、自主規制がきちんとした形で機能するのは法規制の裏付けがある場合だと思う。その点からもきちんとした規制を整備することは重要。
●福永さつき委員(全国消費生活相談員協会)
景表法第5条3号の指定告示に追加することで、インフルエンサー(一般消費者)にも、やってはいけないことなんだということの理解が深まるのではないか。プラットフォーマーも横行している不正レビューを削除しやすい状況になる。
●山本京輔委員(WOMマーケティング協議会副理事長)
景品表示法第5条3号指定告示が最速で可能な方法であるというのであれば、異論はないという立場。
③規制対象となる表示の範囲(媒体)
●片岡康子委員(新経済連盟事務局政策部)
消費者にとって、媒体馬インターネットかそれ以外かというのは関係がないところ。特に媒体を何かに限定したりする必要はないし、すべきでない。
●カライスコス・アントニオス委員(京都大学大学院法学研究会准教授)
諸外国でもそうだが、媒体によってセールスマーケティングの規制の内容、あるいは不公正な取引方法の規制の内容が異なるということの合理的な理由を見出すことはできない。特に制限、限定をしないというのが通常の考え方。もし限定を加えると、媒体間で不公平性が生じる。
●菊盛麻衣委員(立命館大学経営学部准教授)
インターネットの表示について規制対象とするということでいいのではないか。
●壇俊光委員(北尻総合法律事務所所属弁護士)
表示の範囲だが、これに関してはマスメディアとかは実は考えていなかった。特商法だと電気通信事業者が外れてしまうというのが、特商法を規制法にしなかった大きな理由だが、基本的にステルスマーケティングというのはいろいろな手法が出てきている。特定の業界を外すという方向でやるとまた回避されてしまう可能性が出てくるため、(媒体に)限定をつけない方がいいと思う。
●寺田眞治委員(一般社団法人日本情報経済社会推進協会 主席研究員)
喫緊に規制すべきはインターネットなので、ここに注力するということで実効性を高める方がいいかもしれない。だからといって他が許されるわけではないので、その点についてはしっかりと言及はしておく必要があると思う。本質的には全てのメディア、広告を対象とすべきだろうと思う。一方、すでに業界内で規律が機能しているようなところに規制をかけてもあまり意味がない。場合によってはむしろ萎縮するという悪影響が出るかもしれない。
●西田公昭委員(立正大学心理学部教授)
規制対象となる表示の範囲だが、消費者の視点に立つとインターネットとかマスメディアとかいう区別はあまりいらない。「公正とは何だ?」といった常識的な判断力が向上するという消費者教育的な側面にも影響するので、分かりやすさが賢い消費者を作り上げることに貢献する。予期せぬ運用上の問題が生じたら例外措置を作ればいい。
●早川雄一郎委員(立教大学法学部准教授)
広告主だけが規制対象となっているという点は将来の課題だろう。また、この規制対象ないし規制根拠をどのように見るのかという点との関係で、規制対象並びに規制根拠をどのような観点から把握するのかということについては検討する必要がある事柄ではないか。
●福永さつき委員(全国消費生活相談員協会)
相談現場ではネット通販の相談が約8割を占める。まずは急がれるのはインターネット上の広告かと思われる。後のメディアについては対象外とするのではなく、同様のことが起きれば後追いができるようにしておけばよい。
●山本京輔委員(WOMマーケティング協議会副理事長)
喫緊の課題としてデジタルインターネット上でのステマがあるという話があがっているのであれば、まずはこの検討会においてはインターネットに絞り込んで結論を出すというのが良い。また、これはあくまでもステルスマーケティングの規制であって、プロモーション規制とか企業の広報活動規制というふうに取られてしまっては絶対にいけないと思う。
④運用基準の必要性
●片岡康子委員(新経済連盟事務局政策部)
運用基準は絶対に必要。特にアフィリエイトの議論の中でも事業者側として感じていたのが、表示主体性の考え方というのが、やはりこの現代において第三者が作り出すコンテンツに対するその表示主体性の考え方はかなり今不透明になっているので、そこはきちんと議論をした上で分かりやすいを基準を作ってもらいたい。第三者、しかも一般消費者も含む第三者が自分で書いた、さらにその表示される場所が事業者の管理の及ばないSNSとかに書かれることがあるので、その管理の及ばない媒体で発信されるということを念頭に置いた上で、表示主体性をどういうふうに考えていくのか、というのは明らかにしてもらわないと予見可能性がないかなと思う。
●カライスコス・アントニオス委員(京都大学大学院法学研究会准教授)
予見可能性というものは非常に重要。運用基準などで具体例を示すなど、具体的な内容が分かりやすいようになるべく工夫をしなければならないのではないか。
●菊盛麻衣委員(立命館大学経営学部准教授)
表示の仕方について、細かく規制を設定しなくてもいい。人によっては広告と呼ばずに、「プロモーション」、「PR」、「アド」だったりという多様な表現を許容する必要はなく、認識率が高い「広告」というワーディングが表示としてよいと思う。
●壇俊光委員(北尻総合法律事務所所属弁護士)
運用基準に関してはガイドラインでやっていくべき。
●寺田眞治委員(一般社団法人日本情報経済社会推進協会 主席研究員)
ステルスマーケティングは新たな手法や抜け穴を見つけようと進化しているし、今後も進む。法規制だけでは追いつかないという前提で、業界団体や関係者が常に見直しを行い、自浄作用を高めることのできるような仕組みとする運用基準を考えていく必要がある。
●西田公昭委員(立正大学心理学部教授)
広告という特定の文言に固執する必要はないという意見もあるが、広告主の裁量権を与えすぎると、それは消費者には全く意味のわからない不明瞭な文言になることもある。ある程度幅を持たせてもいいなとは思うが、やはり何か縛りが必要じゃないかと思う。
●早川雄一郎委員(立教大学法学部准教授)
ガイドラインによる予定可能性の担保が重要。昨今では、規制というものが必ずしも行政当局だけによって行われるわけではなく、プラットフォームとか、事業者による自主的な規制が行われることもある。そういう文脈において、当局はどのような規制をしているのかが参考にされるということも多々あるように思われので、その意味でもガイドラインによる予見可能性の担保はより重要になってくる。
●福永さつき委員(全国消費生活相談員協会)
ストレスマーケティングとはならない表示の例などを示すことで、規制の運用の実行性を高めることが必要。消費者に、「この表示は広告」であると分かるようにすることが重要。どうしたら消費者に広告と分かるのかということだが、いろいろな話が今まで出てきているが、一番分かりやすいのは「これは広告です」ということシンプルな表示。その上で、商品の提供があったかなどの関係性が併せて表示されることもあっていいと思う。
●山本京輔委員(WOMマーケティング協議会副理事長)
どのように記載すれば「広告その他の表示」であるとするかについては、幅を持たせてもらわないと現場としても困る。消費者に分かりやすい表示というのは、必ずしも「広告」と書くことだけではないと思う。 Webの媒体の広告枠のところも一律にこの言葉しか使ってはならないというものでなく、ある程度媒体とか、さまざまな形の広告系のコンテンツなど、ある程度幅がないと、産業的な広がりというものが委縮しかねない。
⑤規制の実効性確保のための対応
●片岡康子委員(新経済連盟事務局政策部)
運用基準の内容にもよる。システムの改修が全体的に必要になったり、、周知認知してもらう期間など、施行までに十分な期間が必要。フェイクレビューのような明らかなものはすぐに規制しても全く問題ないと思うが、中身によるので、前向きに改善していけるようなやり方をしてほしい。また、ブローカーに対する法執行を積極的に行ってほしい。
●カライスコス・アントニオス委員(京都大学大学院法学研究会准教授)
インドの例などを見ると、インフルエンサーを集めて、ウェブサイトを作り、インフルエンサーが実はこういうのはステルスマーケティングに該当するのでやってはいけないということを自らアピール。他のインフルエンサーに対して啓蒙、教育を行っているような例もある。消費者教育の一環としてこの点に力を入れることも必要ではないか。
●菊盛麻衣委員(立命館大学経営学部准教授)
檀委員の意見に概ね賛同する。
●壇俊光委員(北尻総合法律事務所所属弁護士)
実効性確保に関してはいろいろ発言してきた。ただ、景表法が全て万全ではない。不実証広告の件、課徴金の件などは今後、考えていかなければならない問題で。ただファーストステップとして、皆さんの協力を得られるかたちにしていくのが重要。
●寺田眞治委員(一般社団法人日本情報経済社会推進協会 主席研究員)
ここはなかなかがやはり難しい。まず、全てのステークホルダーのリテラシーを高めることが必須。一方、で違法であることを知りつつ、バレなければいいという考え方、そもそもバレにくいため、こういう方策がどんどん考え出されるというのが次の展開だと思うので、こういう悪循環に陥らないようにするために何らかの監視、モニタリングを検討する必要がある。
●西田公昭委員(立正大学心理学部教授)
消費者への普及啓発、インフルエンサーへの周知活動、それから中小企業の広告主への周知。官民連携して対応、いずれも大事なので推進してほしい。
●早川雄一郎委員(立教大学法学部准教授)
景品表示法の現在の構造上、広告主だけが規制対象となっているという点での制約が将来の課題と考える。
●福永さつき委員(全国消費生活相談員協会)
消費者へのステルスマーケティング啓発、それは私ども協会もそうだし、消費生活センターでも早急に力を入れてやっていかなければいけない。それとともに、消費者庁などの通報窓口の拡充。調査権などの権限強化が必要。
中川座長が検討会の結論を示唆?
最後に、中川丈久座長(神戸大学大学院法学研究科教授)が以下のとおり、意見を述べたので要約して紹介する。
「ありがとうございました。私も意見を言うことになっているようですので、一委員としての意見を申し上げます。今まで出てこなかった観点について申し上げますが、私は行政法が専門ですので景品表示法の構造という観点から、この問題についてどういう結論になりそうかということを話したいと思います」。
日本の景表法もすでに包括的な禁止規定に
「カライスコス委員から説明のあったアメリカの話で、誤認惹起的な表現、あるいは欺罔的な表現というのは包括的に禁止されてるという紹介があったが、私は日本でもほぼそれに近いものになっているというふうに景表法の5条3号を読んでいる。こういう指定告示にするという行政機関に委任する。詳細を法律に書き切らずに委任するというのは2種類あり、一般的には特にひどいものだけ指定しなさいという場面と、それから、こういうものは全般的に全て網羅的に指定してくださいという2つの種類の委任立法がある。
5条3号は「一般消費者に誤認される恐れがあるとして指定するものである」という書き方だから、これは「誤認される恐れがあるものはすべからく指定しろ」という意味の委任立法と解するのが普通だ。つまり、誤認される恐れがあるものであって、特にその消費者の被害が大きいものみたいな、そういう限定した文言はないので、一般消費者に誤認される恐れがあるものは全て指定していきなさいというのが本来の委任の趣旨のはずである。
ところが、事情は分からないが、今、6つの類型しかないみたいで、指定告示が少し少なすぎるので、なんとなく、指定するのが大変なことじゃないかというイメージになっている。法律を見る限りは、誤認される恐れがある表示広告の表示については禁止してる。ただし1号2号のように、1個1個全部法律に書き切れないので、あとは行政庁の方で適宜、追加してくださいというだけの趣旨である」。
5条3号の指定告示で十分、今まで指定し忘れていただけ
「今回、第1回もやったように、ステルスマーケティングですね。景表法でいう「広告その他の表示」であるということを示さないことによって、本来、その表示が不当にポジティブな影響を消費者に与える。その結果、消費者の誤認をもたらしているということは第1回の検討会で示された経済学経営学の研究として示されたところ。これはもう、ステルスマーケティングが5条3号で禁止されているものだが、これまではなぜか指定されなかった。それだけの問題であるというふうに考えられます。ですので、あくまでも5条3号の条文に該当するようなものと言えるかというだけの話。だから、これが5条3号に基づいて指定されることについては当然の結論かなというふうに思う。
それでかつ、表示体制の問題においてその限界がどこまでなのかというのも、すでにある優良誤認とか取引誤認でも問題になっており、ステルスだから新たに問題にるという案件ではないということにも注意すべき。
日本の景表法は完全に包括的ではないが、かなり包括的な規制をしており、(ステルスの)不当表示について、それを今回いわば指定し忘れていたものを指定しているというようなことの問題かなというふうに考えている。したがって指定告示において行うということは当然の結論になるとの印象を持っている。
その際、事業者からすると非常に不安だというふうな発言もあったが、5条3号の消費者に誤認を与えるかどうかという規定が事業者にとって、それが分からない事業者がいるのかというところが私には分からない。素人ながら不思議で、むしろ優良誤認・有利誤認の方がよほど難しいんじゃないかと思う。広告その他の表示であることを隠すことによって消費者がもしかしたらもっとポジティブに捉えてくれるかなと、そういう期待をできるかどうか、その方が(違法性が)むしろ分かりやすいではないかなというふうに思う」。
媒体を限定する必要なし
「(媒体について)インターネットに限るかどうか。5条3号の構造からすると、限定する必要は全然ない。むしろ下手に限定すると、インターネット業界から、「古典的マスメディアとの関係で平等原則違反だ」と、ないしは「5条3号の委任の趣旨から逸脱している、なぜインターネットだけなんだ」というふうに言われかねない。限定すると、そういう法的な弱点も出てくる。
プラットフォーマーに対する協力要請は極めて重要だろう。義務付けしてもいいくらいだと思うが、それは別の話として、協力要請は非常に重要だと思う」。
以上
(了)
【田代 宏】
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